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初千早作品。
読んでると微かに音が聞こえる不思議な感覚。
人との距離の感じ、心の危うさが手に取るようで怖い反面、ちゃんと吐かなきゃ誰にも伝わらないと、戒めを受ける。
北見隆氏の装画でなければ手に取らなかったかもしれない。出会えてよかった。
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「esora」に掲載された3部の単行本化。
「水の音」では、みさとが語る。
けっこう年上の恋人佐藤さんの家に転がりこんで1年以上になるが、昔父親が家を出た時「あんたを産まなけりゃよかった」と言った母を憎み続け、家族には懐疑的。
その佐藤さんが何も言わずに突然家を出て行ったため、残された大学生のまりも君と途方に暮れる。
「パレード」では、まりも君が語る。
6才の時「まりものお父さんは佐藤さん」と言っていたという母が死んで、「まりもが成人するまで」という約束で佐藤さんが一緒に住むようになるが、距離をおいて聡平さんと呼ぶ。
彼は約束を果たして出て行ったことを受け入れるが、みさとはそんなまりもをおかしいと批判する。
恋人とのトラブルもあって、佐藤さんを含めて自分たち3人は人との距離の取り方が下手という同じ欠陥を抱えていることに気づく。
「あお」では、佐藤さんが語る。
6才で父がいなくなり、親戚だったまりもの母の家によく行って面倒をみてもらった。
まりもの母は判断力が欠けていてふわふわしていて家に閉じ籠っていて、葬儀で帰郷した時一度だけ抱いて、妊娠を知らされたが会いに行かなかった。
それにずっと罪悪感を持ち続けていたことが最後にわかるが、まりも君を育てて責任を果たし、仕事もやめてあてもなく旅に出、学生の時に来たことのある山の湖にやって来るのだが。。。
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木々に囲まれた古い家に住まう三人。自堕落な三十過ぎの女性、父親との距離に惑う少年、女性の愛人であり少年の父でありながら彼らから逃げた中年の男。三者三様に、憎むわけではない近しい人物との距離に戸惑いながら生きている。男が家を出たことをきっかけに、女性と少年は自分のうちに眠っていた、育っていた気持ちに気づき一歩を踏み出す。男は過去を振り返り囚われて沈みつつある、が。鬱蒼と茂った森にいるような不安定感を持たせた三人の人間模様は、どこかやはり薄暗くどんよりとしているけれど、それでも光を見つけようと進みだす一歩への気持ちがうつくしい。彼らに光差す未来が来ることを願います。そして全般的にたゆたうようなあたたかなエロティックさがあって、それは作者の持ち味だなあと感じたりしたのでした。こういう、じわりと匂いたつような色気のある文章は、好みです。
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血が繋がっていなくても、血が繋がっていても、家族は家族になれる。でも、家族って何だろう。
一緒に暮らしていれば家族。そういう感覚は確かにある。血の繋がりのない他人と一緒に暮らしていた時、それは確かに家族のようだった。では、一緒に暮らしていない血の繋がりのある人は、家族ではなくなっていくのだろうか。
人と人との繋がりは、簡単に切れるかどうか。多分、切れる。とても簡単に。人と人との繋がりは本来そんなに確かなものではないから、容易に切れないように、また容易に切れないと自分も他人も錯覚させるように、「家族」とか、「友達」とか、言葉を当てはめて繋がりを少しでも強固なものにしようとするのだろう。でも、そんな言葉を無くしてしまえば、そんな言葉に縛られる必要はないのだと気付いてしまえば、それはとても簡単に崩れ去ってしまう。
繋ぎ止めたいと思うならば、そういう意思があるならば、まさにその意思でもって自ら繋ぎ止めるべきなのだ。美里がそうしたように。人との距離に迷ってそう出来ないなら、それまでのこと。どうしても家族が必要なわけではない。「パレード」に参加しない生き方だって、ちゃんとある。参加したいと思うか思わないか。ただ、それだけのことだ。
『魚神』から千早茜のことを追ってきて、思う。不遜な物言いかもしれないけれど、千早茜の感性は私にとてもよく似ている。
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3部に分かれている。みりさん視点、まりも君視点、佐藤さん視点。家族について、血のつながりの無い3人の視点から書かれている。
文章が、かなかり気に入ったけれど、佐藤さんが吐き気がするほどムカつくし嫌いなので、読んでて楽しくは無かった。
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寂しさを抱えた3人の女、男、少年が家族として生きる話。3人のそれぞれの視点で物語が書かれているので3部構成。短い文がつながっていき読みやすい。まりもとみりは、まだわかる。けれども佐藤さんは、ずいぶん困った人だと思った。傷ついた自分をいつまでも持て余して逃げ回る男なのか?こんな男だけは、御免こうむりたいと思う。
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歪に寄り添って暮らしていた三人が、一度崩壊し、そして、再生していく話。千早茜独特の退廃的な感じは相変わらずだけど、よりリアリティがあり、新しい段階に踏み出しつつあるのかなあ、と思った。
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やっと読める。サイン本を見つけてからどれくらい経ったのか。苦手なジャンルの本に手こずって、この本を開くのにかなりの時間がかかってしまった。千早茜さんは大好きな作家さんで、『魚神』は単行本と文庫本の大人買い。そして今作。待ちに待ったというところ。
8頁目
《起きているのは私だけ、今はたったひとり。そう思うと、夜がほんの少し膨らんだ気がした。》
好きな作家さんは、文章を読むだけでうっとりしてしまう。声に出して何度も読み返したくなる。こんな幸せな時間を与えてくれることに感謝しないと。
14頁目
《蝋燭の火はあたたかく見えても触れられない。強く吹けば消えてしまう。そんなあやうさが扉を縁取る灯に滲んでいた。》
この一文。とある人物への思いと暗く静かな場景を美しく想像できる。綴じて栞にしたいような文章。
22頁目
《けれど、私はあたたかすぎるより少し冷たいくらいがいい。間に風が通るくらいの距離が居心地好い。》
いっときなら本当に近しい関係も気持ちいいけれど、長い時間を重ねると、少しの隙間が必要になってくる。
36頁目
《失ったと言えるのは一度でも得ることができたものだけだ。本当は何も与えられてはいなかったのかもしれない。》
傷ついたり落ち込んだりすることは簡単だ。でも、冷静になって考えてみると、そもそも手に入れてさえいなかったのかもしれない。
41頁目
《人が一人消えたって世界はなくならない。当たり前のことだ。》
自分がいなくなったらどれだけの人が泣いてくれるか、なんて考えていた高校生の頃。そんなことすら頭に浮かばなくなった今は、果たして幸せなのだろうか。
86頁目
《葬式ってさあ、逃げられないじゃない。内心、みんな思ってんだよ、めんどくさいってさ。》
不謹慎だから、不道徳だから言えない。でもきっと思ってる。悲しみなんて独りで抱え込むものだ。
102頁目
《最初から期待というものがなければ、人はある程度は求めずに生きられるものなのだ。人を打ち砕くのは現実そのものではなく、現実と期待との落差なのだと思う。》
自分の考えがそのまま文章化されていて驚いた。円滑な日常には期待値の調整が必要不可欠だ。
120頁目
《私、着ぐるみとか怖いの。中でどんな顔してるかわからないじゃない。》
表情の固まったものが怖い。その裏の顔が恐ろしい。表面がにこやかであるほど、得体の知れなさが増していく。
145頁目
《「笑った顔しか覚えてないんだ。親ってそんな偏ったものじゃないだろ。泣いたり怒ったりするものなんじゃないの」》
親も自分と同じ人間で、子供が大きくなっただけなんだと思う瞬間がある。これも成長の証のひとつ。
217頁目
《異物を植えつけられ、歪にふくれあがった身体はひどく生々しかった。人体が人間性を失って果実とか虫とか、もしくは単なる容れ物になってしまった感じがした。》
妊婦という清らかさの象徴のような存在に対してのこの描写。静かに禁忌を犯す感じが堪らない。
読了
三者三様、それぞれの視点で各章が描かれる。森と湖のイメー���が全体に漂っていて、その柔らかな雰囲気の中、言葉のひとつひとつがすとんと心に落ちてきた。静謐な舞台の上にふと湧き上がる辛辣な感情。歪んだ優しさと不器用な関係性に愛おしさを感じた。
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柔和な笑みを絶やすことのない温厚な佐藤さんの家に、みりは居候として一年ほど一緒の家に住んでいる。
佐藤さんの子供であるもうじき二十歳になるまりもは、物静かで大人びている少年だった。
何の狂いも違和感すらもなかった筈の生活だったが、
佐藤さんが姿を消してから、乱された環境と心境。
血のつながりがあるのかすら、本当は危うい親子である佐藤さんとまりも。
ひょうひょうとしていて他人に執着しない佐藤さんに、気分屋の野良猫みたいだったみりが抱いた強い感情。
感情をぶつけてくるみりに苛立ったり、佐藤さんの影のある優しさに戸惑い本当の心を見せようとしているまりも。
まりもの母である果穂子の亡霊にいつまでも抜け出せずにいる佐藤さん。
新しい家族になるのかなー。
三人ともそれぞれ抱えている別々の思いは、いつしか絆のようなものに変わりつつあるのが、読んでいてよかったよ。
みりのキャラが可愛くて好きだ~!
表紙がホラーちっくだったから、ずぶずぶと沼に沈んでいく豚、みたいなどろどろ系を想像していたけど
意外にもほっとするような話だった)^o^(
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「みり」「まりも」「佐藤さん・聡平さん」
あたしに近い部分があって、いけすかないみり。
まりもは、あたしがそうでありたいと思う人で、でも遠くて。
あまりのめり込めないまま読み進めていたのに、気付いたらどっぷり嵌っていた。
更にみんなの事が好きになってた。
不思議な感覚を味わったな。
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千早茜さんの初めて本。
第3章(話)で、どんどんつまらなくなった。やっぱりというか。
読後感、よくない。理解されない孤独な人を理解することはできなかった。
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千早さんの作品はからまるしか読んだことはないけど、静かな中にも胸にせまる風合いが好き。
この作品は、子供のいる男の家に住んでいる恋人から始まり、その子供、そして男、と語り手をかえてすすむ連作。
血のつながりや家族、執着についてそれぞれがどうとらえて、また、変化してゆくかがみどころ。
心のよりどころは自然に備わっているのか、もしくはそうしようと努力するのか、改めて考えた。
大きな事件はないんだけど、ほんの一言で心が動く、そんな場面が千早さんの筆力。
真ん中の章、まりも君の話が一番好きだなあ。
また読み返したい作品。
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総平さんとその息子、大学生のまりもが住む静かな家に、総平の恋人美里が住み始めるが、ある日突然総平が出て行ってしまう…
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それぞれの過去を読んでいくと、不安になります。
「さみしい」気持ちで強くつながることもあるんだなぁ。
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人との距離の取り方をはかり難い3人の、一見脆くて儚い繋がりが、それぞれの語りの終局に、思いがけなく強まる予感をみせる。けれど、どうももやもやしてしまって、どう考えていいか判らなくなってしまった。