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シリーズ第2巻は文芸の哲学です。本書は、いわゆる日本文学史ではなく、著者自身が考える哲学に則って、日本の文芸作品のなかから重要な作家を紹介しています。
たとえば戦後の文学者では、「創作」の項に村上春樹、司馬遼太郎、松本清張、開高健、伊藤整が、「評論」の項に山崎正和、江藤淳、丸谷才一、伊藤整、福田恆存が、「学者」の項に亀井秀雄、谷沢永一、小西甚一、中村幸彦が、そして「雑」の項には猪瀬直樹、白土三平、倉橋由美子、大西巨人がとりあげられています。このラインナップを見るだけでも、戦後派から第三の新人、内向の世代という標準的な文学史の流れとはまったく異なる戦後文学の系譜を著者が描こうとしていることは明らかでしょう。著者は、夏目漱石の『明暗』、泉鏡花の『高野聖』、横光利一の『旅愁』、谷崎潤一郎の『細雪』、伊藤整の『氾濫』、開高健の『夏の闇』、そして村上春樹の『ノルウェイの森』という系譜に、日本文学の特殊性ではなく「世界共時性」を見ようとしています。
もちろん、のべ50人の作家と、12の作品に独立した項が立てられている本書では、著者自身の解説はあまりくわしいとはいえず、他説についての参照も十分になされているわけではありません。それでも、古代・中世の文芸では小西甚一、江戸近世の文芸では中村幸彦、近代文学では谷沢永一、そして「オーソドックスでしかもマジックのような文芸評論」を実践した吉本隆明から学んだと「あとがき」で述べられているように、著者自身の日本文学史を見る視点の特徴は、十分にうかがうことができるように思います。