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「わたしは“こう”だけど、あなたもほんとは“こう”でしょ?」
アメリカ北東部メイン州のクロズビーという海辺の町の住人たちが数十年の歳月の中繰り広げられる、当人達には重大ないくつもの出来事。
オリーヴ・キタリッジの役割は、ある時は当事者、ある時は観察者、ある時は通りすがりとして登場するも、いずれもその気性から発せられる個性が、自分も含めた住人達の人生の出来事へ、ほんのちょっと(又は思いがけず大きく)作用する。
訳者あとがきに「中高年の文学」とあるが、「決して穏やかと思わないよう」注意書きが添えられている。
「象のように大型で気性の激しい」オリーヴの四十代から七十代。
この読書の時間の間、モディリアーニの肖像画のような女性(私のオリーヴの印象)に、鑑賞者自身も見つめられ、観察されているよう……。
「わたしは“こう”だけど、あなたもほんとは“こう”でしょ?」と。
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原題は「オリーブ・キタリッジ」
アメリカ、メイン州の架空の町 クロスビーに住むオリーブ・キタリッジと夫ヘンリー。彼らと何らかの関わりのある町の人々の身に起こる出来事、そこから浮び上るそれぞれの人生、運命を描く連作短編集。
作品によって、オリーブ・キタリッジは主人公であったり、重要な脇役であったり、一瞬の通りすがりであったり。
その存在は、時に近景、時に遠景であるため、(おそらく小さいであろう)町全体、町の人々が立体的に浮かび上がり、俯瞰で眺めているような印象を受ける。
堀江敏幸さんの作品風にいうとタイトルは「クロスビーとその周辺」という感じ。
無名で、一見平凡に見える人々の、全く平凡でない営みと人生。
我々の人生も一つ一つを取り出して眺めると、こういうものかもしれない。それらの
パーツで成り立っているこの世界。
ジュンパ・ラヒリ作品で素晴らしい仕事をなさっている小川高義さんの翻訳が、本作品でも素晴らしく、この作品を一層魅力あるものにしている。
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オリーブが自分の母親とそっくりで読んでいて苦々しかった。
悪気は無いだろうが人を傷つける、それなのに愛情深い面がある。
唐突な場面転換や誰が誰だか途中でわからなくなって、読むのがイヤになった。
しかし、結局読了。
それは心にジワリと響く作品だったから。
読後、今後出会うであろう中高年の迷いや心の揺れなどをおおらかに肯定できるような気がした。
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たまに素敵な表現の文章に出会う。
しかし、ちゃんと集中しないと誰の話をしているのか、わからなくなり読むのが疲れる。
途中で、断念。
もう少し辛抱して読めば良さがわかるのか???
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最近、いろんなおばあちゃん小説が日本でも多く出版され、評価もされている。それらの小説が評される時、必ず「原型」として出現し比較される「オリーヴ・キタリッジの生活」。きっと読んだら大好きになる、と確信を持って満を持して読む。
期待を裏切らなかった!
オリーヴがどんどん母と重なってくる、と同時に自分とも重なってくる。
「セキュリティ」が一番好き。
つかみかける幸せの気分はすぐにどこかに飛び立ってしまう。息子とその妻への遠慮と本音が同時にオリーヴの心にあらわれる。
軽くあしらわれ傷ついて怒り、でも同時に自分が求められる母親ではもはやないことに諦念しているダブルバインドの鬱屈。
「振り返った息子がすっきりした顔をしているので、オリーヴも頑張って歩いた。実は疲れている。年を取れば、朝昼晩と、ほっつき歩いているわけにはいかなかなる。そういう時期が来るのだということが、若い人にはわからない。」p372
いつぞやの、母と私たち家族の散歩を思い出して胸が苦しくなる。
「あるとき虫歯の穴を詰めてもらって、医者のやわらかい手の先でそっと顎の位置を変えられたら、こんなにやさしいことがあったのかと切なくなり、うぐっと呑み込んだような声が出て、目に涙が、あふれてきた。」
こんな孤独!いつか私にもやってくるのだろうか。
なんと言ってもこのシーン。
自分の胸にアイスクリームのシミを見た時のオリーヴ。そのシミを指摘しなかった息子たちへの怒りと自分の老いの自覚。
それを物分かり良く自戒したりしないのが、オリーヴの魅力だ。いつもぷりぷり怒っている(笑)そして、怒って帰ってしまう!予定調和を裏切るのがオリーヴ。
「川」では二代目ボンクラ共和党大統領を「知能に欠ける」と言い切って腐すオリーヴ。ステキ!
続編もすぐに読もっと。
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短編連作集。うーん、ヘンリーの章はとても実感を持って読めたのに、主人公のオリーヴに魅力を感じず読み切るのに時間を要す。人生の辛苦、解決できない距離、老い。
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夫婦、親子、隣人、友人など人間関係の機微もストーリーも面白いです。
辛辣で、欠点の多い性格のオリーヴに最初は抵抗がありましたが、章が進むにつれ、好きになっていきました。この体験がなかなか味わい深いです。
ユーモアをたたえながらも、老いと死が主要なテーマです。人生はきついものですが、悪いことばかりではないと励まされました。歳とともに沁みる作品ではないでしょうか。
この本はこれから何度も読み返すと思います。
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とっても読みやすくて、あっという間に読み終えた。
第二巻の存在を先に知り、気になって一作目を読み始めたが、
今後の展開が気になる終わり方だったので、
このタイミングで読んでよかったなと思った。
ヘンリーに起きたことを思うと、
人生いつ何が起こるかわからないし、
最期の形も三者三様だなと思った。
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2009年度ピュリッツァー賞・小説部門受賞作。
タイトルに名前のある女性
オリーヴ・キタリッジは元数学教師。
気難しい性格で、
歯に衣着せぬその物言いはいたって辛辣です。
でも、この連作短編小説は
必ずしも彼女を中心に据えた物語ではありませんし、
常に彼女の目線で語られているわけでもありません。
主役であることもあれば、
ときに脇に回ったり、
お話によっては
ちょこっと名前だけ出てくることもあります。
舞台はアメリカのメイン州クロスビーという港町。
おそらく住人のだれもが顔見知りという、
小さな町であることが想像できます。
この静かな田舎町で暮らす人々の
ささやかな人生模様が描かれているのですが、
登場するのはごく普通の人たち。
とくべつな人生を歩んでいる人などではありません。
人は生まれ、
出逢いと別れを繰り返しながら、
小さな喜びや大きな悲しみ、
どうにもならない寂しさなんかを
ひとり抱えこみ、
やがて老いて、死んでいく。
そんな普通の人々の
普通の日々の物語が胸に沁みます。
まるで人間のいとなみの縮図をみるようでした。
べそかきアルルカンの詩的日常
http://blog.goo.ne.jp/b-arlequin/
べそかきアルルカンの“スケッチブックを小脇に抱え”
http://blog.goo.ne.jp/besokaki-a
べそかきアルルカンの“銀幕の向こうがわ”
http://booklog.jp/users/besokaki-arlequin2
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心に染みる人間讃歌。
老いと孤独、夫婦の関係と親子の関係。ひとはそれぞれの事情を抱え、日々暮らしていく。
主人公の一人、オリーヴ・キタリッジは、数学の先生として32年間勤め上げたものの、自分勝手で、怒りっぽく、最後には最愛の息子に、妄想癖があって情緒不安定だと断じられる。
そんなオリーヴだが、いたずら好きの天使のように、その町の人たちの人生にそっと入り込み、何かしらのきっかけを与えていく。
後悔を重ねながらやっぱり生きていくことになる不思議。
「よくわからない。この世界は何なのだ。まだオリーブはこの世を去ろうとは思わない」
解決策は提示されない。
突き放して終わる。でも、その視線は温かい。
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偏狭な中年女性が歳を取りながら生きていく。息子に嫌われて悲しんでいるが、本人のせいもかなりあるのでは。
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明確な問いや、明確な答えが与えられるわけではない。不安にもなるし希望も抱ける。最高だった。
80
わけのわからない、めちゃくちゃな世の中だ。こんなに彼女は生きようとする。夢中でしがみつくではないか。
101
まあ、人生、こんなものだろう。わかることがあるとしたら、とうに手遅れになってからわかる。
231
そう言う混乱状態が、また(さらに疲れてしまうのだが)かっかと怒りたくなるようなことも、若い人を待ち構えている。それを通り過ぎるまでには、さんざん人を責めて、責めて、責めまくり、それで疲れたりもする。
269
そう言えば、と思い出す日々がある。まだ人生の盛りだった中年の夫婦として、ヘンリーと手を繋いで帰っていった。ああいう瞬間には、静かな幸福を味わうという知恵が働いただろうか。おそらく、わかっていなかった。たいていの人間は、人生の途中では、いま生きているということがわからない。
322
「あの日に言われたこと忘れないわ。自分が飢えてるのをこわがってはいけない。飢えをこわがったら、そのへんのおバカさんと同じになる、って」
447
よくわからない。この世界は何なのだ。まだオリーブは世を去ろうとは思わない。
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ストーリーがないような短編の羅列。なのに、すごく面白かった。素晴らしい作品だった。
特に未亡人になっていく過程とかグッとくる。
蓮っぱな言葉遣いがすごく好き。
しかし、これ読むと、結婚しなくていいや、って気になるな。
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あれ? 続編はつけてるのに、なんでこっちは登録してなかったんだ?
とにかく続編の前日譚でwピュリッツァー賞に輝く傑作。
小さな町で、頑固な変わり者のオリーヴと、周りのいろんな人たちが日常生活を送りながら出会う出来事や心の変化が淡々と描かれる短編集。何度でも読み返したい。
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邦題と表紙絵から想像していた爽やかさは薄く、代わりに毒気がそこそこ。でも市井の人々への愛おしさを感じさせる描きぶりで、追うのが嫌にならなかった。
閉じてから冒頭「薬局」に戻ると泣けてくる。
またクロズビーの人たちに会いに来る、と思う。