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「雑誌の王様」との書名の通り、「戦後雑誌のすべて源泉は清水達雄の雑誌作りにある。」と筑紫哲也と井上ひさしに言わしめた天才編集者の個人評伝と思い読み始めたのですが、平凡出版、そして社名変更したマガジンハウスを舞台にした大群像劇でした。常に時代を進める役割を担ってきたこの出版社については赤木洋一『「アンアン」1970』とか椎根和『POPEYE物語』とかで、都度都度、読み継いで来ましたが、それらの作者も登場する夢と挫折と再生のクロニクル決定版的重量感を感じました。そういえば、先月、甘糟章さんも亡くなられました。作者は文中で「恩讐」という言葉を使っているのですが、誰もが苦い想いを抱えて、この舞台を去来するのです。この雰囲気は同じ作者による『U.W.F戦史』にそっくり。そうか、清水達雄が前田日明か…ただ、本作の方が作者本人が登場人物な分だけ胸苦しさが強いかも。マガジンハウスのDNAを今も現場で発揮する淀川美代子さんへのインタビューで、過去には興味がない、と言い切る女性編集者に対して、執拗に過去にこだわる元編集者の作家という対比にこの本を成立させている情熱があるのだと思いました。しかし、そういった「恩讐」をすべて超えて「hanako」が「キャリアと結婚だけじゃイヤ」、「POPEYE」が「シティボーイ」というそれぞれの原点に立ち戻って若い世代によってアップデートされている今の状態こそがこの出版社が創り上げた偉業である気がします。無くなってしまった「平凡」「週刊平凡」「平凡パンチ」との比較で考えると面白い。