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昨年(2011)末頃にTPPに参加するか否かで一時議論が盛り上がりましたが、何となく、TPPに今から参加することは日本に不利になるような雰囲気がありました。私の間隔も農業の自由化を無理やりやらされて日本の農業が壊滅するという意見には納得させられていました。
そんな私に飛び込んできたのが、この本でした。普通なら素通りするところですが、本をめくってみて、著者が以前に読んで日本の農業の見方が変わった「日本は世界5位の農業大国」を書いた人だったので、興味がわきました。日本の農業人口は実は諸外国比較で多い(p107)、農業自由化により日本の高級野菜、果物、花が売れるようになる(p47)等という意見には「目から鱗」でした。
農業も製造業と同じで、一部の大規模農家が日本の生産量の大部分を占めているようです。TPPに参加することが日本にとってメリットがあるかどうかは活用の仕方次第なのでしょうか。これでTPPについて明確に賛成を本で表明している人が二人目(一人目は高橋洋一氏)になったので、今後も両者の意見をバランスよく確認していきたいです。
以下は気になったポイントです。
・日本の総世代5000万のうち、農業所得がメインの家族は40万で0.8%、所得が1000万以上は14万(0.3)で国民が購買消費する国産食料の60%超を生産・販売している、これは日本の3分の1が農家世帯であった1960年代比較で100分の1だが、総生産額は8兆円(当時は2兆円)で、約300倍の能率向上(p2)
・世界一の定義として、1)農産物輸出額、2)付加価値生産性(面積当たり)はすでに一位、3)農業投資収入、がある(p6)
・TPP協定へ向かっている大きな枠組み作りは、日本が長年主導した経緯がある、TPPの提唱者は日本(p21)
・日本の動きが鈍いので、4国(シンガ、NZD、ブルネイ、チリ)がAPECの2010年目標実現に向けて2006年に表明したのがTPPである(p25)
・日本は11か国とFTAを結んでいて自由化率は85%(9000品目のうち)、他国間のFTAは97%程度(p30)
・FTAで関税撤廃したことがない品目は940、9割を占める850品目が農林水産物(農産:725、水産:95、林産:30)である(p31)
・TPPに参加すると農産物生産額が4.1兆円減少、食糧自給率が14%に低下するという試算の前提は、1)米の9割が外米で残るのは有名ブランドのみ、2)米生産減少額で1.9兆円、この金額は最新の米生産額1.5兆円を上回る(p38)
・短粒種の世界市場はきわめて小さい、中粒種でも輸出量は80万トンで、約35万トンは懲罰的に日本が輸入(ミニマム・アクセス)している(p42)
・米国では「不足払い制度」があり、豊作不作に拘らず利益がでる構造になっている、米国にとって短粒種は、需要少なく苦労多いのでシェア拡大は期待しにくい(p43)
・国産と外国産の組み合わせで市場が大きく伸びたケースは多い、リンゴ、サクランボ、アスパラガス等、補助金も殆どない野菜、花、果物、低関税の鶏肉、卵、雑穀の生産額は4.5兆円で、全体の53%(p47)
・TPP派反対の本丸というべき高関税のものは、米、麦類、テンサイ・サトウキビ(���糖原料)、畜産酪農品である、米:787%、小麦:252%、粗糖:305、バター:360%(p52)
・小麦500万トンは農水省が無関税で輸入独占、キロ上限45円のマージン(合計1000億円)をのせて民間企業から徴収(p54)
・敷島パンは、「ゆめちから(国産小麦)」でパンがつくれると期待している(p57)
・米国は、日本農業界にとって、香港・台湾につぐ第三の輸出市場(p62)
・今後のGDPの伸び具合を見ると、2030年にはAPEC先進国のGDPシェアは9割から半分程度、APEC諸国が世界の中間層に占める割合は5割に増加(p66)
・飼料用小麦の完全自由化、稲わら、干し草の輸入規制をさげて畜産農家のコスト負担を減らすべき(p77)
・農協参加の単位農協の貯金残高は88兆円(みずほ銀行の1.5倍)のうち60兆円を農林中金(所轄官庁:農水省)に運用委託している(p89、90)
・生産数量目標(減反政策)は、TPPに参加すると自給率が大幅ダウンすると主張する農水省が、自給率をさげる減反をしている(p102)
・約40万戸の主業農家が、酪:95%、養:92、養牛:92、花卉:87、野菜:82%を生産(p108)
・農水省方式では、生産額の7割を稼ぐ野菜、果物、畜産品の自給率貢献率は5%未満、カロリー少ない野菜等と、畜産品は飼料自給率を乗じて計算するので、畜産品7割が国産だが、自給率は17%と計算される(p112)
・20年後に2割減の人口として生産量を維持すると、自給率は消費ベースで84%、現在でも金額ベースでは70%であり、主要先進国でトップクラス(p118)
・日本が生産量でトップ10に入る農産物は、ネギ(2)、ホウレンソウ・柿(3)、みかん(4)、イチゴ・なす・レタス・キウイ・栗(6)がある(p125)
・2011年、中国では歴史上はじめて都市人口が農村人口を上回った(p130)
・現状ではTPPの交渉項目のなかに、国内の農業補助金制度(輸出補助金除く)は含まれていない(p205)
・日本の酒は国から農産物とみなされず、国税庁が所管、税務署員からみれば、酒の種類とアルコール度数による税率がすべて、品質・原産地は関係ない(p219)
・イタリアは輸入小麦をパスタにして輸出している、その間にイタリア国内の小麦生産業は増えている(p239)
2012年3月20日作成
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250ページほどで構成されているが、原稿はこの倍あったというのだから驚く。しかもそれを2ヶ月で書き上げたというからさらに驚く。
そんな短期間でこれだけの内容を詰め込めているということは、常日頃より農業の問題点や改善点を考え、私案化できていることの表れ。図表はあまりないが、過去の歴史や多岐に渡るデータを駆使した説明は有無を言わさない説得力に満ち満ちている。この方の意見に意義を唱えても、すぐに論破されてしまうだろう。朝生テレビでTPP反対論者や農水省の役人とやりあってもらいたい。
農業は国が過保護にしなければならないような特殊な産業ではなく、第1次産業から第3次産業までたくさんある産業の中の1業種にすぎない。各産業が国に頼らず自助努力で何とかしようとしていることを農業もすべきであるというシンプルな話のはず。
それなのに、「農業は弱っている」とか、「補助金が与えて守るべきなんだ」となるのは、あまりにおかしな話しである。この本はその点をストレートにに見事に説明しきっている。その見事さは、読んでいて気持ちいいぐらい。
TPPの中の農業分野に関しては、この本を読めば本質まで理解できる。この本は、みんなが絶対読むべきである。そして、農業に対するわたしたちの先入観や思い込み、刷り込みをすべて砕け散らせて、認識を新たにするべき。
これを読んでもTPPに反対する農業関係者がまだいるとすれば、それは既得権益を死守したい人たち、現状維持に固執する人たち、自助努力という苦労から逃げたいだけの人たち、そして相も変わらず税金を補助金の名で搾取して楽をしようとする怠惰な人たちである。
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TPPというと、農業界は足並みをそろえて断固反対している印象を受けます。しかし、実際にまったく異なるということはご存知でしょうか。本書は、農業経営者サイドの視点から、TPPへの賛成意見を提出している異色の著書です。
意外なことかもしれませんが、農業とは全く関係ない「専門家」がTPPが締結されると日本の農業は壊滅すると警告をし、一方では、農業でしっかり事業を目指す農業経営者たちの中には、虎視眈々とTPP後の変化を狙ってビジネスチャンスを今か今かと待ち受けている方々もいるのです。むしろ、TPPを締結してくれたほうが日本の農業は発展すると考えている人たちもたくさんいるのです。
本書では、TPP後に起こると言われている、「日本米の9割が外米に置き換わる」「小麦が全滅する」「米国の陰謀説」などの悲観的な議論を、具体的な事例やデータをもとにしながら、すべて根拠薄弱なものとして切り捨てます。
むしろ、ほとんどの場合はTPPによる規制撤廃で、日本の農産物は世界中に輸出が拡大して、 農業が成長産業となり、雇用も産み出すと論じられています。なにより、第4章では、実際の農業経営者たちの生の声で、彼らがTPPに対してどのような考えを持っているのかを知ることができ、私たちがイメージしている農家とのイメージに違いに驚きを覚えるでしょう。
国内の農業を保護するためのもっともらしい理由としては、新興国での人口爆発による食料価格の高騰や、政情不安によって海外から食料が入ってこなくなるなどの食料安全保障が挙げられています。しかし、実際には、そのような緊急事態が起こるのであれば、なおさら質が高く、正常な価格の農産物を大量に作れる力をつけることが必要になるでしょう。
歴史上の食料飢饉で悲惨だった事例としては、19世紀にアイルランドで起きたじゃがいも飢饉がありますが、あの当時、飢饉で国民がバタバタ倒れている間にも、アイルランドからイギリスには、小麦を始めとした食料が輸出されていたのです。結局のところ、事実は食料が足りなかったのではなく、「食料を買うお金がなかった貧困」と「政府の失策」が問題でした。仮に食料自給が国内で十分になされていたとしても、政府に問題があったり、国民の所得に問題があれば、食料は手に入りません。統制と保護により、市場価格より高い食料が確保されていても、それが国民に行き渡るかどうかの保障はありません。
実際に、他国から食料がまともに輸入できなくなるほど世界情勢に問題がでる状況を想定したら、国内生産で充分に食料が確保できる状態になっても、あまり意味が無いことに少し考えれば誰でも気がつくはずです。というのも、日本はエネルギー資源の約96%を海外から調達しています。食料の輸入が厳しくなるような情勢になれば、まずはそれ以前に、エネルギー資源の確保が困難になります。
エネルギー資源がなければ、日本の工業、サービス業、あらゆる産業は立ちゆかなくなります。ビニールハウスの燃料から、耕運機の燃料まで、農業の生産もままなりません。仮に百歩譲って、国内の農産物が問題なく生産され続けていられるとしても、それを都市部���輸送する手段がありません。都市に住む人たちが、大挙してリアカーを引きながら、農村に向かう状況など、想定として現実的ではないでしょう。その意味では、「農産物がまともに輸入できない状況」はすでに、日本にとっては詰んでいる状態です。実際、先進国で、「食料安全保障」を自国ですべての食料を生産できる状態を目指すなどと考えている国はありません。荒唐無稽なのです。
TPPですべてがバラ色という立場を取るには、一人一人が真剣に問題の所在を考える必要ありますが、「守られるべき農業(?)」の立場から、「TPPが来ても構わない、政府がなにかをやろうとするのは大きなお世話」という意見がでることには、真摯に耳を傾ける必要があるでしょう。
この著書からは、政府や、経済界からの「TPP賛成論」や、農業、医療などの組織からの「TPP反対論」とは全く異色の世界が見えてきます。それだけでも必読といえる一冊です。
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初めて農業に関する本を読みました
全く知識のない分野だったのでかなりおもしろかったです
やはり自由競争の促進がどの業界でも求められているのだと感じます
筆者はTPPに賛成でも反対でもないと書いていましたが、あきらかに賛成と感じました。
というのも自由化はとにかく必要だと思っており、それには法改正が必要、TPPはそれを包含してくれるというところに起因してるからだとおもう。
ものすごく農業に関心をもてました。でもこの本しか読んでないので少し正しいのか偏っているのか全く判断ができないので☆ヨッツです・・・
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農業は全世界的に見れば、成長産業。その可能性を感じさせてくれる1冊。
前著が、主に日本の農業界の現状を述べていたのに対し、こちらはそれプラス著者の提案が具体的に述べられている。
その前に日本農家は黒字化を達成し、自立することが大事。
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著者は、TPPを日本の農業にとって脅威ではなく、むしろ大躍進するための好機であると語る。本書ではまず、反TPP論者の主張の虚偽や日本の農業界を蝕む利権構造を徹底的に暴く。その論拠は、緻密なデータと農業の現場を歩き、生産者の声にじかに接している著者の豊富な取材に基づくもので、実に大きな説得力をもつ。本書を開けば、いかに世間を賑わす「亡国論」が机上の空論であり農業の現状を無視したものであるか、そして農水省・農協を中心とする日本の農業界の構造がいかに農業の成長を妨げる要因となっているかを、つぶさに理解できるであろう。
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TPPと農業に対して批判する書籍が多い中、この本はTPPをきっかけに日本農業が世界一になるための戦略と可能性を示しています。最も印象的だったのが、農家さんの、TPPに対するポジティブな意見と、やる気でした。
九州大学
ニックネーム:たまこ
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チェック項目12箇所。本書はTPP賛成本でもなければ、ましてTPP反対本でもない、本書は実際にTPPを活用するための本だ、とくに日本の農業・食産業をいかに発展させるか具体論を示す実践本である。日本人が突如、モチモチ感のない米を好きになり、一斉に食べ始めることはありえない、それ以前に、全国すべての米卸からスーパー、レストラン、米屋、米加工業者が仕入れを一斉に外米に変える必要がある。日本人が食べる良食味の短粒種米市場は、世界のコメ貿易のなかで超ニッチ市場である、米国の97%のコメ生産者にとっては、これまで栽培したこともない特殊なコメなのである。「チャーハン米」「パエリア米」など、毎月のように世界中から多種多様な新米、コメ食品が陳列されるようになれば、潜在需要が引き出される、その結果、国内の生産者にとってもこれまで想像しなかったような新市場創出という相乗効果が生まれる。関税ですべてが決まるわけではない、最後に選ばれるのは品質であり、生き残るのは顧客のために技術を磨く志の高い農業経営者である。農協職員の多くが車や保険、宝飾品、着物の営業などのノルマを抱えている、農業に関係ない仕事は別会社がやればいい、むしろ、必要な事業活動は堂々と継続すればいいだけだ。農協が真に恐る事態はTPP協定(4ヶ国)12条に明記してある、「いかなる締約国も、地域区分に基づくか、全領域に基づくかに関わりなく、独占的サービス提供者の必要性、いずれの形であれその数の制限を採択、維持しない」、これが農協にいずれ適用されるかどうかだ。日本の農家人口はまだ多すぎるのである、人口に占める農業従事者比率は英国1.7%、米国1.9%、ドイツ2.2%、フランス2.9%に対し、日本は3.4%もいる、国が減反などの政策によって、趣味的農家を延命させ、事業意欲の高い成長農場が規模拡大する余地を妨げているからだ。日本農業が世界一になるには、今のうちから中国の巨大な”胃袋”市場を視野に入れておく必要がある。中国の農産物の輸入伸び率は517%でその額は米国、ドイツに次ぐ世界3位、すでに日本の輸入額を大きく上回る規模となっている。伸長する輸入品の多くは食品加工用である、一人世帯が増え、ますます自宅で調理しない人口比率は高まるばかりで、この潮流は絶対変わらない、この現実を農業サイドが直視しなければならない、生鮮市場の価値が高いか安いかで農業経営を論じても、未来はない、過当競争に明け暮れ、有望な市場を見逃すだけだ。米国ポテト協会では、日本の学校給食マーケット参入を目論見み、献立に影響力を持つ日本の栄養学の権威を米国に招待し、米国産ジャガイモの素晴らしさを畑から伝えていく、最近では、日本のファストフードやファミレスでのフレンチフライの市場が飽和してきたと見てとるや、コンビニや和食チェーンにも攻勢をかける、具体的なメニュー提案するにとどまらず、小売単価から利益額、準備するまでの時間と人権費まで算出し、いかにお店が儲かるか商談で提示する。「食りょの輸入が増えれば増えるほど農産物・食品の輸出は増える」、たとえば、世界一の小麦輸入国は「パスタの国」イタリアである、イタリアは輸入小麦をパスタに加工し、世界中に輸出しているのである。
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先ごろの講演会で購入。出版年から4年が経過しそうな本を売ること自体、イマイチ感があったが、やむにやまれぬ事情で購入。
書いてあることに、納得できないことはない。しかし、第5章は、まさに机上の空論。農協・全中などという組織がある中で、農協法廃止などあり得ない。鳴り物入りで始めた農協改革も、種々の独占の一つ(監査)をようやく取っ払っただけだったのに。
前向きに言えば、時代を大幅に先取った提案ともいえる。できれば、農協がある前提で、あるいは農協解体のソフトランディングを踏まえて、もう少し現実味のある八策を提案してほしい。