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信頼の大森望によるサイバーパンク傑作選ということで。テーマ別傑作選みたいなものを最近いくつか読んでいて思ったことだけど、つい「これってサイバーパンクかね??」というツッコミを編者に対してしたくなってしまうが、そういうのは往々にして多分封印したほうが楽しめる。
編者による解釈で、つまり広い意味でサイバーパンクなものを集めているものと考えて、それぞれ設定違うけど楽しんでみようと。
この手の作品は状況理解の難易度が高くて、「ちょっと何言ってるかわかんないです」状態に陥りがちなんだけど、そこは反復によってSF筋を鍛えていきたいところ。
流石なギブスン、スターリングで幕開けし、最後の『常夏の夜』も良かった。SFの中でもサイバーパンクは特にお作法というか、お約束というか、マナーがあって、それらをこういう短編集を通じて理解していくと、ちょっとニヤリとできる感じがあったりして、楽しいのです。
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クローム襲撃 ★★★★☆
* オートマチック・ジャック:おれ。修理屋
* ボビイ・クワイン:ジャックの相方。カウボーイ。金庫破り。
* リッキー・ワイルドサイド:ボビイの女。
* フィン:故買屋の店主。
* クローム:マフィアグループ、ザ・ボーイズの一員。女。
* 超危険人物クロームの資金を奪って飛ぶという話。
間諜 ★★★★☆
* ユージーン(スプーク):軌道財閥体の工作員。
* レプリコン社:〈統合 (シンセシス)〉加盟企業
* マヤ復興派:反体制の新興宗教組織。レプリコン社と対立。
* エミリオ・フローレス:医師。〈統合〉の支配を免れている半独立医療センターを運営。非重要キャラ。
* ジョン・オーガスタス・オーウェン:非重要キャラ。
* アナトーリャ・ジュコーワ:女スプーク。
* 1回目は「ちょっと何言ってるかわからないです」状態だったけど、2度目を読んだ時、ああ、これはすごい話だなと。
* レプリコン社がユージーンにマヤ復興派の壊滅を依頼する。しかしマヤ復興派へ潜入した後捕らえられ、実はユージーンも元々反体制派で洗脳されていたことを知る。そこでユージーンは自らの本名・過去を思い出すが、大量殺人犯としての過去より、洗脳された自分を選択し、マヤ復興派を壊滅させた。
TR5989DA ★★★★☆
* TR5989DA:浮遊都市制御体の1ユニット
* マーター:マスター
* マーターから切り離された不良モジュールの葛藤。
女性型精神構造保持者 ★★☆☆☆
* テッキー君とキップルちゃん〈彼女〉
* ウサノ師:日本人協会の宗主
* 狼少年
* シーラ(猫少女):狼少年の彼女
* ちょっと何言ってるかわからない。
パンツァーボーイ ★★★☆☆
* アルカーディ・ミハイロヴィチ・ドラグノフ:ロシア人のブローカー
* カウボーイ
* カウボーイという密輸屋が、敵に追われながらアメリカ大陸を横断する。短編集『ハードワイヤード』の中の一作らしいので、背景がちょい分かりづらいけど、カッコいい。(サイバーパンクというより)MAD MAXのような世界観を想像しながら読んでた。
ロブスター ★★★☆☆
* マンフレッド・マックス:アイデアマン。特許を取得しては人に譲り渡す。
* ロブスター:FSB(ロシア連邦対外情報局)のAI。人類圏から亡命したいという。
* パメラ(パム):マンフレッドの元フィアンセ
* ジム・ベジエ:神経力学の専門家。ベジエ=ソロス社という研究所を持つ。
* ボブ・フランクリン:起業家
* アイヴァン・マクドナルド:パブリックアート屋。オゾンホール焼け。
* 握手で電子指紋を交換し、お互いの素性を確認できたり、指先同士を触れることで電子名刺とIMのアカウントを交換できる、みたいな世界が楽しい。
パンツァークラウンレイヴズ ★★★☆☆
* 御手洗憧:15歳の女子中学生。私生児。
* Un Face:行動制御技術。市民に最適な行動を指示する
* Co-HAL:都市の住民が装着しているインターフェイス
* 識常末那:事故で父を失う。憧が惹かれた人。
* 社美弥:オーガニックだが、街を出た人。層現失認を患っている。
* 社公威:美弥の父。
* 御手洗恋:憧の実母
* 御手洗勇:憧の実父
* 周藤速人:憧の実父を殺した男。
* 白奏 (ホワイトジャズ) テロ組織。周藤引き入る。
* 黒花 (ブラックダリア) テロ対策組織
* かつての東京、層現都市イーヘヴン市が舞台。わさにサイバーパンクという設定と文体。しかし、憧が周藤に取り込まれて終わるという後味最悪なバッドエンドは欲しくなかった。本編の『フェイセズ』に続くらしいが、ちょっと大丈夫です。
常夏の夜 ★★★★★
* タケシ・ヤシロ:ライター
* リンシュン・ウォン少尉:シンガポール軍の女性士官
* カート・マガディア:量子コンピューティングのエンジニア
* 台風で被災したフィリピン・セブにて。量子コンピューティングで起こりうる世界を予測に成功してしまった世界。
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いまこの世の中に氾濫しているエンタメのなかで、30年後に当然になっているものはなんだろう? どれだけあるんだろう。
サイバーパンク30年史を見守るような傑作選。このSFの一大ジャンルが、何処から来て何処へ行くのか。
なんか歴史ある古都をいいとこ取りで訪ねたような感覚になりますね。ときどきアンソロジー読みたくなるのは旅行の気分なのかも。
W.ギブスン、B.スターリングにはじまる初期作品は、現代のようにSF的知識がある程度一般化した(風に見える)中だといかにも古臭く、ワードセンスだけで突っ走っているようにも見えるけれど、そう感じるくらいに読者を育てたのは誰なんだ、ということ。親の顔を見て自分に似てるからつまんないと思うようなものである。
そのへん80年代というのは、国の内外を問わずいろんなエンタメの基礎が立ち上げられた時代なんだろう。この時代をリアルタイムで生きていたひとたちのエネルギーってすごいもんな…
そうした骨格がしっかりと打ち立てられると、その骨格に好き勝手肉付けをしはじめる好事家が現れる。“商業サイバーパンク”と云う言葉ははじめて聞いたけれどなるほど、娯楽という肉を大盛りにすればそうなるし、或いは思想を、宗教を盛ることも性愛を盛ることも出来てくる。
そうして多種多様なサイバーパンクが一旦拡散して、そこから純粋SFへの回帰が始まるというのも…なんかこうやって書いてるとやっぱりミステリとSFの親和性ってのは拭い難いというか。
“揺るがないはずの信念が、理屈によって揺さぶられる”という虚淵玄の言葉はそのまま、ロジック原理主義に繋がるところもある。
片や論理へ、一方は技術への飽くなき挑戦と憧憬。その姿勢の美しさよ。
そうやって突き抜けた先の現代サイバーパンクが、ストロスや藤井大洋のように明るく前向きになっていくのが印象的。
かといって吉上亮のような、技術の陰惨さも忘れていない。
まだまだ、読むものは増えていくばかり。
長生きしねぇと。
☆3.4
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秋山瑞人好きとしてサイバーパンクを読んでおかなくてはという気持ちで読んでみたが、うん微妙。
どの作品も細かな描写やガジェットの面白さはあるが、一つの短編としてのまとまりが無い。