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過去の大きな喪失を引きずる母娘を描く表題作「声を聴かせて」と、幼稚園の人間関係に追い詰められ孤独感に苦しむ母親を描く「ちいさな甲羅」の中篇二作を収録。
心理描写の巧みさに圧倒される。登場人物の気持ちが伝わって心が重くなる。息苦しくなる。結末も決して明るいものではない。作者のメッセージと力量がストレートに堪えてくる。
「不運は、時に、神様が目隠しをして打つダーツの矢のようだ。前触れもなく、因果もなく、意味さえもなく誰かを刺す。その人生の向かう先を、決定的に変えてしまう」という言葉が、重く鋭く致命的に心にのしかかる。
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表題作と「ちいさな甲羅」の2編収録。
「ちいさな甲羅」は息をつめて読むような感じで、ちょっとキツかった。幼稚園で息子が他の子にかみついたことを知って、同じ幼稚園に子どもを通わせる近所の母親たちにどんな文面でメールを送るか、どう書けばうまくことがおさめられるかと栄子が思案するところは、これがいまの"リアル"なんやろうかと思ったり。
だが、そんな"努力"もむなしく、母親たちのメールが行き交う関係から、栄子ははずれてしまい、自分が幼稚園へいけなくなってしまう。こういうふうな親どうしのビミョウな関係が、子どもの関係にもうつしだされているようだった。わが子に「どうしてそんなことするの!」と怒りをおぼえる栄子の姿に似たものが、現実にも結構あるんちゃうかと思えて、こわかった。
表題作は、離婚して、ひとり親で子どもを育ててきた母と、里帰り出産する娘との話。母はふたりの子のうち、下の子を保育園につっこんだトラックのために亡くした。娘にとっては弟だ。
亡くした息子を思い出して泣く母に対して、弟を亡くした姉のふるまいがあまりに一所懸命でけなげ。ときには、母の前で、弟になってみせるのだ。母を心配させまいと、決して言わなかった自分のこともある。「姉」の私は、ちょっとズキズキした。
この作者の本は、なにか読んでたよなーと過去ログを探ると、『憂鬱なハスビーン』、『光さす故郷へ』、『月曜日の朝へ』を読んでいた。
(2/26了)
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女手一つで娘の奈保子を育てた花江。その奈保子が出産のため里帰りをしていた。かつて奈保子には弟がいたが、不慮の事故で亡くなっていた。過去の大きな喪失と静かに向き合って生きてきた母娘の慟哭を、切なく繊細に描く。
幼稚園で他の子供とうまくやっていけない息子に苛立ち、人間関係に追い詰められていく母親の孤独。
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二つの母の話。
自分に重なる部分が多く一気読み。
「ちいさな甲羅」息子の起こしたトラブルからママ友の付き合いが難しくなる。一番守らなくてはいけないはずの息子のケアよりも、ママ友枠から外されないよう必死になって、ボロボロになっていく…でも、救いは頼りになる旦那さんがいたこと。もう、ママ友呪縛から卒業した私。特にトラブルもなかったけど、ピリピリしてた事を思い出した。
「声を聴かせて」は出産で里帰りした娘に子どもの頃のいじめを告白される。かなりショック、気づいてあげられなかった自分を責めてしまうだろうな。
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女手一つで娘の奈保子を育てた花江。その奈保子が出産のため里帰りしていた。かつて奈保子には弟がいたが、不慮の事故で亡くなっていた。過去の大きな喪失と、静かに向き合って生きてきた母娘の慟哭を、切なく繊細に描いた表題作。他に、幼稚園で他の子供とうまくやっていけない息子に苛立ち、人間関係に追いつめられていく母の孤独が胸に迫る「ちいさな甲羅」も収録。
3歳の息子を事故で失った母親の悲しみ、苦しみ。
6歳の息子に苛々して、幼い相手に理不尽な物言いをして苛めてしまう母親の悔い、苦しみ。
似た立場にいる私にとっては、リアルで痛かった。
読むのが苦しかった。
表題作、息子を助けてやれなかった、言葉の遅い息子に苛立っていた母親に、訴えかけるような息子の言葉。
読んだ瞬間に、涙が溢れた。
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二編とも母親が主人公なので気持ちの変動が大きかった。特に「ちいさな甲羅」は、主人公と同じく幼稚園児の息子がいるのでタケが意地悪されたり暴力をふるわれるシーンはギュッと胸がつまる。我が子を守るのは最優先だけれど、一種の危うさが付き纏うママ友関係に追いつめられ弱っていく栄子の気持ちは同情できる部分もあるなぁ。
「いくよ。げきもやんなきゃならないし」と毅然と幼稚園に行く意志を示すタケ、過去のいじめの被害をカラッと母親に告白する表題作の奈保子、子どもの中に育っている生きる強さの芽への確かな信頼を感じた作品だった。