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ツィオルコフスキーやガガーリン等を除くと余り良く知られているとは言えないロシアの宇宙開発。
本書は題名からも分かるようにこれをテーマにした書籍であり、ペレストロイカ以降に公開された文書に基づき、ロシア革命以前(気球)から初期の有人宇宙活動(ヴォストーク、ヴォスポート)までを取り上げた内容となっています。
(尚、本書評では旧ソ連の事もまとめてロシアと記述しています)
構成は全3部15章構成。
第1部では、18世紀後半にヨーロッパの気球ブームがロシアにも伝わってきた事や、その風任せの性質を改善して行きたい所に向かえる様にする為、水平方向の推進力としてロケットの利用が検討された事等の解説に始まり、帝政ロシアにおけるロケット弾の開発の経緯、ツィオルコフスキー、ゴダード、オーベルトの他、ツァンデル、コンドラチュク等余り世間に知られていない人々も紹介。
そしてロシア革命後の気体力学研究所の開設とこの研究所が開発したロケットエンジン及びロケット推進飛行機の解説が続き、その後のスターリンによる大テロルによって研究所が壊滅状態に陥った様子に触れ、
そして、第2次世界大戦中のロケット関連兵器開発が取り上げられ、第一部の最終章である7章では大戦後のロシアのロケット開発に多大な影響を与えたドイツのロケット開発について解説されています。
第2部では、V-2ロケットのコピーから始まる戦後の技術開発が取り上げられ、ドイツの技術の吸収に伴いロシアの独自技術が確立し、それによって核ミサイルの開発が進められていく様子が解説されています。
最後の第3部では、スターリンの後をついだフルシチョフの支持のもと有人宇宙開発が進められたが、フルシチョフ失脚とともに権力と宇宙開発との蜜月関係が終了した経緯が解説されています。
また、戦略的に宇宙開発を進めていったアメリカとは対照的に、ロシアではアメリカに先んじる事ばかり優先された結果、元々2人乗りのヴォストークを3人乗りにしたヴォスホート(代償として気密服無しになった)など無理のある計画を度々実行に移し、からくも成功を納めていった姿が描き出されていました。
本書はそのテーマゆえに、必然的に激動の時代に宇宙を目指した人々の姿を描いた内容となっており、初期のロシア宇宙開発を指揮したコロリョフの終世のライバルとなったグルシコが、大テロルで悲惨な目(逮捕されて送り込まれた先で3ヶ月もしない内にひどい壊血病に罹患。歯を14本も失う等)にあった事や、コロリョフの有力スタッフとしてヴォストークの設計などに活躍したフェオクチストフのエピソード(少年時代、ドイツ軍に対する偵察活動を行っていた所、敵に発見捕縛され頭部に銃弾を受ける。しかし生還し、傷が癒えた後に再び偵察に戻った)等が多数紹介されていました。
この様な内容ですので(技術的な内容も多々ありますが)本書のメインは人間を描くことにあると言えるかと思います。
従って、技術的な内容が苦手と言う方がこの部分を目で追うだけであっても、十分に意義深い読書となるのではないでしょうか。
尚、本書にはロシアの秘密主義について触れている箇所があり、それによれば、生前その存在が秘密にされたコロリョフ自身も当初は秘密主義はアメリカに追い付かれないために必要なことだと考えていた。
しかし、アメリカに追い抜かされた後にはその事をすべての人に隠すために秘密主義が用いられるようになったとの事。
まるで力に勝る相手と張り合った結果陥る可能性がある負の側面を総括したかの様な印象を受ける内容です。
しかし、その一方でロシアでは有人宇宙活動の意義についてアメリカや日本などとは違って深く問われたことがないとの事で、本書によればこれは(国威掲揚と言う点は見逃せないものの)ロシア人の価値観の根底に「人と宇宙の統合」と言うコスミズムがあるからではないかと指摘しています。
著者の考えが正しければ、ロシア人にとって宇宙開発とは他の存在との競争だけでなく、また何らかの利益追求だけでもなく、もっと人として根幹的なものである、と言うことになります。
だからこそ、その過酷な歴史や劣った国力にも関わらず、この様な人類史に残る結果を出せたのかも知れない。
そのように思いながら読了しました。
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スターリンが種を撒き,フルシチョフが収穫したソ連の宇宙開発。ロシア帝国時代の気球に始まり,人類初の有人軌道飛行,そして宇宙遊泳を達成するまでの歴史をたどる。
ツィオルコフスキーたちのロマンに満ちた宇宙への夢。それが結実するには想像を絶する紆余曲折があった。大粛清。大祖国戦争。カチューシャなどのロケット兵器。ドイツのV2ロケット技術の導入。そして冷戦下の熾烈な宇宙開発競争。
事故などの失敗はもちろん,開発責任者の名前も出てこない極端な秘密主義がソ連の宇宙開発の特徴だった。同時代には決して知り得なかった情報が,見事にまとめられている貴重な本。
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笑い話をひとつ。
アメリカは宇宙でも記録が残せるよう、無重力でも書けるボール
ペンの開発に苦心していた。アメリカの研究を凌駕したのはソ連。
「筆記用具?鉛筆を持っていけばいいではないか」
さて、宇宙開発である。ライト兄弟の飛行機を持ち出すまでもなく、
空へ、そして更なる高みへと人類の夢は果てしなく広がる。
SFは苦手なのだが、老飛行士4人が活躍する映画「スペース・
カウボーイ」は何度も観て、何度も泣いた。「キャプテン・ハー
ロック」等の松本零士の漫画も好きだ。
宇宙は夢の宝庫。だって、かぐや姫が月へ帰って行ったり、
うさぎが餅つきしていたりすんだもの。
本書はアメリカと共に宇宙開発を牽引したソ連の宇宙開発史を
綿密に追っている。
それぞれの研究者の生い立ち、その研究の元となった発想が
時系列で記されている。
科学は苦手だし、数学なんてなんでこの世に存在するか理解
出来ない私には「????」となる部分も多かった。だって、数式
を見たってそれが何を表しているのか分からないのだもの。うぅ。
それでも、徐々に宇宙へ近づいて行く研究者たちの情熱は
面白く読めた。人類初を次々と達成したソ連だが、その裏には
数えきれないほどの失敗があるんだよね。
そういえば、ライカ犬もいたっけ。人間の代わりに実験台にされた
犬。地球軌道を最初に周回した犬なんだが、今だったら動物愛護
団体に猛烈抗議されただろうな。
本書は図版や写真も豊富。革命は起きるわ、大テロルは起きるわ、
大祖国戦争は起きるわで、ソ連の波乱万丈の歴史と同様に、宇宙
開発も波乱万丈。
多くの資料を駆使して書かれているが、これもソ連が崩壊して
文書が公開されたからなのかな。