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絶倫の人 小説H・G・ウェルズ みんなのレビュー
- デイヴィッド・ロッジ (著), 高儀 進 (訳)
- 税込価格:3,520円(32pt)
- 出版社:白水社
- 取扱開始日:2013/09/25
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紙の本
小説家H・G・ウェルズは、いまの世に再び驚嘆をもたらすことになるのだろうか?
2013/11/17 13:22
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:allblue300 - この投稿者のレビュー一覧を見る
小説家H・G・ウェルズは、いまの世に再び驚嘆をもたらすことになるのだろうか?
イギリスの作家H・G・ウェルズ、実はその著書を一度も読んだことがない。それでも『タイム・マシン』や『宇宙戦争』など知っているタイトルはいくつかある。この『絶倫の人』を読むと、その人物像が大きく変わることになる。
原題は「A Man of Parts」である。
『絶倫の人』とは良くも名付けたものだ。このタイトルにやられて手に取ったようなものだから。これは「多才な人」と訳すこともできる。そして、このpartsはprivate partsの短縮形でもあるらしい。その意味は、陰部。
エイジーことH・G・ウェルズには、偉大な作家というイメージしか持っていなかった。凡人ではないと思っていたがこれほどまでの人物だったとは... 生涯で100人以上の女性と関係を持ち、うち半ダースは真剣だったという。
とにかく時間がかかったのは次から次へと登場する女性たちを把握するのが大変だったから。人物相関図を片手に読まないと読み始めはとにかく大変だ。ただし、一度読み通してから読み返すとまた違った味わいが楽しめる。
エイジーの世界観はまったく理解できない。小説家としての彼を支え続けた妻のジェイン。彼女の存在がなければ小説家H・G・ウェルズの成功はなかったに違いない。そもそも、彼にとってセックスとは何だったのか?
「彼にとってセックスとは、理想的には、テニスやバドミントンのような気晴らしだった。」
小説を書き上げた後、満足のいく仕事を終えた時に、余分な精力を発散させるために何かが必要だった。しばらくの間、精神ではなく肉体を行使する何かがエイジーには必用だった。それが彼にとってのセックス。
単なるエロ親父にしか見えなくもない。それにしても、なぜこうも女性が寄ってくるのか。寄ってくることが決して気持ちの良いことばかりではないにしても。こんな一節が出てくる。おそらく、こういうことなんだろう。
「あそこで、いわば知的に誘惑したのだ、そして、肉体的にそうするのは、この世で最もたやすいことだろう」
妻のジェインは平気だったのか? エイジー自身はこう語る。われわれは自由恋愛の信奉者だ。われわれは互いに嫉妬心を克服したんだ。秘書然と対応するジェイン。これもまた、ひとつの愛の形なのだろうか?
いずれにせよ、ジェインの献身があってこそエイジーの作品が後世に遺されたのは間違いない。理解しがたい世界観ではあっても、エイジーはジェインを愛していた。いや、それとも必要としていたということなのか。
「約束しよう。僕はほかの女は諦めるが、君は僕がジェインを諦めないのを認めてほしい」
もちろん、これは嘘。嘘というのは「ほかの女は諦める」というところ。語り部に「あんたは懲りないのかね?」と問われて返す言葉は「女に関する限り、懲りないようだ。」とは。ここまでくると芸術的かもしれない。
評価を★五つにしたのには理由がある。締めがなかなか美しいと思ったから。デイヴィッド・ロッジは、エイジーの一生を「彗星のようだった」と例える。多くの人に啓蒙的な影響を与えながら、いまや視界から消え去った。
「蒼穹を周回する鬼才「H・G」の軌跡を追う。」
デイヴィッド・ロッジはこう予言する。いつかある日、エイジーは再び蒼穹で光を放つであろうと。その著作に当たって、当時の人々が受けたであろう解放的な、想像的な、知的な驚嘆を体感してみるとしよう。
小説家H・G・ウェルズは、いまの世に再び驚嘆をもたらすことになるのだろうか?
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