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ジャガイモより消費量が多く、世界でもっとも食べられている果物=バナナと、人類の知られざる関係を明らかにした大作。大のバナナ好きの著者が、現在私たちが口にしている「キャベンディッシュ」という品種のバナナが絶滅の危機に瀕していると知り、世界中を取材して歩くうちに出会った、知られざるバナナの歴史と世界に導くノンフィクションが登場した。
バナナは、人類初の農村が栽培していた果物で、人間とは1万年以上の共生を保ってきた、文字通りなくてはならない果物。しかしながら、19世紀のアメリカでバナナの人気に火が点いてからは、中米には大規模なバナナ農園が誕生し、その産業に依存する形で、文化が変えられ、内戦が起き、多くの血が流れた。中米の国を「バナナ・リパブリック」=バナナに依存する国、と呼ぶのはそうした歴史があるため。つまり、バナナの発展と、企業のエゴに満ちたアメリカのグローバリズムは切っても切れない関係にあるのだ。
人類の歴史を変えた果物・バナナの数奇な物語を、「ニューヨーク・タイムズ・マガジン」や「ナショナル・ジオグラフィック」に寄稿する科学・自然ライターの著者が、精緻な歴史的考察と多彩なフィールドワークとをもとに鮮やかに記す。バナナという身近な食べ物の歴史と生態を通して、人間の進化とグローバリズムのエゴイズムを描き出し、新種開発に挑む科学者たちの必死の攻防をスリリングに描いた、歴史ファン、バナナファン必読の書。
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現在、自分たちが気軽に食べられ、世界中の人々が食している作物がどのような経緯・企業のエゴ・問題と絡んでいるかを知り得た良い書籍だと思う。
この書籍に記述されている歴史を軽視することは過去のバナナに関わった方々や現在研究中で苦しい思いをしている人々に対して比例当たるのではないだろうか。
バナナに限らず、自分たちの口に入るものは裏で誰かが苦心惨憺な思いをしていることを念頭に入れるべきであろう。
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<甘いバナナが辿ってきた、甘いばかりではない歴史>
手軽に食べられる人気の果物、バナナ。アメリカ人の年間消費量は何と1人あたり100本なんだそうだ。
ここまで驚異的に広まった陰には、大量生産と輸送の仕組み作りがあり、黒い歴史があった。
そしてバナナは今、病気による消滅の危機にも瀕している。
歴史的・政治的な見地とともに遺伝学的な解説も紹介し、バナナのこれまで、そしてこれからを、多角的に探る。
大まかには時系列で綴られるが、大きな章の中に、トピックスごとにまとめられた数ページの小さいセクションがあり、読みやすい作りになっている。
筆致は落ち着いている一方、雑学的な知識もちりばめられ、飽きることなくバナナの歴史を俯瞰できる。
聖書の「禁断の実」は、一般にはリンゴということになっているが、実はバナナだったという説もあるという。エデンの園が中東にあったとするならば、バナナの生育には適しており、逆にリンゴは滅多に見られない。バナナとイチジクの呼称の混乱などの話も興味深く、「禁断の実=バナナ説」、個人的には説得力を感じた。
バナナの黒い歴史の最たるものは、「バナナ共和国」とも呼ばれた中南米の国々と巨大企業の関わりだろう。
バナナには料理用のものとデザート用のものがあるが、栽培が爆発的に広まったのはデザート用のものの人気が高まったためだ。
バナナ・プランテーションの労働環境は劣悪で、農薬散布による健康被害も甚大だった。バナナの病気が発生すると、大量に農薬を撒き、手に負えなくなると別の地に移動する、といったことを繰り返したため、土地の荒廃も進んだ。
『百年の孤独』中に出てくる虐殺事件は、バナナ労働者のストライキに対する実際の事件をモデルとしているのだそうだ。グアテマラの政変の陰でチキータ・ブランドのユナイテッド・フルーツ社が何らかの役割を果たしたのも確かなようだ。
バナナが食べやすい理由の1つは、種子がないことだ。だが、種子がない=不稔性である=品種改良が困難であることを意味する。掛け合わせて種子を取り、さらに好ましい性質のものを選び取るという通常の品種改良の手段が使えない、もしくは非常に時間が掛かる。
現在市場に出回っているのはキャベンディッシュと呼ばれる種だ。かつて人気だったグロスミッチェルが姿を消したのは病気のせいだが、このキャベンディッシュもまた病害に晒されている。絶滅まではさほど長くないと見る専門家もいる。
伝統的な品種改良の試みが成される一方、遺伝子操作で病気に強いバナナを作ろうとする研究者もいる。だが、遺伝子組換え作物に対する嫌悪感はなお強い。
バナナの辿った負の歴史を繰り返すことなく、人々に愛される新たなバナナの品種は生まれるのだろうか。
巻末のバナナ年表が本書をよく総括していて秀逸。
*「バナナ・リパブリック」というファッションブランド、昔、友人が好きだったのだが、「バナナ共和国」にこんなきな臭い意味があったとは。
*アフリカ難民キャンプへ���継続的な食糧支援として、その風土にあったバナナを植えようという、ベルギー研究者のスウェンネンの話が印象に残る。
*訳者の略歴中の主な訳書に、ジョナサン・サフラン・フォアの『イーティング・アニマル-アメリカ工場式畜産の難題(ジレンマ)』が挙げられている。サフラン・フォアと言えば、『ものすごくうるさくてありえないほど近い』の著者。題名からすると、アメリカの食糧問題についての本みたいだが、こんな本も書いていたのか。
*バナナゲノムが解読されたとのこと
Nature Volume:488, Pages:213–217
Date published: (09 August 2012)
The banana (Musa acuminata) genome and the evolution of monocotyledonous plants
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バナナの歴史、とりわけ生産国に対してアメリカ企業がやったあり得ない悪事の数々、そしてバナナという種の危機についての話。
チョコレートもそうだけど、この手の途上国の大規模プランテーションは、黒歴史過ぎて唖然としてしまう。バナナ会社が、生産国の政治に関与し、気に食わないことがあれば軍隊を出し、意に沿わない大統領はお得意のPR作戦で失脚させ、労働者を奴隷のように働かせ、不当に安く仕入れてきた。
一方、実はバナナに危機が迫っているというのは初耳だった。
バナナには種がない。クローンで増えるが故に、遺伝子の多様性が失われ、病気に滅法弱い。
実際、戦前売られていたグロスミッチェルという種は、病気にやられて全滅した。
では、バナナはどのうように品種改良されるのか?ごく稀にできる種を、膨大なバナナの中から探すのだ!信じ難く辛抱強い作業だ。
我々デザートバナナの消費者にとっては、バナナなんて、なくなって淋しいかもしれないが、困らない。
ところがバナナは、米より小麦より、多くの人を支える食糧なのだとか!特にアフリカでは、バナナの病気が飢饉に直結する程の事態を引き起こす。
だから、バナナの品種改良は、とても重要なミッションなのだ。これも全然知らなかった。
たかがバナナ、と思えること自体が、贅沢の象徴なのだ。
我々贅沢側の人間が、遺伝子組み換えが気持ち悪いから嫌、と思ってしまうその根拠についても、深く考えさせられた。
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『ナショナル・ジオグラフィック』などにも記事を投稿する筆者が解き明かしたバナナという植物のたどった歴史と生態。数々の事実を組み合わせ、ありふれたものであるはずのバナナがまた違って見えます。
筆者の経歴を見てみると『ナショナル・ジオグラフィック』などの一流誌にも科学的な記事を寄稿するサイエンティフィックライターなのだそうです。その彼が地球を旅して回って書いたバナナの歴史と生態に関する考察を記した一冊です。よくスーパーマーケットで安い価格で売られ、手ごろな栄養食品として知られるバナナが、まさかこんなにも血塗られた歴史を持っていたんだということを知って、正直な話、読み終えた後にしばらくほうけてしまいました。
アダムが最初に食したのはリンゴではなくて実はバナナだった!?という話から始まり、世界各国のバナナを栽培するプランテーションを訪問し、そこで行われている過酷な労働の実態や、グロスミッチェルという初期によく食べられていたバナナが「パナマ病」という病気で全滅常態になり、キャベンディッシュというバナナの種が現在では主流になっているということ。それに僕が最も驚いたのはバナナをめぐる欲にまみれた話で現在でもバナナのブランドとして有名な「チキータバナナ」と「ドール」この二つがフルーツを売る会社として覇権を競い合い、時には生産国を意のままに操り、国家の指導者までも放逐させてしまう「怪物」であったという箇所を読んだときには正直、そこまであの甘い果実のなかに壮絶な歴史があるということを知って、『こりゃこれから安易にバナナを食えんなぁ』などということすら考えてしまった自分がおりました。
いまやバナナは世界で最も食されている主食だそうですが、南北問題やグローバリズムを始め、さまざまな矛盾の上に店頭で売られていたり、皆様の食卓に届けられているのだということをこの本は教えてくれたような気がいたしました。
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歴史的内容と科学的内容で『バナナ』を描きだした面白い内容の良書ですが、WEB翻訳的な文章が、ちょいと残念。
バナナにまつわる壮絶な歴史を鑑みると、今後安易な気持ちではバナナが食べれなくなっちゃったかも?
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世界一、つつましい果物
第1部 バナナの系譜
第2部 伝播
第3部 コーンフレークとクーデター
第4部 どこまでも貧欲に
第5部 さようなら、ミッチェル
第6部 新しいバナナ
年表ーバナナの歩み
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ホンジュラス、グアテマラ、パナマをまたぐ巨大企業、ユナイテッド・フルーツ社の暗黒史。中米がなぜ今のような自立性の無い小国になったのか?中南米をひとまとめにする国家が成立してもおかしくなかった。その謎を筆者はバナナに求める。
この作品の難点は実証性に薄いこと。
アメリカのフォード主義に代表される労働のあり方や、朝飯も昼飯もバナナで工場内で楽にカロリーを取ることを強調してもよかったのでは?
いずれにせよ今のうちにバナナ食っておかなければいけない。福岡伸一さんの言う動的平衡のない、歪んだ品種改良種であるバナナは20年後には無くなるらしい。
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日本でも珍しくない食べ物、バナナについての壮絶なる歴史が綴られています。
普段何気なく口にする美味しいバナナですが、バナナ自体だけでなく、プランテーション従業員、バナナ共和国と呼ばれる傀儡国家などは、様々な危機と常に隣り合わせの状態なのです。
難い内容なので、休憩を挟みつつ読了しました。
しかし、美味しいバナナについて知るには良い一冊です。
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バナナの歴史、それを取り巻く人々の数奇な人生。ガルシア=マルケスの『百年の孤独』にバナナ農家の労働者のデモが国によって鎮圧されるシーンがあるが、あれはユナイテッド・フルーツ社(現チキータ・ブランド)によるコロンビアで実際にあった事件でもあった。
アメリカへのバナナの安定供給のために農薬をばらまき、労働者の健康被害となった事実は痛ましい。
すべてのバナナはクローンのため病気が蔓延すれば絶滅する可能性が高い。確かにアメリカ人の昼食は「ランチボックスにバナナ」がスタンダードだが、年間100本のバナナを消費するのだそうだ。
アメリカ優位な状況を打破しようと尽力したグアテマラの元大統領アルベンスは失脚のち暗殺される。呪われた企業を立て直すべく尽力したユダヤ人経営者ブラックも念願果たせず有力者に賄賂を渡したことを悔いて命を断つ。病気に打ち勝つ次世代バナナを追求していた研究者も自殺する。
遠方から運ばれてくる、美味しい南国の食べ物が安く供給されているという状況は、何かの犠牲の上に成り立っているという事実を認識させてくれる。
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バナナから見る世界
バナナ。
日本人にもなじみ深いバナナ。
バナナダイエットにバナナリパブリック、バナナケースにバナナパンケーキ、吉本ばななにバナナマン。
算数の問題にも出てくるバナナはもはや高級品ではないし、よく食べる果物(あるいは主食)の一つとなっている。
そんなバナナの数奇な歴史を辿るのが本書である。
大学時代、このバナナという不思議な植物について講義で扱われた。
バナナリパブリック(アパレルブランドにもあるが、なぜこんな名前を付けたのか......)や多国籍企業についてが主題の回だったが、もし当時本書を読んでいれば、もっと深く学べたのにと思う。
それはさておき、食物について必ずあげられるのがアメリカの多国籍企業である。
この一国の力にも匹敵する企業について考察するのであれば、バナナはさけては通れない。
それは搾取であったり、政治に翻弄されたりする人々の姿でもあろうし、あるいは消費者の欲望でもあるのだろう。
ここで扱われている姿は一面的なものであるかもしれない。
雇用を生み出し、生活レベルをあげた面もあるかもしれない。
ただ、本書で見えてくるのはたとえ一面的であろうとも、企業と労働者の、また生産者と消費者のアンバランスな姿なのである。
バナナの歌の存在、企業と戦った小国の話は興味深い。
バナナケチャップの存在は知っていたが、味の想像がつかない。
読みながら食べていたバナナとはきっと違う味なのだろうが......
本書は図表が多く用いられているとは言い難い。
一章は短いがほぼ文字で埋め尽くされているのと、翻訳文独特のあの読みにくい感じがあり、タイトルが示すよりも難易度が高い。
言っていることは難しくはないが文字に圧倒されてしまうかもしれない。
背景を多少なりとも知っているのならば読了まで行けるが、何の予備知識もない段階では難しい。
万人に勧められるものではない。
少なくとも地図や生産量の推移があれば良いのだが。
巻末の年表はわかりやすい。
が、この数頁に本書の大方がまとめられていることに力が抜けた。
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スーパーに並んでいるバナナ、日本でもアメリカでも、それはキャベンディッシュと呼ばれる品種。
栄養価が高く、多くの人を飢餓から救っているこのバナナに対して警鐘を鳴らす本。
品種が一種類ということは、同一遺伝子ということであって、それはつまり、ある特定の病原菌に弱ければ、世界各国で地理的に離れたところで作られていたとしても、全てに影響が起こるということ。
キャベンディシュの一つ前の品種グロスミッチェルはそうして滅んだ。
その病原菌から守るためには、農薬を使うとか、品種改良として交配を試みるとかいろいろあるけど、農薬の労働者への被害という話は切っても切れない。
そして、プランテーションがダメになったら、新しいプランテーションを開拓するといった進め方をしているので、土地が痩せていってしまうといった問題も切っては切り離せない。
また、遺伝子組換えについても、遺伝子組換えを行った交配を採用しなければ、自然交配には時間がかかり過ぎてしまい、病原菌の脅威のスピードには勝てず、飢饉に陥る可能性が高くなる。僕自身、遺伝子組換えが悪って思わないんだよなー。だって自然交配も種の掛け合わせも、遺伝子組換えじゃん。遺伝子汚染なんて昔から起こってるっちゅうの。
環境問題、健康問題そういったものがバナナにも大きく取り巻いていることが知れる。
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とても身近な果物バナナ。安価で1年中手に入り、簡単に皮がむけ食べやすい。だが、この親しみ深い果物には壮絶な歴史と複雑な生態がある。かつてバナナの利益をめぐり人々が争った過去がある。現在の美味しさは品種改良の苦労の末によるものである。そして現在、バナナをつくる労働者たちは過重労働に苦しめられている。「バナナ」に関する過去と未来を追った1冊。
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バナナは、世界の諸問題が凝縮された果実だ。
バナナは米よりも主食として普及しており、何億人もの生命を支えている。一方で、交配を伴わずに増殖してきたため、極めて耐病性が弱い。おまけに多国籍企業の暗躍により、生産国は貧困と戦乱に見舞われた。
読後、バナナの味がやや血腥く感じられるだろう。