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新刊の本を手にして開く時、プーッと漂いだす紙の匂いが、子どもの頃から好きだった。開くとまず花切れあたりの匂いを、思いっきり嗅いでしまう。本屋さんで我慢しきれずついクンクン嗅いでしまって、どうにも妙な人物になっている。
新しい本の、新しい紙の匂い。
古い本の、年月を帯びた匂い。
なんと幸福な匂いだろう。これから読み出す本の、幸福な読書の時間を約束してくれる。
本は目で読み、そして手で読む。
めくった指先が、本の中身を覚えている。紙の色、紙の感触、活字のなじみ具合、それらが中身を記憶させてくれる。
後から、あれ?どこに書いてあったっけな、と探す時は、このくらい読み進んだこっちのページのこのへん…と指の感じを頼りに探す。
各出版社それぞれに僅かなサイズの違いや感触の違いがあって(私に言わせると匂いも違っていて)、出版社を伏せて、利き酒ならぬ「利き本」が出来るのではないかと思うほどだ。
震災後、一読者にすぎない私の小耳にも、「紙がヤバいらしいよ」という噂が飛び込んできた。
震災の直後には、正直、紙とか本とか言っている場合ではないという感じだったれど、時間がたつにつれ、被災した人たちもきっと本がほしくなるだろう、直接被災していない人たちも、震災を知り記録するためにも本が必要になるだろう、と思い、紙はどうなってしまうんだろう、と思っていた。
知らないところで、こんな奮迅があった。こんな絶望の底から、紙の工場を復活させた人たちがいる。
絶望の底には、不安も苦悩も悲しい話も嫌な話もあっただろう。そこから手で泥を除け、1つ1つ問題を解決し、ここまで漕ぎ着けたことに驚き、涙が出る。読んでいるこちらが励まされる。
語る人たちの言葉の端々に、紙への愛情と誇りを感じる。
表紙カバーの写真の勇姿が、誰よりカッコ良く、そして眩しい。
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東日本大震災で、紙や出版にこんなに大きな影響が起きていたとは、知らなかった。
それどころか、著者と同じように、私も、今まで読んできた本の紙がどこで作られているのかすら知らなかった。
石巻工場の方々が経験した、想像を絶する状況。
心に抱えた物の大きさは、体験していない私達にはどうしても推し量れないものだろう。
それでも、紙を、本を届けようという石巻の方々、日本製紙の方々の想い、作る者としての誇りには、本当に頭が下がる。
自分がもしそこにいたら、同じような行動ができただろうか。せめて心持ちだけは、彼らに近づきたいと思う。
私達に紙を届けてくれて、ありがとうございます。
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あの日の未曾有の惨事は、被害状況が明るみになればなるほど、各方面に恐慌を齎したと思われる。
かくいう私も、書店に「運搬だけでなく生産ラインが壊滅らしく、ひょっとすると今後書籍のお届けは、正直難しいかもしれません」と言われ、愕然としたことを思い出す。趣味より生活が最重視されることは当然の成り行きとは言え、それでなくとも様々な要因から出版社が次々と店を畳んでいた時期でもあり、また執務との絡みもあって、書籍の暗鬱とした未来を同職仲間と嘆いたものだ。
しかし、私のような書籍好事家は、あの日以降も相変わらず彼らの不断の努力と信念によって、今日この時も支えられている。
「事物(もの)」の先には「人間(ひと)」がいる。「人間(ひと)」の先にも「資源(もの)」がある。全く有難いことである。
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なんとなく読みたくなって買った本。
いろいろなドラマや、がんばりや悔しさや想いや
本当にいろいろなことがおこったのだろうと
思います。電子書籍が多くはなると思いますが
紙の本ってなくならないと思いますし、なくしては
いけないのだと思います。
また、紙の本をめくる体験が読書だと思います。
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日本製紙石巻工場が、東日本大震災から再生する過程を追ったノンフィクション。仕事への誇りと責任感が、困難から立ち上がる力となる。人間にとって、仕事って大事だと再認識させられた。読み終えた時、「この本の紙は…」と思ったら、ちゃんと情報が記されていた。脱帽です。
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読んでいてただただ泣けてきた。
大好きなものが当たり前にあることのために、これほどのことがあったと多くのひとに知ってもらえたらいいな、と思う。
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被災し、それでも仕事への矜恃を胸に製紙工場の再建に奮闘した男たちの記録。
被災した悲しみ苦しみも迫ってくるが、それにも増して「紙をつくる」という仕事への想いに胸が熱くなる。
普段大量に、さして意識もせずに触れている紙。
それら紙には、ここに描かれている様な人々の想いが込められているのか。
その想いをしっかり読者につなげられるように、頑張らないと。
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私にとってあの日はすでに過去の事となっていたことを認識させられました。
この本は製紙工場の復興の事ばかりでなく、何が起きていたのか何が起きたのか、当時美談が多く報道されていたが人間の汚い部分もたくさんあったのだと。
すでに風化しかけた記憶や感情を呼び覚まさせてくれました。
また紙の本がいっぱい読まれるような社会であることを願います。
私には電子書籍は合わないかな。
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泣けた。日本製紙石巻工場の頑張り、地元のパルプさんへの想い、8号機の一発通紙、野球部の存続...泣けた。
ノンフィクションの力強さを感じる作品にまとめあげている著者の筆力にも感心する。
本は五感で読むものである。もう一つの意味となっている”紙つなげ!”に微力ながら貢献していきたい。
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本の紙のことなんて考えたこともなかった
思わず紙を撫でた
本好きとか自分で言ってたけど今は恥ずかしい
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東日本大震災における日本製紙石巻工場での様々な事柄が記述されている。
出版業界に属する一員として、紙が必需品であること、また震災において紙が不足していたことも聞いていた。いま、こうして出版業界で家族を養ってもらっている背景には、この本に書かれているような壮絶なエピソードがあり、今があることを再認識した。
ここ数年で、一番感動したノンフィクションである。
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(2014.07.05読了)(2014.07.03入手)
【東日本大震災】
東日本大震災関連で今まで130冊ほどの本を読みました。この本は131冊目です。
2011年に45冊、2012年に61冊、2013年に19冊、2014年に6冊、です。
2012年をピークにだいぶ減ってきてしまいました。でもまだ、東日本大震災関連の新しい本が出版され続けています。
被害が大きく、津波の浸水地域には再度家を建てるには、難しい決断が必要ですし、かさ上げや防波堤の整備が終わらないとできません。
福島原発の爆発事故による汚染地域も除染が進まない限り、戻ることができません。
復興の道のりは、遠いようで、あと何年かかるのかなかなか見通せない状態です。
宮城県石巻市も津波の被害が大きく、また、津波の際に火災も発生したため、被害の拡大につながったようです。大川小学校でも多くの犠牲者が出ています。
石巻市の海岸寄りに大きな製紙工場があり、被災して生産がストップしたという話もどこかで読みました。この本は、その製紙工場の再生の物語です。
この工場では、本のための紙が生産されているということです。
本の奥付には、著者、発行所(出版社)、印刷所、製本所、などの情報は載っていても、使われている紙についての情報は載っていないので、どこで生産されたものかはわかりません。
若しも、この工場が閉鎖になり、紙の生産が行われなくなっていたら、電子出版に拍車がかかっていたのではないかということですので、紙の本が大好きな僕みたいな人間にとっては、多大な影響が及んでいたかもしれません。
3月11日に地震が来た時、日本製紙・石巻工場では、事前に決められた手順に従って、全員高台に避難して助かったとのことです。ただ、避難誘導にあたった方たちの5名が工場に取り残され、一時行方不明になったが、工場設備の高いところにかろうじて逃れて、助かっていたとか。(1306名、全員無事。)
工場にいた人は全員助かったけれど、非番で休んでいた人の中に何人か犠牲者が出ていたそうです。残念なことです。
高台に逃げた人たちは、津波に襲われ流されている建物からの助けを求める人の姿、助けを求める声、火災が迫っているあたりからの助けを求める声、など、なすすべもなく見たりきいたりしたとのこと。助けることの出来た人もいましたが。
本の最初の方には、工場に勤めていた方々の、被災時の体験がいくつか収められていますので、当時の被災地の様子がわかります。彼らのもとに最初に届けられた支援物資は、京都の協力会社が輸送してきたものだった。阪神淡路大震災の経験から、震災のニュースを見てすぐに出発してきたとか、頭が下がります。
工場勤務者のほとんどの人は、津波が引いた後の惨状を目にして、工場の再稼働はないのでは、と思ったようです。どこから手を付けたらいいのかお手上げ状態でした。
そんな中で、工場長は、6か月後に再稼働という目標を掲げました。
みんなが無理と思いながらも、がれきの撤去、壊れた設備の修理、紙の原料を作るために稼働途中で停止したために機械装置の中で固まってしまったものの除去、等、根気のいる仕事が続けられました。
がれきの撤去の際には、遺体が���くつも出てくるので、乱暴なことはできません。慎重な作業が求められました。
社員の奮闘努力のすえ、目標通り、9月には、再稼働にこぎつけた、ということです。全く驚きです。これで、紙の本が生き残れた、とか。本当にありがたいことです。
社会人野球部の生き残りの話、被災地の治安状況の話、幽霊が出たという話、いろんな話が盛り込まれています。東日本大震災の被災地の話をあまり読んだことのない方には、お勧めです。
悲惨な話、涙なしには読めない話、等、読みたくないという方にはお勧めしません。
本の最後のページには、この本の本分と口絵が印刷されている紙は、日本製紙石巻工場で制作されたものであることが明記されています。ありがたみが増しますね。
【目次】
プロローグ
第一章 石巻工場壊滅
第二章 生き延びた者たち
第三章 リーダーの決断
第四章 8号を回せ
第五章 たすきをつなぐ
第六章 野球部の運命
第七章 居酒屋店主の証言
第八章 紙つなげ!
第九章 おお、石巻
エピローグ
●遺体(127頁)
構内で発見された遺体は、全部で四一体となった。
●8号抄紙機(130頁)
8号、8マシンなどと呼ばれるこの抄紙機は、1970年に稼働した古いマシンである。この抄紙機は単行本や、各出版社の文庫本の本分用紙、そしてコミック用紙を製造してた。
高度な専門性を持ったこのマシンで作る紙は、ほかの工場では作れないものが多かった。
【抄紙機】
連続的に紙を製造する機械で,ワイヤ(金網),プレス,ドライパートからなる。水平に置いたエンドレスのワイヤにパルプ懸濁液を流し,ワイヤが移動する間に脱水してシートを作る。
●出版用紙(140頁)
日本の出版用紙の約四割を日本製紙が供給してきたのだ。
●無数の蠅(223頁)
瓦礫の中には無数の蠅が湧いている。ペットボトルに蜂蜜を入れて何本も吊り下げておいたが、二日もすれば中は蠅で真っ黒になり、役に立たなくなった。
●N6(239頁)
N6は、家電量販店のチラシや通販カタログのような薄くて柔らかい紙を作っている。もともとほかの紙に比べて切れやすい。しかも紙を抄く速度が、8号のおよそ倍である。
●戻った人は(261頁)
「急いで山には上りましたが、まさか家が壊されるような津波は来ないと思っていたんです。家はそのまんまで何ひとつ持ってきませんでした。近所の人は途中で戻ったんです。『何と何をもっていかないといけない』と言って。あの人たちは二度と帰って来なかった。全部流されてしまいました」
☆関連図書(既読)
「ふたたび、ここから-東日本大震災・石巻の人たちの50日間-」池上正樹著、ポプラ社、2011.06.06
「海に沈んだ故郷(ふるさと)―北上川河口を襲った巨大津波 避難者の心・科学者の目」堀込光子著・堀込智之著、連合出版、2011.11.05
「さかな記者が見た大震災石巻讃歌」高成田享著、講談社、2012.01.06
「石巻赤十字病院、気仙沼市立病院、東北大学病院が救った命」久志本成樹監修・石丸かずみ著、アスペクト、2011.09.06
「石巻赤十字病院の100日間」由井りょう子著、小学館、2011.10.05
「東日本大震災石巻災害医療の全記録」石井正著、ブ��ーバックス、2012.02.20
「奇跡の災害ボランティア「石巻モデル」」中原一歩著、朝日新書、2011.10.30
「笑う、避難所」頓所直人著・名越啓介写真、集英社新書、2012.01.22
「あのとき、大川小学校で何が起きたのか」池上正樹・加藤順子著、青志社、2012.11.11
(2014年7月9日・記)
(「BOOK」データベースより)amazon
「8号(出版用紙を製造する巨大マシン)が止まるときは、この国の出版が倒れる時です」―2011年3月11日、宮城県石巻市の日本製紙石巻工場は津波に呑みこまれ、完全に機能停止した。製紙工場には「何があっても絶対に紙を供給し続ける」という出版社との約束がある。しかし状況は、従業員の誰もが「工場は死んだ」と口にするほど絶望的だった。にもかかわらず、工場長は半年での復興を宣言。その日から、従業員たちの闘いが始まった。食料を入手するのも容易ではなく、電気もガスも水道も復旧していない状態での作業は、困難を極めた。東京の本社営業部と石巻工場の間の意見の対立さえ生まれた。だが、従業員はみな、工場のため、石巻のため、そして、出版社と本を待つ読者のために力を尽くした。震災の絶望から、工場の復興までを徹底取材した傑作ノンフィクション。
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震災で被災した日本製紙石巻工場がいかにして半年で紙を「つないだ」かのドキュメント。「震災から立ち直る」っていうテーマは重くて、目次読んだだけでウルウル来るけど、「出版」に欠かせない紙がどうやって作られていて、その裏にどんなドラマや生産者のプライドがあるかっていうのも目新しい。世の中、知らないことってホントにたくさんあります。
「震災直後、風呂にも入れない、買い物も不自由。そんなささくれだった被災生活の中で、車に乗って俺たち家族はどこへ行ったと思う?書店だったんですよ。心がどんどんがさつになっていくなか、俺が行きたかったのは書店でした」っていう「8号機」の責任者のプロ根性に頭が下がります。
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大阪出張移動中に読了(47)
想像を絶する復興過程。けど、そこにある一体感を感じる事が出来て感動。
本論とは少しずれるけど、世に言われる震災時の「日本人の美徳」が事実とは違うという現実にショックを。。。。
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製本教室に通っているときでも、紙の目とか大きさといったことには意識が向いていたけれど、誰がつくっているのかということは意識していなかった。
日本製紙石巻工場がわたしの大切な本のために紙を生産してくれていたなんて、知らなかった自分が恥ずかしい。読みながら何回も泣きました。いい本です。