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「おれはひじょうにざんねんだあ」byゴジラ
いやあ、面白かったですね、『シン・ゴジラ』!
60年以上の歴史を持つ『ゴジラ』シリーズ。途中で人気が低迷したり、方針が迷走したりしていた時期もあったけど、今回は初代『ゴジラ』をリスペクトしつつ、徹底的に現代風かつリアルに描いたのが勝因でしょうね。いや、堪能いたしました。
さて、1954年に公開された『ゴジラ』第一作とその続編の『ゴジラの逆襲』、当時はすごい人気で、児童誌などに子供向けのコミカライズ(マンガ版)が何本も発表されていました。それらを現代に復刻したが、阿部和助・杉浦茂・藤田茂『ゴジラ 漫画コレクション 1954-58』(小学館)。
何と言っても杉浦茂ですよ杉浦茂!
『猿飛佐助』などの自由奔放なユーモア作品で一世を風靡したマンガ家。2000年に亡くなられていますが、現代でも一部ファンに根強い人気があり、ニコニコ動画で「ゆかいじゃのう」というフレーズが流行ったことがあります。
初代『ゴジラ』公開3か月後に発表されたマンガ版「ゴジラ」は、絵もノリも、本当にいつもの杉浦茂。そのくせ、ストーリーだけは映画版にほぼ忠実なんで、その違和感がはんぱないです。
おかしいのは、ゴジラが喋ること。たとえば銀座の壊滅シーンでは、
> ゴジラ「おれは世界一つよいんだぞう」
> 群衆「もうじゅうぶんにわかったよう」
最後にオキシジェンデストロイヤーで倒されるシーンでは、
> ゴジラ「ひゃあなんだかしらないがくるしい」
> ゴジラ「よくもへんなまねをしたなっ。ううむ、おれはひじょうにざんねんだあ」
「ひじょうにざんねんだあ」と言って死ぬゴジラ。味があります。
あっ、よく見ると芹沢博士、死んでない(笑)。
1955年、『ゴジラの逆襲』の公開に合わせて発表された「大あばれゴジラ」でも、やっぱりゴジラが喋ります。アンギラスとの最初の対戦シーンでは、
> ゴジラ「アンギラスなんかあしでふんづけてやる…えいっ、あいてて…………」
> ゴジラ「いたいじゃないか。せなかにギザギザなんかはやしておくない」
> ゴジラ「おれはいそがしいんだ。きょうのところはかんべんしてやらあ……じつはこれから……」
> ゴジラ「にっぽんへおとうとのふくしゅうをしにいくんだ。きょねんオキシジェンデストロイヤーでかわいそうにやられちゃったからな」
兄弟だったの!?
後半のストーリーは映画版とはまったく違います。ゴジラを追って、アンギラス以外にも、ギョットス、ゾットス、オソロス、スゴンといった怪獣が日本に上陸するんです。これらの名前は、『ゴジラの逆襲』公開前に東宝社内で公募した新怪獣の名前なんだそうですけど、奇妙奇天烈なデザインはやはり杉浦茂のオリジナルでしょうな。
当然、アンギラスも喋ります。
> ゴジラ「やいおまえらにすけだちなんかたのまないぞ。かえれかえれ」
> アンギラス「やかましい。おれたちはスポーツのつもりであばれてるんだぞ!」
おおっ、ゴジラとアンギラスが吹き出しで会話するのって、『地球攻撃命令ゴジ��対ガイガン』(1972年)が最初じゃなかったんだ! 杉浦茂、その前にやってたんだ!
いやあ、珍品ですよね。『シン・ゴジラ』もいいですけど、こういう作品を読んで、初代『ゴジラ』公開時の雰囲気に触れるのもいいんじゃないかと思います。怪獣映画ファンにおすすめの1冊です。