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図説金と銀の文化史 大英博物館 みんなのレビュー
- スーザン・ラニース (著), フィリパ・メリマン (著), 別宮 貞徳 (日本語版監修), 小川 昭子 (訳), 八坂 ありさ (訳)
- 税込価格:4,950円(45pt)
- 出版社:柊風舎
- 取扱開始日:2012/03/29
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紙の本
華やかさと慎ましさ
2012/01/30 21:39
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:想井兼人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は人びとが金と銀という物質といかに関わってきたかについて、大英博物館のコレクションをオールカラー写真で示しながらまとめている。鉱物や金属としての金や銀についても触れており、さらに工芸技法についても解説していて興味深い。
金や銀は古より様々な人びとを虜にしてきた。その背景には手に入りにくいこと、品質が落ちないこと(特に金)、比較的持ち運びしやすいこと、標準の純度が保証されること、そして加工しやすいことといった性質があるからだ。
加工しやすいという性質は重要で、紀元前より作られてきた様々な工芸品が今に伝わる。時の支配者や上流階級者は金や銀に魅せられ、自分の嗜好や宗教観などに沿った様々な工芸品を作らせてきた。細工師たちは都市近郊に住まい、彼らの欲求にこたえることで自らの地位を築き、さらに生活を成り立たせてきた。支配者が変わる時、新たな権力者は前の支配者の金・銀製品を押収し、自らの好みに作り変えさせた。そして、細工師たちは自らの腕次第で、権力者が変わっても生き延びることができた。
さらに上流階級は奢侈禁止令を出すことで、金や銀の稀少的価値を高め、自らの独占欲と権威欲を満たしてきたともいう。金属的な稀少性というだけに留まらず、人為的な価値の釣り上げが行われてきたということもできよう。
金と銀の稀少性は、宗教とも結びついたようだ。神々が人間と同じものを好むと考え、供え物として金・銀製品が作られたとのこと。さらに対象となる神々を作ることもあった。至近な例として、奈良県東大寺の大仏はもともと鍍金が施されていた。また、古代エジプト人は金を神聖で不滅な金属と考えて太陽神ラーは純金の肉体を持つと考えていたという。アンデスの文化では金が「太陽の汗」、銀が「月の涙」と見なす思想を持っていたそうだ。
しかし、金や銀の価値が相対的なものであることも事実だ。古代中国では金より玉のほうに重きがおかれ、イスラム世界の一部では金のもつ華やかさがつつましさを損なう恐れがあると銀のほうが好まれたとのこと。稀少性はあるが、人が価値あるものと見なさなければ金や銀は単なる金属に過ぎないのだ。
無論、それだけでは腹も満たされない。フュリギアの王ミダスは自分の触れるもの全てを金に変えるよう願い、それが叶えられた。当然、食べ物すら金に変わってしまい、ミダスは飢え死に寸前。困窮した彼はディオニュソス神に救済を求め聞き入れられたという。金や銀がうなるようにあっても、それを価値あるものとする共通認識がなければ、何の役にも立たないのだ。このことは金や銀の価値が相対的なものであることを如実に示している。
昨今、金の価格が上昇しつつある。『財政危機のときにも価値を失わないと信頼される』(150頁)ところがその背景にあるのだろう。金価格の上昇は通貨への信用性の低下がもたらす現象だが、金や銀の価値もあくまで相対的なものに過ぎないことも本書は教えてくれる。とは言え本書には掲載されている大英博物館が様々な経緯で入手してきた古今東西様々な金・銀製品のコレクションは、確かに目を奪われる美しさを誇る。ただ眺めるだけでも楽しめる一冊であることは間違いない。
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