投稿元:
レビューを見る
読み終え、まず思ったことは、岡先生が今生きておられたら国の行く末に絶望するほかないだろう、ということでした。
本書で明かされる岡先生の案じた日本の教育の乱れや西洋化一辺倒でアイデンティティを失いつつある日本人の在り方。数十年の時を経てその通りになっている部分もありつつ、加えて、近年ではAIの普及も手伝って情緒を排したとて正解にたどり着ける選択肢が増え、成果を効率的に得るビジネスハックが隆盛していますが、岡先生はまさにこのような観念的な世相こそ危惧しておられたのではないでしょうか。
そういった国を憂う考えが展開される中、教育を扱ったトピックが非常に多く、岡先生は教育に日本再生の望みを託されていたのだと思います。特に「情緒」「情操」「道義」は本書でも重ねて使用される最も重要なキーワードだと思います。
教育への言及の中でも秀逸なのが、本書の中盤にある「道義教育の根本は悲しみがわかるということで、幼い子供には悲しみの感情が最も教えにくい。だから、小学校に入るまでは人が喜ぶからこうしなさいと教えられても、人が悲しむからこうしてはいけないとは教えられない。」(意訳)という考察でした。これは現代社会にも通ずる鋭い考察だと思います。
何事にも情緒が中心にあって学びや教育があるという岡先生のシンプルな考え方を以って現代を捉えた時、まさしく情操/道義教育をなしに悪趣味な刺激や動物的な教育に子ども達が晒された結果が、今現在の半狂乱の世相に繋がっているのではないか、と考えると裏付けがないのに妙に納得がいってしまうのは不思議なものです。
本書では一部、かなり偏った主観的な意見、データに基づかない意見も多々あり、現代の感覚では受け入れられない言葉遣いも見受けられます。しかし、それでも読者を立ち止まらせ考えさせてくれるような力を本書は大いに秘めていて、日本人とは何か知る上で今こそ読む価値のある書籍だと思いました。