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祝・芥川賞‼
ずっと鹿島田真希さんを応援していたわたしにはほんと嬉しい受賞。
表題作の冥土めぐりと99の接吻、の二編の中編小説。
冥土めぐりはもうさすがです。ほんとさすが。奈津子のなにか切迫した感じ。あまり長くない文章を重ねて創り上げる物語。奈津子の一人称で物語は進む。
脳に障害を抱えた夫、太一と一泊二日の旅に出る。かつて裕福であった頃、や、裕福であると信じ切っていた母親と弟と来たホテルに、太一とふたりで。過去と現在を思考がめぐり、太一のただ純真なままの姿が、なんにも考えていない無垢な姿がまたいい。
そして過去の裕福だった良い記憶だけを頼りに生きるどうしようもない母親と、同じく自分を裕福で優れた人間だと疑わない借金まみれの弟の描写が素晴らしい。
99の接吻はおかしいくらいに姉を愛し尊敬している末っ子からの目線で送られる3人の姉の男に狂い、そして姉妹関係までもギクシャクし、それをみて末っ子が興奮する、という。屈折してるのか真っ直ぐなのか。面白いのとページ数少ないのとですぐに読めます。芥川賞の中でも、過去の鹿島田真希作品の中でも読みやすい一冊だと思います。
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あらすじとしては母親と弟と自分の旦那を養っている女の人が主人公です。
旦那は結婚した後、脳の病気を発症してしまって体が不自由になってしまっています。
その夫婦が落ちぶれたホテルに旅行に行くお話です。
旅行をしている現在と母親と弟に関する記憶が交互に展開されていて、
鹿島田さんはそれをロンド形式という風に表現しています。
音楽的な用語なんですが、ちょっとそこは不勉強なのでよくわかりません。
選評の中で、「日本の縮図」と高樹のぶ子さんがおっしゃってます。
確かに今、たった一人の労働者が親や家族を支えていて、
支えられている方は年金とかそういう国からの支援も受けながら、
なんとか生活しているということはどこにでもある話なのかなと思います。
中には、それを有難く思わず、
当たり前という風に考えている事例もたくさんあると思います。
最近そういう報道もよくされましたからね。
それだけだったら悲しいだけのお話なのですが、
鹿島田さんが「救済を書きたかった」とおっしゃってるように
確かに救済されているのがわかります。
支えていると思っている人が実は支えてもらっていて、
それに気づくと安心するというか頼もしいと思えて
また頑張ろうと思う、
そういうのが素敵だなと思いました。
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第147回芥川賞受賞作。
物語は主人公の奈津子の一人称で進みます。四肢に障害がある夫・太一との短い旅行を通して、自分を苦しめ続けていた母親と兄をめぐる過去が語られていきます。このブルジョアだったころの記憶にすがり付いてる母と兄のエピソードは、読んでて苦しくなる。鯛のカルパッチョをけなすところとか、ウェルカムドリンクを自分の手柄のように語るところとか、イタイイタイ。でもなんかわかる!!!!
特に兄の怠惰さは、リアリティにあふれてました。笑
太一は、障がい者であるというより、その天性の純真さ、素朴さで、過去に縛られるヒロインの、風穴を開ける存在になります。平凡ゆえの聖性というか。
でも、太一が救世主として舞い降りる、というより、主人公自身が、人生の突破口として彼を選んだんだ、と読んでいるうちに思えてきました。
価値観の違う存在に出会うことで、それを選ぶことで、救われて、それは主人公にとって復讐でもあったんだろうけど、でも、私の頭の中には奇跡、という言葉が浮かんで、やっぱし奇跡なんじゃないのかなとか。
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『冥土めぐり』は読んでてなにか気持ち悪い、蜷川監督『ヘルタースケルター』を観た時に感じたようなものが感じられた。でも心の襞に引っかかるというほどでもない。
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主人公の、生い立ちや現在の環境は、あまりにつらく、なかなか現実味が湧かないものだけど、主人公の考え方や行動は、とても自然な感じがして、そこに強い現実が見えた気がします。
淡々と話は進み、過去と対面しながらも何ともなく終わっていきますが、この平坦なところがまた、なんともいえないです。
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「冥土めぐり」は母との関係、「99の接吻」は姉たちとの関係。
女同士の関係っていろいろありますね。
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過去にとらわれる母、職につかず借金を重ねる弟、病で障害者となった夫。どん底の主人公は、母の過去の栄華の拠り所となっているホテルへと旅する。そこで喪失の連鎖を断ち切るあり方を、能天気で無口な夫の佇まいに見出す。
そこはかとない寂寥感は素晴らしいんだけど、人物像にリアルさが感じられないので読後に何も残らない。それもわざとなのか。
もう1編収録されている「99の接吻」はすっごく面白かったですよ。
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主人公「奈津子」の夫の太一は病気で車椅子生活。この夫、かなり無神経で鈍いのだが、浪費癖のある母と弟に悩まされている奈津子にとっては、それが逃げ場になっている。作者の以前の作品「ゼロの王国」の吉田青年と同様、ドストエフスキーの「白痴」主人公であるムイシュキンになぞらえている部分があるのかもしれない。
その奈津子と太一が、かつて奈津子が家族で泊まったリゾートホテルの成れの果てに泊まりにいくというのがストーリー。虚しさやはかなさを感じる場面が多いのであるが、なぜか太一の鈍さが救いになってくる。
普通の小説であれば、いらいらさせられる存在になりそうな太一の存在感というのがこの小説の面白さかと思う。
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あまりにひどい状況の記憶描写の連続、救いが無さすぎ。とりあえず最後まで読んだが嫌な気持ちだけが残った。
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想像していた以上に、異常な母親と弟、
鬱々と続く主人公・奈津子の回想に、
ずっと我慢しながらの読書
最後に、夫・太一に救われる奈津子にほっとして読了
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毎度のことながら、芥川賞は万人向けじゃないですね。とりあえず、純真無垢な太一のおかげで奈津子もようやくトラウマから抜け出せそうだし、良かったけれど、この話の暗さと重さといったら滅入ります。もう一作もやはり暗くて重い。兆しは見えたものの、これから菜菜子はちゃんと一人の女としてやっていけるのかな?とりあえずどちらもあまり楽しい種類のおはなしではなかったです。
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今の時代にあった、というか、必要な本だと感じた。裕福ではないのに、裕福な過去にすがって不幸になってるのを突きつけられた。
太一のように生きたい、そして幸せを感じたい。お金で悩む事は多いけど。
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さらりと読めた。"都落ち"した母と弟と、身体障害者の夫を持つ奈津子の小旅行の話。舞台は、誰もが熱海と思うのではないか。
著者がキリスト教信者と言うのを知り、読むと、明文化されない部分で脈々とその思想が織り込まれているのかもしれないと感じる。
今回の芥川賞はさらさらであった。
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人はひとりで生きていくしかないという絶望というか諦念というか
一種の居直りが、その人にむしろ明るさをもたらすということはある
しかしその明るさは世間に不安を与えるというか
どちらかと言うと否定的評価、
無責任とか身勝手とか自分さえよければそれでいい冷酷な奴とか
誤解であるにせよなんにせよ、とにかく
あまりいい顔はされないことが多いと思う
それを思うと「冥土めぐり」という小説に登場するご主人
太一さんという人の設定には若干のご都合主義を感じないではない
しかしまあこれもひとつのロマンというか
太一さんは、主人公が思ってたよりずっと社交的であるという事実が
彼をメーテルリンクの青い鳥みたいな存在に見せていくわけだ
その社交性が、単なる外面のよさによるものなのか
なにか別の、ひきつける力を持っているのかよくわからんが
とにかく主人公は、親のエゴに太一さんの物語を対置させることで
空虚なる抑圧がもたらす病に適応するのである
けっこう好きな話です、いずれ同じ穴の狢となる可能性はあるにせよ
主人公の弟に「私小説書きになるんだ」とか言わせてたら面白かった…かも
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一見陰鬱とした文体は正直自分好み。モチーフも描き方もうまいからなのか、すっと読める。気になるのは主人公が消極的選択をし、それに捉えられているけれども救われてしまうところ。選択しないことを選択し、諾々と「哀れな過去」に囚われ、ただそれすらも自己の責任として生きていくということは、やはりありようとしての違和感がある。信じれば救われる、というのはファンタジーであろうけれども、それをファンタジーとして受け入れられるのか。社会や自身を投影してしまい囚われることのないよう、読み手の判断が問われるのではないか、と思う。