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いまこの世の中に氾濫しているエンタメのなかで、30年後に当然になっているものはなんだろう? どれだけあるんだろう。
サイバーパンク30年史を見守るような傑作選。このSFの一大ジャンルが、何処から来て何処へ行くのか。
なんか歴史ある古都をいいとこ取りで訪ねたような感覚になりますね。ときどきアンソロジー読みたくなるのは旅行の気分なのかも。
W.ギブスン、B.スターリングにはじまる初期作品は、現代のようにSF的知識がある程度一般化した(風に見える)中だといかにも古臭く、ワードセンスだけで突っ走っているようにも見えるけれど、そう感じるくらいに読者を育てたのは誰なんだ、ということ。親の顔を見て自分に似てるからつまんないと思うようなものである。
そのへん80年代というのは、国の内外を問わずいろんなエンタメの基礎が立ち上げられた時代なんだろう。この時代をリアルタイムで生きていたひとたちのエネルギーってすごいもんな…
そうした骨格がしっかりと打ち立てられると、その骨格に好き勝手肉付けをしはじめる好事家が現れる。“商業サイバーパンク”と云う言葉ははじめて聞いたけれどなるほど、娯楽という肉を大盛りにすればそうなるし、或いは思想を、宗教を盛ることも性愛を盛ることも出来てくる。
そうして多種多様なサイバーパンクが一旦拡散して、そこから純粋SFへの回帰が始まるというのも…なんかこうやって書いてるとやっぱりミステリとSFの親和性ってのは拭い難いというか。
“揺るがないはずの信念が、理屈によって揺さぶられる”という虚淵玄の言葉はそのまま、ロジック原理主義に繋がるところもある。
片や論理へ、一方は技術への飽くなき挑戦と憧憬。その姿勢の美しさよ。
そうやって突き抜けた先の現代サイバーパンクが、ストロスや藤井大洋のように明るく前向きになっていくのが印象的。
かといって吉上亮のような、技術の陰惨さも忘れていない。
まだまだ、読むものは増えていくばかり。
長生きしねぇと。
☆3.4