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副題は、政治との闘い150年を読む。
財務省とは、国の歳入と歳出を管理する官庁。前身の大蔵省以来、「戦後最強の官庁」として日本に君臨してきた。
今、財務省はデフレ不況下での増税を企んでいる。「増税やむなし」の空気が流れる中、これは本当に正しい選択なのだろうか。
気鋭の憲政史家が、150年の伝統を検証しながら、知られざる政治との関係を描き出す。
第1章 大蔵省の誕生
第2章 日本最強の官庁へ(井上準之助の登場)
第3章 パンドラの箱 (馬場鍈一蔵相)
第4章 占領と復興
第5章 復興から高度経済成長へ(池田勇人の登場)
第6章 三角大福、赤字国債、消費税
第7章 失われた十年
第8章 平成と未来の日本
本書は、従来説とは異なり、新しい見方を示しており大変面白い。
本書を読むと、財務省がいかに政治に翻弄されてきたのかがわかる。
「われわれが本当に強かったら、日本の財政なんてこんなふうになっていませんよ。主計局は、常に敗戦、敗北の歴史です。」という財務官僚のことばもうなずける。
残念なのは、論法の補強の仕方が粗い点である。著者の見方は画期的で面白いが、ひとつ間違えばトンデモ説になりかねない。新書という制限はあるが、もう少し丁寧な描き方をして欲しかったと思う。
以下、気になった点。
著者は、城山三郎の小説「男子の本懐」を事実と異なる世紀の悪書としており、三つの重大な誤りを指摘している。著者は「井上は、元々は高橋の最側近だったが、わざわざ反対党の濱口の内閣に移り、間違った経済政策の推進者となった」という見方を示している。この見方は面白いのだが、なぜ井上がそうしたのかという動機が説明されていない。
戦前の日本は、軍部に支配されていたというイメージが強いが、井上が生きていた時代は、法の支配する時代であるというが、この見方は重要であろう。井上は政党の力を背景に、軍事予算の削減を進める。
軍部に優越していた政治がなぜ逆転したのか。著者は、政治(政党)が自壊
したことをあげている。また、ソ連(共産勢力)の動きに注目している。
これも、面白い見方であるが、もう少し、説得力が欲しい。
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歴史を国家予算の観点から見つめると世界が拡がる。
うーん、財務省のトラウマ。
田中角栄が引き起こした放漫財政が、引き起こした
災害なんですね。
兎に角、日銀は円を刷れ!!
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財務省(旧大蔵省)の歴史を紐解く事で、現在のデフレを脱却する為に最良の処方箋は何かを読み解く本。
財務省の歴史を紐解きながらも、日本の正しい昭和史も学べる素晴らしい本である。
この本を読めば、日本は戦前戦後を通じて、「共産主義・計画統制経済 vs 民主主義・自由資本主義」の構図から一歩も抜けて出ておらず、共産主義の息がかかった人間に、徹底的に貶められ続けている事が分かる。
真に討つべき敵は誰なのか?真の味方は誰なのか?今後も敵を誤らない為にも必読の書である。
作者の倉山満という男、必ずや日本を席巻する論客となる逸材である。要注目!
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本屋で平積みになっていたので、パラパラと見て、つい買ってしまった一冊。
興味深い史観が展開されて、ところどころ、確かにそういう力学が働いて然るべき、と納得できる点も多い。例えば、強力な与党、衆議院が形成されると、大蔵の主計局が強力な権限をモテるようになるとか、終戦後に強い横暴な陸軍大臣と、逆らえなかった文官達という虚構を創作し、占領軍を騙くらかしたというくだり。歴史は勝者や生き残った者によって紡がれてゆくという典型例だと思う。
近代では、田中角栄ではなく竹下登こそが長きにわたり権力を裏から掌握しきった人物であり、そして、大蔵省の伝統から外れた増税路線=消費税導入を果たし、橋本政権による日銀の独立路線を引いてしまった、日本弱体化を招いた張本人という論も展開される。
グローバル、かつ資金の移動がオープンな中、政策金利や日銀の国債引き受けだけでマイルドインフレを上手く引き起こせるかは、正直、専門外で良く分からないが、国益を考えるならば増税より先にやるべきことであるのは確からしいと感じた。愚かな浜口宰相のように金を国外に流出させ、国益を著しく損なうようなことを繰り返すべきではない。
先達から学ぶべき局面だろう。
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とにかく明解で面白い。日本の近現代史において大蔵省・財務省がどのように権力を獲得し、政治に対峙してきたのか。
そして、現在のデフレ不況下での増税が完全に誤った政策であり、かつ財務省の伝統にも反することが強く主張されている。
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1967年生まれの倉山 満氏による著作。デフレを忌避し金融緩和政策を推奨するいわゆるリフレ派の立場から書かれており、著者はその立場を鮮明にして書いている。
井上準之助への評価などはかなり一方的。
大蔵省、財務省の歴史を客観的に記したというよりも、この立場で日本の税制、財政、金融政策がどう見えるか、という内容。
視点が極端なため、アマゾンのレビューは評価が5星と1星が同数で最多得票(注、これを記述している段階)と、珍現象を生じている。
1星のレビューも丹念であり、それだけ刺激的な本であることは間違いない。
文章は平明、その分、リフレ派の論理の中で説得力のある記述になっている。
意見、好悪はいろいろとあるだろうが、これだけ主張を明確にすることで、財政や金融の歴史を多角的に見るための導入としても優れているように思う。
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私は歴史は基本的に好きなのですが、現代史となると、あまり本を読んだことが無かったので、この本は私にとっては新鮮なものでした。
内容は、財務省に関するもので、明治維新のころから、ごく最近の出来事まで、財務省がどのように関わってきたかが記載されています。
現在は、消費税の増税に向けて陰で旗を振っているのは財務省というイメージが私にはありますが、財務省(大蔵省)にとって、増税はその伝統に反する、というのは意外なものでした。
以下は気になったポイントです。
・明治維新とは、幕藩体制という地方分権体制を否定し、強力な中央集権を目指した動きであったが、大蔵省とは別に内務省という組織を作って、地方行政は内務省に任せることにした(p19)
・貴族院が少しでも修正すれば、今度は衆議院の承認を得る必要がある、したがって、先議権とは事実上の決定権である(p22)
・大蔵省にとってもソフトとは、情報と人事であり、それが最も大事(p24)
・ライバルであった板垣と大隈は手を組み、憲政党を結成し、衆議院の9割を占める巨大野党ができた(p34)
・当時の日本人である朝鮮人の生命や財産が侵害される事態に世論は憤り、関東軍は彼らの保護を理由に張学良の討伐を開始した、これが満州事変(p64)
・インフレは良いことでデフレは悪いこと、生産物よりも貨幣のほうが少しばかり多い状態が健全、働いたモノの価値が高まる、すなわち労働力が報われるから(p111)
・昭和26年9月にサンフランシスコ講和条約を結び、翌年4月28日に日本は独立したが、問題として、占領期に公職追放された政治家(鳩山一郎等)が帰ってきた(p127)
・アメリカ公文書公開のルール(40年後に公開)により、自社55年体制は、米ソ代理戦争であったことが判明した(p152)
・三木武夫は、誰の側近にもならず、権謀術数だけで総理の座を奪い取った最初で最後の人(p178)
・三木が自民党多数派を恐れなかった根拠として、内閣法制局と検察庁を味方につけておいたことがある(p183)
2012年6月10日作成
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少し偏った部分はあったもののとても面白かった
読んだ結論は二点
1.歴史は繰り返す⇒政治主導は難しい
2.デフレ放置はもはや日銀や財務省の意地なんじゃないか
前者について
減税と戦争推進といった無理難題を承知で当時の政権に迫り、瓦解させた後に成立した隈板内閣
⇒政権担当能力は皆無で自滅に近い総辞職と混乱をもたらした
当時の閣僚は官僚あがりの議員が占めていたというのも結構衝撃的だったのと共に、やはり行政の仕事に関わりのない政治家の限界も感じた
後者について
戦前の官僚は本当に誇りを持って国のために健全な経済運営を図っていたことが分かった
どこから今のデフレ時の増税は正義で財政再建に不可欠という増税スパイラルに押し込んだのかは読後も未だによく分からない…
それで考えたのは「もはや意地かな」
昔の官僚からしたら今の官僚は本当に売国奴のように見える
責任逃れのために「地震や世界経済危機のような大事故の後に事を起こし」、失敗しても「そういった事象のせいだ」と言い逃れに使おうとするように垣間見える官僚の意思の汚さには失望しかない。
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20120718-0808なかなか意欲的な内容。特に戦前~戦後までの大蔵省と内閣・軍部・議会等の対立軸が整理されていてよかった。近衛文麿や馬場財政については教科書的なことしか知らなかったので、もっと詳しく知りたいと思う。著者は気鋭の政治学者のようだが、最終章の日銀がもっと金融緩和をすれば(=お札をもっと刷れば)デフレは解消される、という主張は単純にすぎると思う。巻末の資料リストも、経済学関係の資料はちょっと・・・(^_^;)
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デフレ派経済学者、デフレ派一般人に対抗するのに有効な知識が得られる。歴史的な見地からリフレ理論は常道であり必然。
最後の提言が第二次安倍政権誕生を予言していたような内容で、上念司氏の「日本の危機管理はここが甘い」と共に一部では予言の書と呼ばれている。
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財務省うんぬんはともかく、三木武夫が「クリーン」を標榜していたのは見かけ上で、実際は「金権政治」の対極にある「恐怖政治」を敷いていたという筆者の見解は印象的であった。また、竹下登が80年代~90年代の日本を牛耳っていたという件はもう少し他の著書で詳しく知りたいと感じた。
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眠れぬ夜には最高の一冊!じゃなかった、、増税に邁進する某組織について理解する上でも、我が国の近現代史を新たな視点と最新の研究結果から学び直すという上でも、最良の書です。大変勉強になりました。有権者必読の一冊であると思います。
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財務省の歴史と言うのはうまい切り口だ。しかしそこここに陰謀論があふれだし、デフレは悪、増税は悪とそれだけが基準ではあまりに何の解決にもつながらないだろうと思う。
関東大震災と昭和2年の金融恐慌の後、アメリカに続いて日本も金本位制復帰を目指した。昭和4年に成立した濱口雄幸内閣は衆議院第二党の立憲民政党で解散総選挙で第一党を目指すために国民の支持を得る政策が必要でそれが金本位制への復帰だった。ライオン宰相と呼ばれた濱口の政策としては緊縮財政政策で小泉首相時代に比較されたのを思い出す。この政策を実現するために蔵相に選ばれたのが井上準之助で軍部の反対を押し切り金本位制復帰を実施したが1ドル2円ほどで固定されたレートだったため日本の金貨は割安になっており円が買われた。各国とも金本位制を急がなかったのは通貨発行料を増やしてデフレ脱却を急ぐためであり、直後に起きた世界恐慌の影響もありこの金輸出解禁は不況を進めてしまった。
昭和5年のロンドン海軍軍縮会議は大蔵省の予算削減方針にそったものでこの当時は大蔵省が陸海軍に対し優位に立っている。軍事と社会保障が金食い虫なのは今も昔も一緒なので大蔵省が予算引き締めに走るのはまあ当然だろう。しかし軍には火種が残ったのだが。昭和6年には満州事変に対する方針を巡って井上蔵相は陸軍と歩み寄り関東軍の張学良討伐は陸軍の命令でストップさせられた。これをもって関東軍の専横など対したことはなく大蔵省の方が権限が強かったとまとめてしまうのはあまりにも雑だろう、その前の柳条湖事件等々全部はぶいているのだから。ともあれ若槻内閣は安達内相の閣議ボイコットのため総辞職し、続く犬養内閣で高橋是清が蔵相として金輸出を再度禁止し積極財政を押し進め不況を脱した。現在でもリフレ派が積極財政を推す根拠としてよく引用されている。昭和7年井上は総選挙中に血盟団事件のテロに倒れ民政党は総崩れ、勝った政友会の犬養も五・一五事件で暗殺された。元老の西園寺公望は海軍大将齊藤実を首相にすえ、この時高橋が日銀国債直接引き受けを実施している。
齊藤内閣は国連を脱退し、海軍は英米に対抗して海軍増強を求め、陸軍はソ連を仮想敵国として満州の関東軍の強化を図る。一方不況から脱したあとインフレ懸念が強まり高橋は軍事費圧縮をすすめ二・二六事件で高橋も暗殺された。大蔵省史観では「大蔵省は満州事変以来の陸軍の圧力に抵抗して来たがとうとう軍国主義が勝利した」と記述されている。「金融の世界史」によると当時のアメリカは満州の権益の解放を日本に要求しており、対日戦略に備えるオレンジ・プランを策定し、金融封鎖をすでに計画していた。日本が戦争をするためには石油などを買うために決済資金としてのドルが必要であり、資金封鎖をしたあとでは上海などの闇市場で金をドルに帰るしかなく、円は暴落していっている。
大蔵省としての危機は高橋を失ったことではなく最も許しがたい大臣馬場鍈一だというのが本書の指摘のポイントだろう。馬場は歳出(30億)と軍事費(14億)を33%膨張させ、公債(9.6億)を40%増額させるとともに4億の増税を実施��た。著者の批判は軍事費拡大→政治家の煽動と世論の支持→増税を含めた財源確保→軍事費の拡大というサイクルを作った馬場の政策とポピュリズムに乗って戦争を煽った近衛内閣を批判している。しかし、陸軍は日中戦争に反対でありソ連に嵌められた(ゾルゲ事件など)「近衛はソ連のスパイだったのではないか・・・そう言いたくなります」と言うのはこれまた雑だ。そして戦後は中国陰謀説が続く。
増税はダメだが日銀の国債引き受けはデフレ脱却のためにはやるべき。増税は結局税収を減らすというのが著者の主張ではあるのだがインフレ/デフレを生産と貨幣の供給だけで述べており需要を全く無視している。金をばらまきゃ需要が増えるのか?戦時中の歳出拡大は軍事費によるもので今では社会保障費拡大が原因なのだから、増税しなければ歳出=社会保障のカットしかない。リフレ政策は問題の先送りにはなるかも知れないが、それで景気が良くなるかというと資産インフレはすすんだが燃料の輸入を除けばコアコアCPIは全く上がってないと言うのが現状。アベノミクスの成果はこのままでは先行きが怪しい。日本を救うには日銀法を元に戻し直接引き受けをさせろと言うのだがそれはいつか来るハイパーインフレリスクを軽くみ過ぎている。増税反対というなら歳出カット策を出さないと話にならないし少なくとも天然ガスを安く買えないと円安政策もとりにくい。方々が手詰まりなので特効薬みたいな話は素直には信じがたい。
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2012年刊。最初、叙述の根拠・ソースが明瞭でなく(特に戦前期)、重要な事実の欠落?との危惧を生んだ上、城山三郎の小説の内容批判が挿まれて??の感。その後の「小説吉田学校」批判の件で大爆笑。簡明な研究書程ではなく歴史小説並のレベルと見てよいと了解し読破。なお、戦後を含めた大蔵省の史的展開の説明なので、岸宣仁氏(10年刊)の著作と被るのは仕方ないが、言い回しもよく似ており再度??。まぁ角栄と大蔵との関係(竹下分派期迄)・竹下登の大蔵支配はそれなりだが、ソースは不明。参考文献付記は多くはないが最低限は有。
①大蔵省内部の派閥と自民党の派閥との合従連衡、②戦前の馬場鋭一大蔵大臣の政策に関しては興味深かった。最近は、昭和20年までの経済史研究でよい本があるらしいので、それに当たりたい。なお、バブル崩壊後の日銀対応への批判は合理的だが、歴史研究者の専門的守備範囲かは疑問だし、本書との関連性も薄い。また、各権力者・陣営が親中・親米・親ソ等と見る点はかまわないが、単なる権力闘争にすぎないことを、ある立場のみが国益代表かのごとく見る書き振りは、些か筆が滑りすぎ。外交的状況との連関性も不得手か?。
まあ、望むべくもないが、新書サイズでも加藤陽子教授のような、引用が丁寧で根拠やソースが明快かつ豊富に記述する書に比すれば…。
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読みやすく、また読み物としても結構面白い本です。
ただ、文章の中身は、アーカイブ的なものではなくて、良くも悪くも著者の政治史認識とか、財政金融政策観が披露されておりますので、そういうのが苦手な方はおやめになったほうがよいと思います。
なんというか、折角多数の参考文献が挙げられているにもかかわらず、いまいち文章が信用ならないというか、大蔵省の正史を紹介しておきながら、著者の考えが惜しみなく書かれておりますので、いったいどこからどこまでがその正史の引用なのかというのがわかりにくくなってしまっているのです。
もちろん、著者の考えが展開されているところが正史ではないというのはわかるのですが、では本文からそれを控除したものが全て正史準拠かといえば、それがそうは読み取りにくいのがこの本のもったいないところでして、事実の記述はもう少し淡々と書くとか、メリハリのある文章を書いて頂きたかったなと思います。
学者先生の文章のお堅さは、その信頼性や権威という点でいえば、決して無用の長物ではないのだなと思った本です。