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著者は「昭和陸軍」が満州事変を契機に形成され、日中戦争から太平洋戦争へと続く道を作っていったと考えている。
第1巻はその満州事変がなぜ引き起こされたのか、「昭和陸軍」とはどのような組織だったのか、について永田鉄山、石原莞爾ら陸軍中堅幕僚によって組織された一夕会などと陸軍中枢(長州閥や宇垣派)などの力関係、その思想と行動を中心に叙述されている。
「一般には知られていないことだが」と前置きされて述べられている部分がちょっと鼻につく感じがするが、実際、勉強になる。
戦後70年の今年、元日に天皇陛下が「満州事変に始まるこの戦争の歴史を十分に学び、今後の日本のあり方を考えていくこと が、今、極めて大切なことだと思っています」とおっしゃられた。もしかするとこの本もお読みになっていたのかも……。
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満州事変は、関東軍と陸軍中央の一夕会系中堅幕僚グループの連携によるものだった。そして、犬養内閣の成立と荒木陸相就任によって、関東軍や陸軍中央の一夕会系中堅幕僚が企図していた、北満・錦州を含めた全満州の軍事的掌握が一挙に実現した。また日本の実権掌握下での独立国家樹立の方向が、国家レベルの政策として決定されたのである。 さあ、この後は永田鉄山がなぜ惨殺されたかを調べよう。
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なぜ無謀な戦争は始められたのか?
日本を破滅的な戦争へと引きずり込んでいった昭和期の陸軍・・・
さらにその昭和陸軍を引っ張っていった人物たちにスポットを当てて、満州事変から太平洋戦争までを振り返る・・・
全3巻の第1巻、満州事変・・・
著者の前著の「昭和陸軍の軌跡」がとっても面白かった(勉強になった)ので購入・・・
その「昭和陸軍の軌跡」をより詳しく書いたのが今作ですね・・・
満州事変・・・
一般的には世界恐慌で苦境に立つ日本・・・
その困難を打開するために、関東軍の石原莞爾や板垣征四郎らが中心となって勝手に暴走し、政府や陸軍中央の首脳部は後手後手に回り、
事変拡大へと引きずり込んでいった・・・
というイメージかと思われます・・・
が、しかし、この本を読むと・・・
石原は、世界恐慌以前に既に満蒙(満州と内蒙古)の領有計画を立案していたことがわかる・・・
むしろ世界恐慌が、満蒙領有計画実行の絶好の追い風、チャンスとされた、と・・・
そして、事変は関東軍の独断じゃなくて・・・
陸軍中央でも、永田鉄山らを中心とする中堅幕僚たちが結成した一夕会(石原らも所属)の面々が、謀略による満蒙領有計画は了承済みで、事変のきっかけになった柳条湖事件後の関東軍の動きを支援していく・・・
関東軍は暴走したのではなく、満蒙を領有するという目的のために、関東軍と陸軍中央の一夕会の中堅幕僚たちとが連携して事を進めていったのだとわかる・・・
では、なぜ満蒙を領有するのか?
それは・・・
いずれ必ず起こると観ていた次期世界大戦のため・・・
その次期大戦を勝ち抜くために必要な国家総力戦体制を構築するために資源の豊富な満蒙は不可欠!だから日本が領有する!
この方針の下、関東軍は独走、内閣の不拡大方針を無視して陸軍全体でドンドン独走していった・・・
で、その方針を作っていった中心人物が2人の天才異才、永田鉄山と石原莞爾・・・
当時、第一次世界大戦が世界の軍人たちに与えた影響は激烈だったようで・・・
戦争の量や質が激変した、と・・・
今までのような戦争とは比べ物にならないぐらいの規模であり・・・
国家が軍事面だけでなく、経済面や精神や文化面などありとあらゆる要素の総力を挙げて戦争を行う総力戦に変質した、と・・・
この2人もご他聞にもれず、というかむしろ誰よりも敏感に受け止め、2人それぞれ大戦の定義や細かい認識、考えは違うのだけれども、いずれ世界大戦は必ず起こると確信にいたる・・・
日本はその次期世界大戦へ向けて準備をしておかなければならない・・・
勝ち残るためには今の日本のままでは到底無理・・・
まずは何はともあれ、満蒙や、そして中国の資源が必要になってくる・・・
日本のものとしておく必要がある・・・
という共通認識の下、陸軍の少壮の中堅幕僚ら、志を同じくするメンツを集めてグループを作り・・・
陸軍、ひいては日本を主導していくことを目指していく・・・
満州事変までの陸軍は、陸軍を長く牛耳っていた山縣有朋以来の���州閥の流れを引き継いだ宇垣一成を中心とする派閥が中心で・・・
結構政党政治に理解があり、さらに国際協調路線だったのに・・・
非主流だった永田らが、長州閥打倒や自身らの信念(戦略)を貫くために、長州閥を受け継いだ宇垣派を追い落とし、主導権を握るべく策謀していく・・・
永田らはクーデターなどで一気に権力を握るようなことはせず、現行の制度内で着実に陸軍内で主導権を握っていく・・・
内閣を構成する政党には積極的にプレッシャーをかけて、自らの思うように動かしていくという方針だった・・・
そして、満州事変時の意図的なゴタゴタで、宇垣派は追い落とされ、永田ら一夕会の面々が陸軍の主導権を握っていく・・・
こうして陸軍内で権力転換が行われたわけだけれども・・・
永田は英米も含めて世界中のどこの国と次期大戦で戦うことになるかまだ分からないから、自力で資源を確保し、自給自足できるようにしておくことが必要という考えだし・・・
石原は将来、アメリカと世界の行方を賭けた人類最後の大戦争(有名な世界最終戦争)が行われるというのが持論なので・・・
この権力転換、陸軍の変質がつまり、英米などとの協調路線から離れていくことを意味していた・・・
この点において満州事変は戦前日本にとって、大変に大きな岐路となっている・・・
その後5・15事件で犬養毅首相らが海軍青年将校や陸軍士官候補生、極右勢力らに殺害され・・・
永田など陸軍のプレッシャーもあり、政党政治が終焉を向かえ、国際連盟から日本は脱退する・・・
満州事変を主導した2人・・・
永田鉄山と石原莞爾・・・
2人に共通していたのは、どちらもいずれ必ず大戦が起こる、そのためには満蒙など中国大陸の資源を日本のものにしておかなければならない、というものであった・・・
この認識の下に満州事変を主導していった・・・
永田は満州事変より4年後の1935年(昭和10年)に、陸軍内の永田ら統制派と皇道派の派閥争いで白昼殺害される・・・
その後、石原莞爾の時代を迎えるけども・・・
満州事変時には浮かび上がってこなかった永田の戦略構想と石原の戦略構想の微妙な違いが・・・
このあとの日中戦争へ影を落としていくことになる・・・
永田の構想を受け継いだ統制派の面々が石原を追い落として、その後の昭和陸軍を主導していくことになる・・・
それは第2巻で、ということで発売が待ち遠しいです・・・
なぜ無謀な戦争は始められたのか?
その戦争に引きずり込んでいった陸軍の指導者たちの構想を辿っていくことは・・・
漂流する世界、そして緊張感が増し続けている東アジアに住むボクらにとって必要な知識だと・・・
やっぱり思うよね・・・
と、いうことでこれはオススメ・・・
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太平洋戦争は日本とアメリカの間で中国市場の開放をめぐって発生した経済戦争だった。当時も中国のためにアメリカと戦うのは変だという議論はあったし、勝てると思っていた人も少なかった。
なぜ、そんな無謀な戦争に至ったか。発端は1931年の満州事変で、その後、日中戦争、日米戦争と事態は陸軍の思惑をはずれていく。本書は、満州事変前後の陸軍の動きを、石原莞爾、永田鉄山、さらに統制派と呼ばれる主流派の動きを中心に述べている。
中央に明確な戦略がなく、関東軍と中堅幕僚が自分の意志で独走する。上位組織は事後で追認し事態が悪化する。そんな有様を見ていると、今の日本の大組織も当時の陸軍とあまり変わらないのかな、と思えてくる。
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川田先生の昭和陸軍史の本。今まで川田先生の著作を見ているので、内容が大分被っている部分があるが、この辺の歴史については日本史の中でかなり重要に思っているので熟読した。今までの著作同様に永田を中心とした一夕会グループの動きと対立していた宇垣派の考え方について詳しく書かれていた。第一次世界大戦が永田と石原の思想に大きく影響していたことは非常に興味深かった。個人的には皇道派と統制派の思想の違いと動きについて知りたかったが、それは今月に発売される次巻に詳しく書かれていると期待したい。
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満州事変期の陸軍内部の動向について、永田鉄山と石原莞爾ら、昭和陸軍の構想をリードした人物を中心に論じています。
特に永田の構想は本書で初めてその内容を知りましたが、非常に理路整然とした説得力のあるもので、その後の陸軍の方向を決定づけたというのも頷けます。
およそ370ページと、新書にしては厚いこともあり、非常に読み応えのある良書でした。
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日本を滅亡させた最大の要因といえる、昭和の陸軍を紐解く一冊。
1は満州事変と、石原莞爾、永田鉄山2人の構想と異同の紹介が中心。
まぁ陸軍が暴走したことは間違いないのだが、それを止められなかった当時の政治制度に対して、どうしても「何だかなぁ」と思ってしまう。帝国憲法下の日本って、国民国家ではなかったんだね。どこまでも天皇が大切で、天皇や宮中の体面を慮るばかりに、とんでもない決定をしていたんだと分かる。
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読んでいて思うのは破綻した論理的展開。戦略家達が、歴史と現状を分析して、国がどう振る舞うべきかを考える。
そこには覇権を争う欧米列強に対する生き残りをかけた論理がある一方で、愛国心(?)からなのか、アジア諸国を低く見て、日本を救済者、指導者とする傲慢さが垣間見える。そこで論理は大きく破綻しているが、彼らにはそこからしか先を見る視点がない。
それを狂気というのは容易い事だと思うが、当時の世界情勢では破綻した論理でしか未来を語れなかったのかもしれない。もっとも、これは後知恵で言ってることで、当事者になればその破綻に気づく事なんてできないかもしれない。
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全7章のうち、5章を「満州事変」の通史、2章を永田鉄山と石原莞爾の戦略構想の比較分析に充てている。
本書の日本陸軍観・「満州事変」観の特色としては、第1に、宇垣一成を中心とする世代と永田ら「一夕会」グループの世代の対立抗争を重視し、前者から後者に主導権が移る犬養内閣成立(「一夕会」が推す荒木貞夫の陸軍大臣就任)をもって陸軍の体質に「断絶」を認めている点、第2に、「満州事変」を通俗的な「関東軍の独走」というよりも、永田が主導する陸軍中央の中堅幕僚クラスの「下剋上」に重きをおいて説明している点が挙げられる。いずれも従来の通説に比して、永田鉄山(柳条湖事件時は陸軍省軍事課長)の主導性を重視しており、いわば「永田史観」と言っても過言ではないような叙述になっている。
第1の点に関しては、いわゆる「軍部」の成立時期に関する研究史上の対立点(日露戦後か「満州事変」期か)と関わり、対外政策や総力戦構想に、本書が強調するほど宇垣派と永田らの間に構造的な「断絶」があるのか疑問がある。第2の点に関しては、陸軍中央の関与を強調するあまり、逆に石原莞爾らの「独走」が相対的に希薄になっており、この点には異論が出よう。ほかにも細かい問題や疑問はあるが、「満州事変」期単独の一般向けの通史が少ない中で、最新の研究成果を通観できる点に本書の価値はあろう。
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様々に論争されている対象。その対象を、この本では丁寧に描いています。あの時代を振り返るにあたって、賛否の是非はあるでしょう。その判断をする前に、一読する価値はあります。
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一夕会による陸軍内権力の把握経緯という視点を主軸に、満州事変の経過について詳細に記述。
幣原内閣に対しては、国際協調路線を維持するため陸軍へのコントロールに腐心し、総辞職までコントロールを完全には失ってはいなかったと肯定的に評価。
国際連盟脱退について、熱河作戦を理由とする除名を避けるため機先を制したとの説を否定。
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素晴らしいの一言に尽きる。
なぜ日本はかくも無謀な戦争に突き進んでいったのか。
この素朴であるが難解なテーマに対するひとつの見識として、
新書とはいえ、昨今の雑誌のような新書とは異なり、
とても濃厚で読み応えのある内容になっていると思う。
まさに陸軍、いや昭和陸軍の端緒が何なのか、
そして政党政治の終焉というものが、
どのような意味合いを持つことになったのか、
そういった経緯がとても丹念に洗われており、
目から鱗なことばかりであった。
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当時日本で最も優秀な頭脳集団の一つだった旧日本陸軍。なぜあの太平洋戦争に至り、その後完全解体という悲劇に至ったのだろうか?本書は全3部作の第1部で、満州事変とその背景について論じている。そしてその原因を、陸軍内部に誕生した一夕会とその他の派閥抗争に端を発するとしている。一夕会が考える陸軍が取るべき方針は、第一次世界大戦を鑑みた国内体制の変革の必要性と満蒙親日傀儡政権樹立の必要性、そして内部にはびこる長州閥の打破と考えていた。そして、陸軍内部で人事介入工作を始め、満州事変に至る。
分からないことがある。一つは、結果的にみれば独断専行した関東軍の狙い通りと言える。しかし、当時は元老西園寺公望も健在で、政党政治が機能していた。陸軍内部でも一夕会は少数派だったようだ。一夕会自体もクーデターまでは想定していなかったようである。当時の実際の天皇の影響力がどの程度だったのかは分からないが、一歩間違えれば賊軍として扱われ、粛清されるリスクも十分にあっただろう。どこにその勝算があったのだろう?
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先ほど気づいたのだが、私はずっと川田を川北稔と同一人物だと思い込んでいた。おかしいなと思ったんだ。文体の違いよりも漢字の多さが気になった。とにかく漢字が多すぎて読みにくい。川田と編集者はもっと「読んでもらう」ための努力が必要だろう。特に軍事関係は肩書が長くてウンザリさせられる。ルビも聖教新聞並みに振るべきだ。
https://sessendo.blogspot.com/2021/11/1.html