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ライトの助手として来日してから長きに渡り、日本風土を考えつつモダンな建築を手掛けてきたアントニン・レーモンドについて、写真と文章で紹介する小さな一冊。
住宅も多く手掛けた氏の作品のうち、ここでは教会と礼拝所に絞り、巻末に一覧付き。
一覧の中では、失われてしまって写真もないものもあるけれど、現存しているものも多いので、機会があったら見に行ってみたいと思わせる簡易ガイドになっています。
さらに、レーモンド氏の薫陶を受けた2名の日本人建築家が文章を寄せており、どちらも師への敬意に溢れた良いものでした。
レーモンド氏がユダヤ人であり、故郷を持てずにいたことはアイデンティティを喪失した状態を産み、建築という仕事の中にそれを探していたのだろうという推察も、レーモンド氏の人となりを想像させる助けになりました。
建築家には哲学的思考がベースにあることが一番大事と言ったというレーモンド氏ですが、暮らしぶりや、社員への接し方をみると、哲学的思考に加えて普遍的な愛情を持った人だったようです。
だからこそ、後世に残る素晴らしい仕事を成し遂げ、吉村順三をはじめ優秀な後輩を何人も排出したのだろうと読めました。
これほどの遺産は、適切に改修して永く保存していきたいものだと思います。