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改革をやり遂げ、その挙句、政界を「追放」された男の物語と帯に書いてありましたが、まさに本書の内容は一言で言えばその通りでした。看板に偽りなしです。私は本書を読む前に「アゲンダ2010」という言葉は知ってはいたのですが、具体的な内容は本書を通じてかなり理解でき満足しています。また本書を読んだシュレーダー氏の印象は、著者が後半で述べているように、「やり手の企業CEO」と言ったところでしょうか。私は個人的にGEのジャック・ウェルチを想起しましたが、巨大組織を全く違う方向に変えてしまった、という意味でシュレーダーのリーダーシップはすごい。ただ国を率いるリーダーとしてはやり過ぎではないかという気も確かにする。
本書はアゲンダ2010がもたらした光の部分と影の部分の両方を記述していて、とても好感が持てました。また本書を読むまでシュレーダーが「アゲンダ2010」の実施によって、特に旧東ドイツの人々に極めて評判が悪かったという事実を知りませんでした。
私は2007年のモスクワ出張中、滞在したホテルのロビーで偶然シュレーダー氏を目撃したことがあります。そのときは「ああガスプロム関係のビジネスで来られているのだな」と思っていただけでした。そしてその同じ年に、ドイツの知人が訪日した際に、モスクワでシュレーダーを目撃した話をしたところ、顔色が曇って会話が全然続かなかったのを今でも鮮明に覚えているのですが、その理由が本書でやっとわかりました。彼はドレスデン出身なのです。ふってはいけないトピックだったということでした。
また日本への示唆が最後に記述されていますが、そちらも共感できました。グローバリゼーションを受け入れながら政府は緩衝材としての役割をきっちり果たす、というのはまさに今後の世界観だと思います。ドイツではそれを社会的市場経済と呼んでいるようですが、これはIESE経営大学院のゲマワット教授による、World 3.0というコンセプトに近い印象を受けました。つまりグローバリゼーションの進展と政府の関与(規制)は両方必要であると。また日本は優秀な外国人人材を呼び込まなければならない、そのためには外国人も明確に働ける雇用契約などの策は私自身は納得感がありました。本書おすすめです。