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いやあ、これはこれは!久々に「SF」を読んだなあという満足感でいっぱい。危うくパスするところだった。よくぞ読んだものだ。
大森望さんの「萌え要素をちりばめながらそっち方面には行かない」という評がなかったら、この表紙ではまず手に取らなかっただろう。控えめではあるけれど、はっきりとラノベ的。おまけに冒頭部分があまりにも陳腐で、投げ出したくなったのを我慢して読んでいったら、だんだん引きこまれていった。大森氏の言う「ちりばめられる萌え要素」はまったく好きではないけれど、物語の行き着く先は堂々たるSFの大技だ。
もっとはっきりちゃんとしたSFってわかるようにしてよね!と思いかけて、ふと気づく。いやこれは逆なんだな。「本格SF」じゃないなら読まないもん!なんて奴より、ラノベ風の看板にひかれて読んだら、あらまあこれってすごいんじゃない?って思う人の方がずっと多いってことだ。
提示されるビジョンの大きさがとてもいい。想像力を駆使して、思いも寄らない景色を見せてくれるのがSFの醍醐味だろう。しかもそれが突飛なものという感じがないところが本作の優れているところだ。いやまあ、常識的には十分突飛なんだけど。
あと、大森氏も書いていたが、京都で学生生活を送った身には、設定が感涙ものだ。2080年の未来にも京大がまだあって、それより何より、進々堂が創業150年を迎えているというんだから!確かに京都は(特にあの近辺は)少々の時の流れにはびくともしない感じがある。いろんな意味で楽しんで読みました。
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なんと言えばいいか、オチには不満だけど、物語としては終盤近くまで楽しませてもらいましたというところ。
野崎まどなので、ちょっと警戒したのは事実だけれど、何も知らない人がそのまま読んでも問題はないでしょうね。おそらくは語られないままの何らかの世界設定があるのでしょうが、それが、あまり意味をもっているわけじゃないだろうと思います。舞台が京都であることとかね。
ただ、アイディアと、ヒロインの強烈さで引っ張りすぎなので、それ以外の部分の味わいが不足してて、もったいない。ああ、結構頻繁にもったいないって言ってるなぁ。思うに、登場人物それぞれにもっとドラマがあってしかるべきだし、まあ、そういうことを始めると、翻訳物なみの厚さになるだろうけれど、そういうのが読みたいし、そういう様々なドラマを配置しうるだけのストーリーたりうると思います。だから、これをモチーフというか、「ノルウェイの森」における「蛍」のようなものにして、あるべき本編たる長編小説を書いてくれればいいのにな、なんて思ったり。
あと、蛇足ながら。
オチが嫌いなのは、それが救いのような仮面を被っているからですよ。とはいえ、どうやら、そこがキモのアイディアなので悩ましい。別れた人にもう会えないということには、切実さがあるがゆえに、物語としての味わいをもたらすと思うんですがね。
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今から何十年も先の情報技術が非常に発達した世界を舞台にした話です。情報を扱うための人口の脳葉を使って、視界に情報を表示したり、いろいろな情報を瞬時にネットで検索したりできるという設定がとても面白かったです。
1章は主人公とそれらの技術を開発した研究者との関わりについて描かれており、その話が面白かったのでのめり込んで読むことができました。
2章以降は知ルという不思議な少女と行動を共にしていく話です。そこも大体は面白いのですが、彼女の持っているあるものが、いかにすごいかという描写が結構あり、それがちょっとくどいです。
どんな風に話がまとまっていくのか、というのがなかなか想像できない話でした。今までに出てきたいろいろな会話が最終的に収束していき、綺麗にまとまってよかったと思います。
ネットワークとかパソコンとかが好きな人は特に楽しめるんじゃないかと思います。
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久々の一気読み。
攻殻機動隊の電脳のように、脳をネットワークに接続すべく「電子葉」を移植が義務化された世界の話。(といっても話はその技術の最先端である京都で完結する)
「電子葉」はありとあらゆるものに使用されている「情報材」を介して情報を取得する。
人にも全て情報が付与されており、いわば国民総タグ付けの世界である。
また、人のクラスによって、取得できる情報量と守られる情報量が決定されている。
伊藤計劃の「ハーモニー」的な世界観に近いか。
情報社会のあり方だとか将来的な話かなと思って読み進めていたが、どっこいもはや哲学のお話である。
「哲学は自然科学の最前線だよ」
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Twitterにて飛浩隆氏が楽しく読んだ旨を投稿していたので手を出してみたが、303ページで床に叩きつけたのが今さっき。
文章自体は基本的に洗練されているものの、ライトノベルレーベル出身作家特有の表現技法や性格づけ、言い回しなどが時折顔を出す。実際、出版当時に購入をためらったのも試し読みした際冒頭2、3ページの展開から既に軽い嫌悪を覚えたためだ。
『失踪した恩師の目的とは?』というサスペンスじみた展開になり始めてからは確かに面白い。科学の門外漢である私にはこの本の娯楽小説としての側面しか理解しきれないが。展開が突飛でご都合主義であること、描写が雑で門外漢には難解であることから星はふたつとさせていただく。
繰り返すが、303ページでとうとう床に叩きつけた。そんな上手い(美味い?)話があってたまるかよ。
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野崎まど早川文庫進出初作品。おめでとうございます!
誰もが補助脳としての電子脳を有し「知る」の意味が変わってきた時代。夢のようなガジェットとそれを当たり前とする世の中が面白い。先生の存在と謎、彼女と過ごす4日間などストーリー展開は悪くなく、安定している。だが惜しい。デビュー作のようなカタルシスには到達できなかった。彼女が死から戻ってこれたのか分からないラストは悪くなかった。誰もが死後を知っている、そのことを示唆するラストは悪い訳じゃないのに惜しいと感じた。なんだろう。結局14才の中学生と身体を繋いでしまうことが悪い意味で昔のSFらしいというか。悪くはないが、野崎まどならもっと先へ行けただろうと思う。次作を待つ。
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電撃文庫出身の野崎まどが書いたSF作品。いやー、面白かった。
物語の舞台は超情報化対策として人造の脳葉・電子葉の移植が人間に義務付けられた近未来の日本。人とコンピュータが一体化してるような感じですね。そんな世界で情報を管理する情報庁に務める官僚の御野は、恩師にして天才的研究者だった道終が情報素子コードに残した暗号を発見し・・・。
「情報の進化によって、人は今まで誰も知ることができなかった世界を見ることができるようになるかもしれない」と感じさせられる興味深い作品でした。
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日本SF大賞の候補になり話題だったので手にとってみた。『電子用』という物が人間の脳に移植され、人類が常時ネットワークに繋がっており、ネットワークへのアクセス権限により『レベル』という制度で分けられている、という設定。SF的な舞台設定と舞台である京都の神護寺や京都御所などの日本古来の建物の対比が面白いなあと感じた。
話は主人公が恩師を探すところから始まる。中盤までは話がどのように収束するのか全く予想できなかった。そういう意味ではミステリー的な要素も強い。作中では仏教用語も多く引用され、生死観というのが作中の大きなテーマになっているように感じた。終盤は、なんというか、生死について、知ることについての思考実験のような雰囲気なっていった。
中盤、『レベル*』が出てきた場面では能力バトルっぽい展開になって、「もしかして、ここから先は能力バトル路線になるのか?」と不安になったがそんなことはなくて安心した。
それと、序盤は主人公が一般市民よりも高いクラスを持っているということで、優越感を感じていたが、物語が進むに連れて「低クラスの自分なんかが…」と自信がなくなっていくのも面白かった。
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攻殻機動隊的な世界観ということで勧められて読んだのだけど、面白かった。深く理解するためにはもう一回読みたいなぁ。なかなかテンポ良く進むので理解が追いつかないまま読んでしまったかも。
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「おすすめ文庫王国」における『オリジナル文庫大賞』で満票だったこの本。
今スマホを持って、ほんの少し昔から比べても段違いに情報が手軽に入るようになったけど、そうしたこともあって“電子葉”というアイデアもすんなり入り込み、荒唐無稽な設定ながら何となく絵柄が目に浮かんでくるような描写に、アニメを見ているような感覚でサクサク読み進む。
SFチックな話だけれど、そこに深入りせず、むしろ古風な雰囲気を漂わせた活劇や謎めいた逃避行が予測を外して読ませ、結構楽しめた。
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作者のこれまでの著作の中でも、最高の傑作に感じました。特に終盤からの展開は全く予想できず、良い意味で期待を裏切る結末でした。作者の発想に脱帽です。
近未来SF、ITという分野に抵抗がなかったのもありますが、構成や文章についても文句の付けようがありませんでした。
是非とも人に薦めたい一冊です。
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超情報化対策として、人造の脳葉〈電子葉〉の移植が義務化された近未来の京都が舞台。今で言えばスマホでできるようなことは誰でも頭の中でできるようになり、電子葉に慣れた若者はその場で調べられることを「知っている」と認識するようになっています。「知る」の定義が今と違うわけ。それでは、その「知る」とはどういうことなのか、猛烈な処理能力を誇る「量子葉」を持つ人間が全てを知ったときには何が起こるのか……。そんな疑問に突き動かされ、冒険が加速度的に進んでいきます。
近未来SF小説でありながら、冒険小説でもあり。銃撃戦や恋愛要素も少しあり。エンディングまでなかなか楽しく読むことができました。
面白いのは、登場人物たちの名前。主人公は、情報庁の官僚「御野・連レル」。その恩師で行方不明になっているのが「道終・常イチ」。恩師によって引き合わされた少女が「道終・知ル」、という具合です。近未来的なネーミングセンスなのだという認識で読み進めましたが、読み終えてから、名前が物語における役割を示しているということに気づきました。
久々にSF的な本に向かいました。たまにはこういうのも良いものですね。
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「知る」ということ、脳と情報処理にスポットをあてた近未来SF。知りたいという欲求、情報、ファジーなコミュニケーションの価値、曖昧さの重要さ。そんなことを感じられた一冊でした。
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近未来、和製SF。
日経サイエンスでGoogle脳について読んだ直後にみつけた本だったから、設定はすんなり入れた。日経サイエンスの記事、さくっと読めるからこちら読む前に読んどくと未来として繋がって楽しいかも
ストーリーの展開、ラスト通してSFとしてはすごく好きだった。
電子葉、量子葉、クラス分け。
クラスアスタリスクと9。
アスタリスクもっと出てきてもよかった、けどこの長さならこんなもんかな。
もっとシリーズものにしてもいい世界観だったと思う
連レル、とかって名前の表記にはちょっとひっかかったけど、そこはSFならではということで。
恋愛要素がチープだったなー。プリティウーマンみたいにお互いを支え合う感じがあればよかったけど、このくらいじゃ連レルは大したことしてないから知ルの気持ちは恋に恋するというか、愛っぽくない。連レルとしても、ひっかけてきた女の子とどうとも違わないんじゃないかな。
中途半端ですごく残念。
連レルがなんというかもったいない。
最後の方はただのお供というか説明役で、せっかく先生の弟子だったのに結局先生と知ルの補佐で終わっちゃってる。
もっと彼が輝ける未来があってもよかったのでは。
面白かったけど、物足りない。
アニメ化して肉付けされないかなーなんて笑
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よく分からなかった点→
(1)露骨な情報格差システムがすんなり導入されるにいたった経緯
(2)先生が自殺した理由(どのみち情報のブラックホールには“知ル”が到達してくれるのに、彼女のもたらす情報を知らないまま死ぬことを良しとしたのか)
(3) 情報収集・処理能力の極限化は、身体制御能力も向上させるものなのか(ダンスシーン)
(4)一人だけキャラが浮いてる噛ませ君のキャラづけの意味
(5)14歳の少女にアレさせちゃう作者の倫理観
…最後の3つは冗談ですが、そういう些細なところにツッコみながら読んでいたから、素直に物語を楽しめなかったのかもしれません。
あとは、知ルと連レルのファーストコンタクトって、やっぱり京大で学生が押していたベビーカーのあれなんだろうか。
改めて、この年齢差に抵抗感を感じてしまう…。
世界観の描き方、キャラづけの仕方、物語の進め方、に違和感が大きくて、あまり好きじゃないタイプの作品でした。