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妙なファンタジーである。初期の春樹に似てるなという印象。カンガルー日和を思い出した。タヌキとかキリンとか、動物はなんのメタファーだろうか。カステラに象徴される、ふわふわしたナンセンスさ。その中に仕込まれる現代韓国のリアリズム。
韓国が舞台である本を読んだのは初めてだ。登場人物は進学しても就職に困っている普通の青年であったり、だらだらとした人間関係を続けたり、世界や時代を飛び越えたり。ああ、兵役があって、メンタルが変わって戻ってきたりするんだなとか。ベトナムのボートピープルが吉祥寺のスワンボートに出現する日も近い。
お隣の国のそういう現状を知る機会はなかなかない。ダイオウイカって流行ってるのか、アイヴァス『黄金時代』にも出てきたな。
最後の一作『朝の門』の集団自殺にあぶれた青年の置いてけぼり感は毛色が違うがたしかに出来のいい短編。賞をとったこの一作は原書にはなく日本だけのボーナストラック。
翻訳大賞授賞式で日本人の翻訳者が「日本に一番近い外国文学です」と熱弁をふるっていたのが印象的。そういえばこの表紙には翻訳者の名前が載っていない。
一部の人々による差別が当然のように目の当たりにする昨今、彼らの本がなぜ読まれなかったのか、このタイミングでの翻訳大賞の受賞はそんな日本の現状を打破したいという願いもあることだろう。
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韓国の文章の書き方なのか著者のオリジナルなのか、見た状況や思った事や会話も「」なく改行せず一塊につづきばっさり一行フレーズが入る。突飛な出来事と突飛な出来事をパッチワークのようにつなげ最後にセンス良く着地させている。前半の短篇はユーモアもあり新鮮に読んでいたがだんだん読むのが苦しくなってくる。突飛な出来事と突飛な出来事はコラボせず広がらず奥行きを持たないから。この短篇集の根底にあるのは韓国の若者の閉塞感や絶望感なのかもしれない。カステラのように甘く柔らかく喉が詰まりそうな生活が描かれていると思う。『朝の門』だけは異質でこの作家がもっと飛躍する予感がある。村上春樹風なのが日本では好き嫌いがでそう。もっと韓国の文学が紹介されるといいなと思う。
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ストレートに面白かった。現代の狂った世の中へのささやかなシュプレヒコールという感じ。この空気感、なんかわかるわ…と思わせて疲れさせておいてからヒョイっと予想外な場所に落ちつかせる。言いたいことはドロドロしたことばかりなのに読んだ後は何故かスカッと爽やか。絶妙なバランスだと思う。
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韓国小説っておもしろい!
なんであんまり翻訳されてないんだろう。(はじめて読んだ…)
素直に第一声はこれだと思います。
第一回日本翻訳大賞を受賞しただけある、するする読める訳語と、ちょっと村上春樹を思い出させる描写、資本主義社会の圧倒的な不条理感とそれを現代文学らしい(意味不明な)出来事や解釈たちで描いた短編集。
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満員電車に乗客を押し込む男が、毎朝父親を押し込む中で宇宙の静けさを体感する話「そうですか?キリンです」。
競争社会の中で疲れた人々が集まる遊園地のスワンボートの池を描いた「あーんしてみて、ペリカンさん」。
ある日唐突にハルク・ホーガンにヘッドロックされた男が、右脳と左脳に分裂してしまう話「ヘッド・ロック」。
本書の奇矯で軽妙な世界には惹かれる。太陽系を離れて地球外生命体と遭遇するヤクルトおばさん等、全編を通して、意味不明で頓狂なギミックが、やりたい放題。
それらが小気味よく現代社会を揶揄する展開が、読んでいて笑いを誘われる。それでありながら、そのアプローチが過酷な状況との真剣勝負であることも、すんなりと諒解させられる部分もある。
本書のほかにも翻訳があるようなので、いつか読んでみたい。
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資本主義や自由競争で疲弊した人々を不条理でシュールな出来事や
動物が襲ったり癒したり救ったり叩きのめしたりする韓国作家の短編集。
かなり奇妙な世界観だけど、結構好き。
特に印象に残ったのは(どれもインパクトあるけど)、
冷蔵庫に大事なものと害悪なものを入れていった結果衝撃の結末を迎える表題作、
競争社会に背を向けた人たちがタヌキになる「ありがとう、さすがタヌキだね」、
農業共同体を営む元学生運動の闘士を様々な悲劇やUFOが襲う「コリアン・スタンダーズ」、
ある日突然ハルク・ホーガンにヘッドロックで襲われた男が狂気に憑りつかれていくサイコホラー「ヘッドロック」等。
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短編集。冒頭の「カステラ」「ありがとう、さすがタヌキだね」と最後の「朝の門」がよかった。軽妙な文体が、主人公の生きづらさを際立たせつつ癒やしていくような、そんな作品が並ぶ。訳者ヒョン・ジェフンの解説も簡潔だがおもしろかった。
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決して明るくない状況も軽快に語ることで、こんなにも救われる。どちらかというと「失敗」している人たちのほとんど大きな成功のない物語なんだけど、絶望し切らず生きる方へ踏み止まる。それぞれの章のタイトルも文章もユーモアあふれていて、ウィットにとんでいて、なんだ結構人生って面白いじゃんと。各章のタイトル、フォントが平野甲賀さん!!よき。
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不思議な結果になる、という短編集で、カステラからはじまり、キリンやマンボウや様々な動物になるという結論のものである。
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冬 10代 女性
初めての韓国作家の本でしたが興味深かった。
詩的というか発想が思いつかない感じで正直読むのが大変でした。
逆に他の韓国作家の作品を読んでみたくなりました。
とりあえず話題になってた「82年生まれ、キム・ジヨン/チョ・ナムジュ」を読もう。
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この作者は、『ピンポン』に続き2作目。短編集である。閉塞的な環境の下、救われない主人公たちが、不運な状況を嘆き苦しんでいる。どうにかして乗り越えようと、喘ぎ、抗っている。結末はどれもスッキリ終わるわけではない。これからも、理不尽な状況は続いていくのだろう。それも、生きていくということの辛さなのかと、主人公たちに共感する。
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韓国人の人気作家の短編が11.若い人の発想はややついていけない感じだが、韓国の放送や一般的なことが解説してあって、それなり楽しめた.ハングルが少し読めるので、復習しながらの読書だった.
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読み初めはなんてアホらしい表現なんだ?と思いました。大人の知識と子供の想像力が混ざったような文章。
読み進めるとポップな表現の中にズシンとくるような物語。正直自分も深刻な出来事を自分でも頭の中でくだらない表現に置き換えて消化しようとすることがありますがそれと似てい流ような気がします。
特にたぬきの話が周りに起こっていた出来事とリンクしてモヤモヤしました。いきなり落とされたような気分でした。
この本で何か得られるものは無いですが、この本から現代の韓国を感じ取ることはできたと思います。
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韓国文学の短編集。
どうしようもなくままならない、どこか気だるくて、けっして良くはない日常からも、ほんのりとした希望を漂わせるような話が多い。
するすると、ものすごくありえない描写が、しかもなんの変哲もない風を装って、次から次へとはらはらと舞い込んでくる。ので、勢いに付いていくのが難しくて、読んでいて割と辛かった。このスタイルに乗っかるには、私にはぬるいアルコールが必要だったんじゃないだろうか。ついつい素面で読み切ったけれど。
幻想文学と読んでもいいくらい奇想天外な話が続いていたけれど、最後に収録されている作品は地に足がついていて読みやすく、とても刺さった。
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第1回(2015年)日本翻訳大賞受賞作。もう1作はチェコの作家のようです。2014年出版の本書の訳者あとがきに韓国の大衆文化を韓流ブームと言い表し人気があった時期でも韓国文学にまで関心が及ばないことを残念に思っていたようです。また、最近の韓国文学は民族的・地域的自意識がほとんど見られなくなり、日本の読者にも共感できるものになっていることが指摘されていました。冷蔵庫の音、学生時代の先輩、アルバイト、アパート、満員電車、新入社員、上司…ひととおりみている場面だけに共感はしますが、その先の展開にワンダーの要素が強いです。