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角川選書 尾形仂 「 おくのほそ道 を語る 」
松尾芭蕉 研究の第一人者である著者が「奥の細道」の作句背景、野坡本(芭蕉自筆本)に見られる改稿意図、芭蕉の漂泊の人生から 芭蕉文学の芸術性を紐解いた本
著者が指摘した芭蕉の作句姿勢
*「平泉」を頂点とした照応関係
*歌枕巡礼としての「白河の関」「最上川」「象潟」
*歌枕を超えた俳枕「立石寺」
*敗者の歴史をめぐる「平泉」
*軽みを志向「尿前の関」「敦賀」
*俗へ帰るべし「松島」
芭蕉が、歌枕巡礼や歴史紀行を通して、日本の風土に刻まれた 創造の源泉を探していることがわかる。それが「風雅」や「軽み」だと思う
新たに発見された野坡本についての論考は特に面白い。野坡本から曽良本を経て、西村本に至る過程の改稿部分に「奥の細道」創作の秘密を見出している
芭蕉の漂泊の人生から見られる芭蕉文学の芸術性
*無益の益、無用の用〜病弱な無用者の自覚
*不易流行の実践を通して「軽み」の実現をめざす
*「閉関の説」是非を問う心を捨て、人間を肯定する和の心
「俳諧とはつまるところ、俳諧の座をともにする連帯感、連衆心の文芸である」
平泉を頂点とする地域の対応関係
*千住→平泉→大垣
*松島→平泉→象潟
*那須野の小姫→平泉→一振の遊女
*日光の仏五左衛門→平泉→福井の等栽など
「おくのほそ道」は 「軽み」への模索の中で執筆された
*転換点〜尿前の関
*人々との交歓〜大石田
*人々のもてなし〜出羽三山、酒田
*軽々とした趣〜敦賀
「軽み」は 煩わしい人間関係の中に腰を据え、人間生活の中の日常卑近な喜びや悲しみに目を向けてゆく中で深められた〜俗に帰るべし
閉関の説=人間的な愛情を肯定し、名利に囚われた世界を超脱して、心閑かな境地で生きよう
*人間は恋の過ちを犯しやすい〜老いて貪る愚かさに比べれば、はるかに罪が軽い
*一芸にすぐれる者は、貪る心と他人に勝とうとする心の深い人間で、とうてい救いがたい
*貪欲の魔界を抜け出し、老若を忘れて閑かにならむこそ、老いの楽しみ