紙の本
大日本帝国変調の始まりと帰着点に接した当事者の証言
2015/08/13 00:49
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:tadashikeene - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者の迫水久常氏は鈴木貫太郎内閣で内閣書記官長(現在の内閣官房長官に相当)を務め、いわゆる終戦詔勅の起草にあたった。海軍の良識派として知られた岡田啓介元首相の娘婿。
本書は迫水氏が岳父岡田啓介氏も狙撃対象だった2・26事件、そして事件から9年後に自ら関わった敗戦受け入れの過程を綴る回想録。いわば大日本帝国変調の始まりとその帰結を当事者の眼から記したもの。
筆者はつとめて淡々とした筆致を貫くがそれゆえに国家の変調、「聖断」なしに決められなかった無責任体制の恐ろしさがひしひしと伝わってくる。またその中で完全なる破滅を免れようと苦闘したひとたちの姿も。
もちろん井上寿一・学習院大学長による解説の通り、書かなかったこと書けなかったことは多いだろうし、自己弁護の記述もある。
しかし当事者のならではの視点が示唆するものは大きい。過ちを繰り返さないための手かがりが数多く浮かび上がってくる。
投稿元:
レビューを見る
2.26事件・敗戦と昭和の転換期に立ち会った貴重な記録です。敗戦のことについては映画などで有名だけど、2.26事件の首相救出は詳しく知らなかったのでこの本で読めて良かった。著者の自叙伝が無いことが悔やまれる。
投稿元:
レビューを見る
首相官邸は、これまで2.26事件と終戦の時の二度にわたり機関銃の銃火にさらされた。前者では岡田首相の秘書官として、後者では鈴木内閣の内閣書記官長として、偶然、そのいずれにも居合わせることになった著者が、重要な脇役としての位置からみた事件の姿を綴ったノンフィクション。
蹶起部隊側の目線や、その時代に生き、事件を目撃した庶民目線の話を小説というオブラートに包んだ形で目にするのとは違い、襲撃された側からの、それも人違いが元で命拾いし、決死の覚悟で脱出を遂げた岡田首相とその側近目線の体験談は、生々しく、緊迫感をもって読む者に迫る。
信念に燃え、蹶起した若き将校たちを利用し、軍の支配力を確立しようと画策した《皇道派》の軍上層部。軍事裁判を経て、将校たちが処刑された後も、無罪となった彼らはクーデターの恐怖を利用し軍の政治支配の拡大に努め、結果、太平洋戦争へとなだれ込んでいった。本当に悪い奴らは誰だったのか・・・。
2.26事件を契機として、軍の政治干渉を排し、政治を本来の道へと戻せなかったことが残念でならない。
筆者は言う、「私は、若い、視野のせまい、未熟な人たちを扇動することが如何に罪ふかく、如何に危険なことであるかを思うとともに、この若い力を自己の野心のために利用せんとするものを極度ににくむ」と。
いつの世も、時代の転換点は静かに忍び寄って来るのかも知れない。過去を知ることは、今と未来を考えることだとしみじみ思いました。
投稿元:
レビューを見る
かような本を読み落としているのは、まだまだ読書量が足りない証拠だろう。まず文章がいい。革新官僚の優れたバランス感覚が窺える。事件の渦中にあった人物が描く生々しさや迫力は劇的ですらある。私は文庫版の表紙を映画化された俳優の写真だと思い込んでいたのだが迫水本人の横顔だ。
https://sessendo.blogspot.com/2020/11/blog-post_26.html