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先日、記者クラブで道新の記者と道警の裏金問題の話になりました。
それであらためて興味を覚え、その足で図書館へ行って借りたのが本書。
紙面で道警の裏金問題を追及した当時の道新のデスクが書いたノンフィクションです。
読み始めるとページを繰る手が止まらなくなり、2日間で読了しました。
一連の道新報道のきっかけは、テレビ朝日の報道番組「ザ・スクープ」でした。
「旭川中央警察署で捜査用報償費が裏金になっている疑いが濃厚」と報じたのです。
2003年11月23日のことです。
日曜のがらんとした道新編集局フロアで番組を見ていた著者は、なかば呆然となったそうです。
道警の内部告発が、道新を飛び越して東京の放送局に届いたと推察されたからです。
そして、部下にこう言ったそうです。
「俺たち、みくびられているよな」
そこから道新の怒濤のような道警の裏金追及報道が始まります。
2003年11月から2005年6月にかけての約1年半に掲載した関連記事は、大小合わせて実に約1400本を数えました。
私もうっすらとではありますが、この間の道新の報道については記憶にあります。
埋もれていた事実を丹念に掘り起こし、それを材料にして手を緩めることなく執拗に追及する。
それはまさに「調査報道」の名にふさわしいものでした。
道新はこの報道で、新聞協会賞、JCJ大賞、菊池寛賞とトリプル受賞の栄に浴しました。
当初は頑なに裏金の存在を否定していた道警も、ついに抗しきれなくなって裏金の存在を認め、道民に謝罪しました。
ところが、渦中の道警の中枢に身を置きながら、断固として裏金の存在を認めない人がいました。
道警元総務部長の佐々木友善氏です。
佐々木氏は、道新の報道を元に書かれた書籍の一部を虚偽と断じ、自身の名誉を傷つけられたとして、ついには裁判まで起こします。
佐々木氏は裁判を起こすまでの間、道新の幹部と秘密交渉を重ねて、書籍の中の当該個所の取り消しと紙面上での謝罪広告の掲載をしつこく求めました。
しかも、この秘密交渉を道新側に無断で録音し、後に裁判で証拠提出したのです。
そのやり取りの生々しいことと云ったらありません。
驚くのは道新幹部のこんな発言です。
「私のほうの記事が引き金をひいたわけですから、その部分については、率直に、うちの記事がいたらない、いたらない記事がきっかけで。率直に謝ったほうがいいと思います」
著者ではありませんが、私も読んでいて「なぜ、謝罪する必要があるのか」と道新幹部の発言に憤りを覚えました。
この問題は、道新の内部にも大きな軋轢を呼び起こします。
著者をはじめ一連の報道に関わった記者たちに対して、道新幹部が記事の情報源を明らかにするよう執拗に迫りました。
著者らは道警側に筒抜けになることを恐れ、その要求をことごとく突っぱねます。
一連の報道に関わった記者たちは異動でばらばらになりますが、新しく道警担当のキャップになった記者が裏金追及報道の意義を全否定し、走狗のごとく道警にご注進に走る姿は読んでいて見苦しく、情けなくなりました。
そして、ついに、佐々木氏による名誉棄損訴訟は、著者ら被告側の敗訴という形で決着します。
裁判が終盤を迎えるころ、著者は入社2、3年目の若い同僚記者とススキノのバーで飲みました。
若い記者はこう話したそうです。
「先輩たちの裏金報道はすごいと思いました。入社前でしたが、あこがれました。でもいまはちょっと違うんです。自分は調査報道をやりたいとは思いません」
どうして、と問う著者に、若い記者はこう答えます。
「だって社内では調査報道をやろうという雰囲気、全然ないじゃないですか。あんな危ないものは手を出すな、みたいな気分が充満しているじゃないですか。社内では、調査報道なんて、まったく評価されていないじゃないですか」
本書には詳しく書かれていませんが、著者が居た堪れない気持ちになったのは容易に想像がつきます。
著者はその後、道新を辞め、フリージャーナリストを経て現在は高知新聞で記者をしています。
一連の報道に関わった記者のうち何人かは辞め、残った記者たちも全く関係ない部署で仕事をしているそうです。
若い記者の中には、裏金追及報道を知らない記者も増えているといいます。
道新だけではありません、道警の体制も大きく変わり、著者が道新で現場記者だった時代に付き合った警察官の多くは退職しました。
こうして一切のものは過ぎて行くのだと思いました。
北の大地から、調査報道の火も消えつつあるのでしょうか。
読後、寂寥感を禁じ得ませんでした。
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衝撃的な話。警察の裏金問題なら知っていたが、それがその後警察の猛反撃に完全に屈していたとは知らなかった。あと、赤旗よりひどいと言われる北海道新聞にこんなに立派な記者がいたことも新鮮な驚きだった。
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マスコミ塾の講師のおすすめ記事を見て。
北海道ということもあったので、読んでみたがなかなかに難しい問題だった。
ノンフィクションというジャンルを読みなれていないので、もう一回読み直して映画化もされた「日本で一番悪い奴ら」を読みたい。
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☆元北海道新聞報道本部次長。最終章が書き下し。ふーん。
(著作)日本の現場 県立 青森 市立、権力 VS 調査報道 県立
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組織の論理や立場の違いにより苦境に立たされ、最後には排除される記者の話。時に利権にすがり、自分の都合のよいようにこじつけるのは人間の常であるが、それでも社会正義を象徴する警察組織の言動や対応に吐き気を覚えた。同時に「権力監視」を掲げる記者の無力感と難しさを痛感した。
「悪人はどこにもいない。どこにもいない。」という言葉が、読了後に余韻をもって響く。組織にいると、組織の色に染まり、社会の「正しさ」からずれていく。特に仕事に没頭すればするほど。そんなことも思った。
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読後に感じたのは、「正義はどこに?」という嘆きでした。
実名での執筆、これだけでも勇気と覚悟のいる作業だと思います。本書は、道警の組織的裏金作りをスクープした道新への圧力と、それに屈した記録です。悪いことをしていても必要悪とし、組織ぐるみの隠ぺいもトップの方針に従っただけと開き直る日々の妥協が組織のみならず個人の尊厳をも地に堕とす怖いお話です。さらに危惧されるのは、こうした問題がいたるところで提示されながら、警察組織の体質は変わっていないのだろうなと思わせる事実です。我々は素直に警察や裁判所などは国民を守る側だと信じていますが、権力サイドのトップの意向でいとも簡単に不正に手を染めてしまう聞き分けのよい職業人化してしまう事実はおそらくあらゆる組織が内包する危険性だと思われますが、であるからこそ最低でも司法と治安部門くらいは国民サイドの強固な砦であってほしいと願わずにはいられません。
その願いもむなしく、現在、安部政権下で政権の覚えめでたき黒川検事長定年延長が画策されています。
3権分立が建前の行政の権力者が司法のトップ人事まで介入・・なりふり構わない露骨なやり口にこの国は本当に大丈夫なのかと怒りすら感じます。
最後に、筆者について、Wikipediaから。
高田 昌幸(たかだ まさゆき、1960年 - )は、日本のジャーナリスト。東京都市大学メディア情報学部教授。元北海道新聞・高知新聞記者。
高知県立高知追手前高等学校卒業後、東京で新聞店従業員を経て法政大学法学部政治学科入学。卒業後、一般企業を経て、1986年北海道新聞入社。小樽報道部、本社経済部、本社社会部、東京支社政治経済部、本社報道本部編集委員、同部次長、東京支社国際部編集委員、ロンドン支局、東京支社国際部次長を経て、本社運動部次長。2011年6月に退社しフリーに。2012年4月に高知新聞に入社。社会部に所属。2017年3月に退社。同年4月より東京都市大学教授。
北海道拓殖銀行の破綻と営業譲渡、地元百貨店の乱脈経営、地元信用金庫の不正融資事件などを取材。
1996年、取材班の一員として「北海道庁公費乱用の一連の報道」で新聞協会賞、および日本ジャーナリスト会議(JCJ)奨励賞を受賞。
2004年、取材班代表として北海道警裏金事件取材(キャップ佐藤一、サブキャップ中原洋之輔、松本成一、林真樹、峯村秀樹、米林千晴、田中徹、青木美希、内山岳志、古田佳之、大出行秀)で新聞協会賞、JCJ大賞、菊池寛賞、新聞労連ジャーナリスト大賞を受賞。