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マルクスに対して批判的な立場からの、マルクス論です。著者は、金融危機以降ふたたびマルクスに期待が寄せられつつある状況に対して、次のように苦言を呈しています。「私は、マルクスの著作を読んで、資本主義経済の本質に接近するということは、決してないと考えるものである。序にも書いた通り、特に二○○八年の世界金融危機の後、そう誤解する人が後を立たないので、危機感に駆られて本書を執筆したほどなのだ」。
マルクスのフランス革命観について論じている最初の章は興味深く読みましたが、その後で展開されている『資本論』批判、とくに価値形態論に対する批判はナイーヴなものが多いように感じられました。とはいえ、著者はあくまで、社会学や経済学の方法論を守りつつ、その観点からマルクスの議論を裁断していくという立場を意識的に採用しているわけで、上のような反論は筋違いというものかもしれません。同様の企図で執筆された本として小泉信三の『共産主義批判の常識』(講談社学術文庫)がありますが、こうした試みそのものを頭ごなしに否定することもできないのではないかという気がします。