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ページをめくる手が止まらなかったということは、つまりそういうことなのだろう。
ただ作者は、主人公が感じたものを表現するにはこの時点ではいくらか力量不足だったようにも思う。うまく表現できないが、もっと深いどろどろしたものを捉える能力があるのに使っていないような印象を受けた。
ただ最近の直接的すぎる、飽き飽きするようなものにくらべれば本書は優れているとも言えるかもしれない。
大人に読んでほしいファンタジー、と帯にあったが、子供向けなのだろうか。それならばいくらか納得がいくのだけれど。
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世界観というか文体というか、作者が力を入れて描いている部分がなかなか好みで、楽しく読めた。
復讐の話であるにも関わらず、抑制のきいた文体とテンポの早さで読みやすい。
展開の早さ、詰め込まれ感が人によっては物足りないかもしれないけれど。
それでもよくまとまっていて、個人的には不足感を覚えなかった。余白は自分の中で補完すれば済むだけのこと。
感情よりも単語や事象を楽しむファンタジーかも。
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ファンタジー小説の新たな旗手だそうで。図書館でなんとなく背表紙を眺めていたら、この方のはどれもそれっぽい凝った作りの装丁で非常に目を引きまして読んでみることに。
SFと同じでこの手の小説って設定が呑み込めるまでにちょっとひと手間あるんですが、辛抱強く読んでみましたらわりとすんなり読み進めることができました。
ストーリーだてが結構しっかりしてるので冗長なところも少なかったですし、過去の話から終盤に至っては盛り上がりとそのテンポが大変によかったと思いました。他の作品もそのうち読んでみようと思います。
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ファンタジーは苦手だけど、表紙、紙質、文章の美しさに引っ張られて読み切れた。東京創元社は高いけど雰囲気が好きで買ってしまう。
世界観は壮大なのだろうが、1冊の筋としては単純というか正統。後半は特に勢いがあった。もうちょっと人類普遍的じゃないドロドロがあってもよかったけどなあ。
魔導師同士の戦いがカッコイイ!
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悪の魔道士に対抗する夜の写本師という構図が斬新で面白いです。千年もの時を経ながら紡がれる話をこの1冊に納めてあるので、場面の切り替わりが早くものたりないと感じる描写の所もありますが、どんどん読めるので気にならない程度です。
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果てしれぬ輪廻。大いなる許し。
すべてを奪われ、復讐のために何度となく転生を果たす女魔道師たちの暗い望みは、女でも魔道師でもない者の手で、また復讐という形でもなく果たされた。
そうして、その壮大な歴史の輪廻の予兆が暗示されて物語は終わる。
しかしそこにはもはや忌まわしさはない。
女を女として敬い、男がただの男として振舞う新しい時代には、もはやすべてを手に入れようとすることでしか癒されぬ孤独を抱えた者は存在しない。
互いを支え、互いを信じることの価値を知った世界では、もはや紫水晶を分かつ存在も生まれないだろう。
まだ生きることの喜びを知らぬままにその肉体を滅ぼした、たった一人の子どもが新たに生き直すための輪廻。そう信じたい。
闇、獣、人形、そして書物。それぞれの儀式に使うものは異なってはいても、どの魔道師が操る魔法も、呪文を唱えることでしかその力は生まれない。
しかし写本師の魔法ならぬ魔法は、文字そのもの。そうして魔道師の力に対抗できる唯一のもの。
この設定は、言葉を仕事にしている私を魅了した。語られる言葉と綴られる言葉。男と女。この偉大なファンタジーにおいて拮抗するものとして語られた存在は、いずれも互いの力を奪いあうことなく、それぞれがそれぞれの存在のままであり続けることで最も素晴らしい力をこの世界に生み出すのではないだろうか。
少しずつ、本当に少しずつ噛み締めながら読み終えました。上質の物語です。
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大魔導師アンジストの手によって育ての親のエイリャを殺されたカリュドウ。カリュドウはアンジストへの復讐を誓いエイリャが生前言い残していた地へ向かう。
魔法や呪い、魔法の力を宿した本や輪廻転生などの設定が練りこまれた王道ファンタジーです。
そしてそうした設定を支えているのが美しい文章と魔法の描写。自然の描写はもちろんのこと魔法や呪いが使われた際の描写や設定の描写がとても書き込まれていて、設定だけに頼らない、文章の力でも勝負できるファンタジーになっています。
ストーリーも復讐が一つのテーマになっているだけあって、カリュドウの運命のすさまじさが印象に残りました。辛いシーンも非常にしっかりと書き込まれているのが分かります。
それだけにカリュドウの心理描写とラストの対決にもう少し読み応えが欲しかったかな、と思いました。
ただ本当に文章が美しくて、評価の高さには納得しました。ファンタジー作品好きなら読んで損はないかと思います。
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いやぁ~、面白かった!
逸る気持ちを抑えながらページをめくり続けた。
いわゆるファンタジー小説というジャンルが苦手な自分が
コレほどハマったのはホンマ珍しいし、
その新人離れした描写力と、物語が持つ力を読む者に改めて知らしめてくれる、ストーリーテリングの巧さよ。
数千年の時を越え
本の中の世界を行き来する主人公と同じく、
読んでいる僕自身も緑豊かな海沿いの街を、彼、彼女らの生きた世界を、
本を開くことで追体験できる至上の喜び。
「ああ~、これが小説だ」と思える何事にも代え難い充実感に感謝!
( 開くだけでどこへでも連れてってくれるものなんて本しかないし、極上のファンタジー小説があればタイムマシーンなんていらないのである笑)
右手に月石、左手に黒曜石、口の中に真珠を持って生まれてきた主人公の少年カリュドウ。
14歳のある日、女を殺しては魔法の力を奪う大魔道師アンジストに
育ての親である女魔道師のエイリャと優れた魔力を持つ少女フィンが目の前で無惨に殺され、
不甲斐ない自分を呪い、復讐を果たすための孤独な旅を描いた
大人のダークファンタジー。
まったく何にもないところから
新しい国や社会を創造し、読む者を今ある現実から異世界へと一気に連れ去るファンタジー小説という特殊なジャンルだけに
そこに何がしかのリアリティがないとただの絵空事となって
物語に入り込めなくなってしまう。
けれどもこのファンタジー小説のスゴいところは圧倒的な描写力と緻密な設定によって違和感なく読む者を引きつけ、
小説というただの紙束からまだ見ぬ新しい世界を出現させるのだ。
主人公の少年カリュドウは
大魔道師アンジストへの復讐のため、
彼を倒す魔法を習得するのに必要不可欠な「写本師」の修業をしていく。
印刷技術がまだなかった時代には、それぞれの本はこの世に一冊きりしかなく、古くなったから棄てるなんてことはできなかった。
だからこそ古くなった本を新たな紙に書き写し、新しく蘇らせる写本の仕事はなくてはならないものだった。
使いこまれボロボロになった本を一字一句同じ筆跡で書き写し、高品質で一生使用に耐えうるために紙の素材やインクにもこだわり、決められた期限内に仕上げる写本師という仕事のなんと高技術で魅力的なことか。(製本すれば隠れてしまうページの端には花や剣など写本師だけの好きな印を入れられる)
そして写本師からレベルアップして「夜の写本師」になると、自分が書きしるしたもの自体に魔力を宿らせることができ、なんとその本を読んだだけで呪いがかけられるのだ。
この力を使ってアンジストに復讐を誓う主人公の執念が切なくも胸に沁みる。
写本工房での修行のパートは、本好きならヨダレタラタラになること間違いなし。
装飾文字を書く者、細密画をほどこす者、本文を筆写する者、周囲に飾り模様を入れる者など仕事は分業化されていて、
一冊の書物が出来上がる過程が疑似体験できる。
(印刷技術が普及する以前の本は
宝石や貨幣よりも貴重な��的財産として大切にされていたことが解ります)
修行が終わり成人になったカリュドウは自分の出生の秘密が記され、アンジストを倒す鍵となる深紅の革表紙の本「月の書」を手に入れ、
逃れられない宿命の戦いへと誘われていく。
この小説を読むと、物語が持つ力とともに「言葉の力」や「言霊」について改めて考えさせられる。
愛情を持って育てられたペットは手並みの艶や目の輝きが違うように、
ちゃんと一ページ一ページ、人の手と目が触れて、息がかかり可愛がられた本は、
活字がやわらかくなり、そこに込められた人の思いをじかに感じられるようになる。
今、簡単に死を選ぶ人や
夢を信じられない子供が増えてるけど、
そんな時代だからこそ、ファンタジーが必要だし、
ファンタジーを信じることこそが悪意の拡散を防ぎ抑止する作用があるのだと思う。
夢を信じる心をつくるのは
ファンタジーの世界をいかに信じきれるかどうかにも通じると思う。
たった一冊の小説が、ときには誰かを救うことがあるように、
大好きな作家の小説の新刊が気になって今はまだ死ねないでもいい。
そう思わせてくれる不思議な力が物語には確かにあるし、
そんな小さなことで人生が繋がっていく感じが人間の一生であって欲しい。
徹底的な闇を描きながら
かすかな希望を見せて締めるラストも深い余韻を生む、
物語の力を忘れた
今の大人にこそ読んで欲しいダークファンタジーだ。
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ファンタジーはほとんど読まないので、世界観に入っていくのが難しいかと思っていたけど、文体(というか『語られ方』)そのものが自分の好みに合わなかった。
技巧や装飾の多い文章が続き、物語を展開するための出来事だけ描写しているので、淡々とした印象。
正直、読みづらく分かりづらかった。
作中で主人公の大切な人が死んでも、仲が深まっていく過程が描かれないし、性格も価値観も伝わってこないのでストーリーのために殺されたように感じてしまう。
読者が安易に世界に入り込んで浸れるような「甘さ」を作者が意図的に排除したのかもしれない。
けれど、自分にはこういった世界観を楽しむファンタジーを味わうのは難しかった。登場人物に手を引いてもらえないとその世界に入り込めない。
……解説に「魔法が真に浸潤する世界は、そのような文体によってのみつづられねばならない」と書かれていた。
つまり、すき間無く均一に、タペストリーのように織られた文体でなければ真のファンタジーではない、と。厳しい。
私は、美しく均一に編まれたタペストリーに目を凝らして魔法を読み解くよりも、緩急やメリハリのきいた、登場人物たちに魅力を感じるお話を読みたい。
でもこの美しいタペストリーが、欲しいと望む人に届けばいいな、とも思う。
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めちゃくちゃ面白かったです。
読み終わったときに肌が粟立ちました。
こんなに上質なファンタジーを書ける実力者を知れてうれしいです。
日本だと、上橋菜穂子さんや荻原規子さんが取り沙汰されますが、ベクトルは違うものの、まったく負けてません。
ただ、この人の場合は「ファンタジー」に対して真摯に向き合ってはいるものの、「児童文学」とは遠いところにいる気がします。
主人公はカリュドウという少年なのですが、彼は右手に月石、左手に黒曜石、口の中に真珠を持って生まれてきます。
キーナの村で魔女エイリャに引き取られ幸せに暮らしていたものの、大魔導師アンジストの魔女狩りによってエイリャと同胞のフィンを惨殺されます。
雪豹に慰められながら、カリュドウは復讐を命の灯と決め、その身を闇に染めます。
カリュドウが<夜の写本師>になるまでの成長を描く筆致が実に見事で、エイリャを失って最初に弟子入りしたガエルクのもとで、カリュドウは力を付ける一方で傲慢さも身に着けていきます。
先輩にあたる女魔導師セフィヤをその傲慢により死に至らしめた、その瞬間から、カリュドウは頭を殴られたようにはっきりと外界を識別します。
優しく温厚なだけだと思っていた先輩弟子ふたりが、自分が思っていたのとはまったく違っていたことに気付く。この描写がすぐれている。
はじめカリュドウの主観で描かれる人物の描写は抽象的で、これがこの作家さんの特徴なのかと思っていましたが、それが復讐にとらわれ周りを知覚していなかったが故の表現だと気付いたとき、溜息が洩れました。
それから彼は<夜の写本師>として修業を積むこととなります。
そこからは冷徹に目的を遂行するために突き進んでいくのみ、なのですが、章の展開の方法もここから変わってきます。
カリュドウは<月の書>をひらくことに成功し、月と闇と海の魔女とアンジストとの因縁が語られます。
女だけがもつ力をねたみ、恐れ、シルヴァインを裏切ったアンジストへの復讐をとげようとして殺された魔女たち。その因縁を持って自分が存在することを知ったカリュドウは、文字通り「いままで奪われたすべて」を使ってアンジストと対峙します。
決着のあと、語られるのはアンジストその人の物語で、アンジストからシルヴァインに向けられていたものはやはり愛情だったのだということが明らかになります。
そしてそれを理解したカリュドウが、後継者にアンジストの本質たる紫水晶を含めてすべてを伝えようとするところで物語が終わる、クロージングまで含めて完璧に美しい。
電子書籍で買ってしまったことが悔やまれます。
紙で買い直そうかな。
純粋に素晴らしい本と作家さんに出会えたことが嬉しくてたまらないです。
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魔法について細やかな描写でつづられていく。デビュー作とのことで、展開やキャラクターはきっとこれからという感じなので、続編に期待。
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スタートは気分が乗らなくて、途中から急に読む気が起きた。
ファンタジーは好きなのだけど、ドラゴンとか出てくる方が好きなので地味な印象は受けた。
しかしながら、写本師という職業にとても魅力を感じた。なので、写本師たちの仕事ぶりが描かれているところをもっと読みたいな、と思った。
スピンオフで写本師たちだけの物語も読みたい。
隠し文字を入れたり、写本師によって印が違うところもときめきポイントが高かった!
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久々にファンタジーらしい、ハイファンタイジーを読んだような気がした。文化風土が違うから無理なんだろうなと思っていたタニス・リー的なファンタジーを日本人が書けるようになったんやなぁ。
井辻朱美が解説2本を掲載するぐらいの気合の入れよう、それに合いふさわしいボディのしっかりした内容。
写本と魔術の関わりとか、ところどころ疑問符付くところもあるし、途中で人間関係(特に生まれ変わりの因果関係)が分かりづらい難点はあるものの、冒頭の登場人物紹介を都度見開けば思い出すレベル。
ボディがしっかりしてる分、ボーッと読んでると置いてかれる感じがあるので、読むのに少々の集中力が必要だけど、しっかり読めば読んだ分の手ごたえは感じられる。この作者このシリーズ要注目だなこりゃ。
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タイトルに惹かれて購入~。ど派手で容赦のない魔法の顕現や何種類もの魔術の手法や修行についての詳細な描写が面白くて、どんどん読み進められました。
物語では主人公のカリュドウと三人の魔女、そして大魔道師アンジストの千年にわたる宿命が明らかにされていきます。
「書物の魔法」…本そのものやページの紙片や書かれた文章が魔力を持つなんて、とても魅力的ですね。
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硬派で格調高い大人向けのハイ・ファンタジー。
千年にわたる生まれ変わりと復讐の物語を、最低限度の濃密な描写で一冊におさめているので、だらだらと日をまたいで読むよりは一気読みがおすすめ。
文体が格調高すぎてたまに読みづらい感じがあるけど(「全けき」とか)、それで退屈になったり内容がダレることもなく、展開についていけなくなることもなく(登場人物の名前は何度か確認しましたが)、描写が説明的でうるさく感じることもなく、魔法の系統や各国の雰囲気の違いもすんなり頭に入ってくる。構成・設定がしっかりしていて、かつ抑制がきいているからだと思う。
写本師という設定が絶妙で、この世界観をもっと楽しみたいと思える一冊だった。