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ドラッカーも影響をうけたという経営学者というか、経営思想家としてメアリー・パーカー・フォレット(1868~1933)は以前から気になっていた。
最近、経営学の創始者ともいえるテイラーの「科学的管理法」を読んで、時代の違いのため文脈を理解することに難しさはあるものの、意図しているところは、今読んでもなるほどな点があることを発見した。まあ、食わず嫌いでしたね。
いろいろなところで言及される古典的な本は、なんとなく読まずにわかった気になってしまうのだが、やはり原典にあたることが大切だなと思ったところで、フォレットも確認しておこうと思った。
が、フォレットは翻訳されているものが少ないし、どの本が主著?なのかもわからない。また、時代背景の違いもありそうなので、まずは、入門書的なところからスタートした。
これが実に面白かった。
経営学という分野は、経済学とか、工学とか、心理学とか、他の学問の方法論をつかって、「経営」というものを考える、そういう応用分野と思っていて、なんだか経営学独自の方法論というか、哲学みたいなものはないと思っていた。
経営学の哲学に一番近そうなのは、ドラッカーくらいかな?彼の場合も社会や組織、人の見方の洞察はあるのだが、哲学というところまでのものではない。また、ドラッカーの思想は、ストイックというか、ピューリタンな感じがあって、今ひとつ近づきがたい感じをもっていた。
が、フォレット。まだ、この入門書しか、読んでいないけど、ここにははっきりとした経営学の哲学、思想があると思う。
そして、うれしいことに、ここに書かれていることは、わたしの基本的な考えととても近い。(彼女のスタート地点は、政治学。そこをスタートとしたことで、人間間のインターアクションにフォーカスがいくんだろうな)
関係性的な自己という概念、全体性、そして円環的な因果、相互のインターアクション重視のシステム論、創発、動態的なプロセス論、コミュニケーションや対話の重視、解釈論的なアプローチなどなど。好きなものがいっぱい!
1933年に亡くなった人(奇しくも、ヒトラーとルーズベルトが政権についた年)で、本人は、「科学的」にテイラーの議論を発展させたものと思っていたのかもしれないが、今、読めば、これはほとんどオートポイエーシス理論であり、社会構成主義だ。
現代の経営学のなかでも、もちろん、システム論や社会構成主義的な立場を取り入れたアプローチはあるものの、それはなんというか、今の経営学への批判であったり、一部取り入れたものであったりしている。
が、フォレットの経営思想は、土台からシステム論、社会構成主義で、そのうえになにかを構築していけるのではないかという可能性というか、希望を与えてくれる。
そして、フォレットの議論に含まれる「科学主義」の「残滓」みたいなものも、それはそれで貴重な気がしている。なんでもかんでも、不確定のままにして思考停止に陥るリスクをさけるためには、なんらかの「事実」からスタートする必要があると思っているので。
もちろん、「事実」も相対的なもので、解釈が入り込むことも多いだろう。だが、フォレットの議論に沿っていくと、「事実」も、最終的な、確定的な、そして外部に客観的なものとして、存在するわけでなく、関係している当事者たちが、「事実」に目をむけ話し合い、その時点で合意できるものが「事実」である、とプロセス的に解釈することもできると思う。
面白いな〜。
そういうわけで、フォレットの議論の現代性をとても感じている。本の最後の2章は、「フォレット理論の現代的可能性」ということになっていて、これはこれで面白かったのだが、フォレットは、ここで紹介されていることよりも、もっと大きな可能性をもっている気がするので、★は4つにしてみた。