投稿元:
レビューを見る
静かな筆致で淡々と語られる住まいに関わる怪異譚が六編。じわりと冷たいものが沁み入ってくるような怖さのある怪談に、その解決がもたらす爽やかでしんみりとした読後感がよい。
とある城下町、自宅で起こる怪異に悩む住人たちは営繕屋さんに相談を持ち込む。霊能力者は出てこないし、謎解きや快刀乱麻の解決があるわけでもない。営繕屋は端役として登場し、起こっている現象を取り除くのではなく、住人が困らずに生活できる方法を提案する。
主人公はあくまでも住人たち。怪異が現れる過程や住人らの心情の変化がとても丁寧に描かれ、自分にも怪異が迫ってくるような感覚を覚える。
解決役がいるにも関わらず、その存在感は抑えられており、解決までを含めた一つの実話怪談であるかのような雰囲気が出ているのが面白い。このバランスが非常によくできている。
住居を題材としたことや、実話風怪談から少し飛び出しつつその雰囲気を残したような作り方は、前の作品『残穢』の次の試みとして狙ったものなのでしょうか。似たような題材で、さらに読み物としての面白さを追求したのかなと思うと興味深いです。
六編とも完成度高くそれぞれ味わいがあります。淡々とそこにあるだけの怪異から、脅威として危機感を感じるものまでありバリエーションも豊か。緊迫感ある「雨の鈴」が特に好みです。
まだ連載が続けられるようなので続編も楽しみにしています。
投稿元:
レビューを見る
とある歴史ある城下町。古い(といっても2代目~3代前までしかさかのぼれない)民家に引っ越してきた人々に降りかかる不気味な出来事。箪笥で囲われた「真新しい部屋」、雨の日だけに進む謎の女、天井から響く足音、そして人の影・・・。
起こる出来事はほんとちょっと古い(とても古い、でないところがまた生々しい)家なので、ひょっとして自分のところにも出るんでないかと怖くなる感じなのだが、それを営繕やの尾端は修繕や作り変えで筋を直していく。。
この話の中では尾端は異能者でもなく、また怪異は退治されるのではなく、戦うのでもなくて、本来の流れに戻してやる、お互いにやりすごすという対処の仕方でそれがまたなんとなく日本風の相対の仕方だなと感じながら読んだ。
投稿元:
レビューを見る
屋根、土地、井戸など、古く歴史がある場所には澱が溜まる、そこには何かが住み着く。町屋と言う特殊な家だからこそ怖さをより感じ、震えてしまう。
結構怖く、夜に家では読めない(笑
投稿元:
レビューを見る
「残穢」を書いたことで、怪談のその後、怪談を怪談でなくするための手立てまで描くことにしたのかなぁ?なんにせよ、事象があって結果がある。ブラックボックスはブラックボックスのまま、手段は提示してもそれが事象に対する救いであるかはわからないまま、淡々と始まり終わる。それがこの本の良さなんだろう、とは思いつつ、少し物足りなさも感じた。
投稿元:
レビューを見る
これですよ、この文体!しばらく柔らかいミステリとかしか読んでなかったので新鮮に感じました。短編6作、すべて障りがある建物の話。怖いんだけど哀れを感じる背景もあったり、ご近所さんの人情があったりで不思議と読後感のいい一冊でした。
投稿元:
レビューを見る
小野主上のホラー新作。
短編なのでさらりと読み易く、ゴーストハントや残穢と比べたらそこまで怖くはないかな。
とか思ってたけど、怪異の起こる場所が家という身近すぎるものなので、夜になるとじわじわ怖さが効いてくる感じです。家が路殺になってないか確認した人絶対多いと思うよ!夜に冷蔵庫開けるのちょっと怖いよ!
けど、怖いもの=悪いもの、と決めつけて家から追い出したり消し去ろうとするんじゃなくて、そこに残ってしまっている人の思念をくみとって、昔住んでた人と今住んでる人と両方に良い道を示してあげられるのがすごく素敵だなあ、と思った。
怖いと同居は嫌だけど、ちょっとの不思議と同居なら微笑ましいで済ませられる、と、思う。うん。
表紙イラストは「蟲師」の漆原さん、装丁はゴーストハントから引き続き祖父江さんと本編以外も豪華です。
祖父江さん、漆原さんの落ち着いたイラストに蛍光イエローぶっこんでくるなんてさすがのセンス。
投稿元:
レビューを見る
「奥庭より」「屋根裏に」「雨の鈴」「異形のひと」「潮満ちの井戸」「檻の外」の短編7編。
古い住宅で起こる怪異のお話。
ゾクっとするけどなんだか優しいお話。
怪異に対するスタンスがいいんですね。
おもしろかったです。
内容のテイストが蟲師を思わせる・・・なんて思ってたらハードカバーの装画が漆原さんじゃないですか!
すごい!
なんてサービス満点な!
投稿元:
レビューを見る
真冬の小野不由美。
くそ熱い電車の中でも不思議と肌寒い。
久しぶりの小野不由美。久しぶりの“怪談”。
でもただの怪談じゃ終わらないのが小野不由美。
いっそ怪談を語って“怪談”でなくしてしまう感じ。
いわゆる“怪談”というのは途中にある話なんだなあとわかる。
もっともっと読みたい。
タイトルを持っていった営繕かるかや、
がほぼ出オチ。
投稿元:
レビューを見る
城下町に水路などなど、怪異が集まりやすいお家に住んでる人達が主人公。
で、その障りをサラッと改善していく営繕屋さん。
営繕かるかやの名が出ばってるのは題名だけww
あとは、そっと登場して物語が終わる。
6つのお話しが載ってるから、落しどころも色々で楽しめるし、まだまだ『幽』っていう雑誌でこの物語を掲載中とのコト。
また続きが読めるんだぁーって思うと嬉しくなっちゃう☆
投稿元:
レビューを見る
城下町の古い家で起こる怪異をまとめた短編集。
町屋、日本家屋で「ありがち」な、襖が勝手に開く、部屋の中を誰かが歩く音がする、隙間におじいさんがいる・・・といった怪異が登場する。
そこに住む人たち、怪異が起こってもそこに住まざるを得ない人たちの背景や、抱えている問題などを描き出すことで、読むものの不安を一層かき立てる。
このような怪異を、家を営繕することで解決する「営繕かるかや」。尾端という若い男性が怪異の原因についてはわからないとしながらも、怪異の「しくみ」を読み解いて、怪異を「逃がす」。
「恐怖」のしくみを把握し、きちんと一定の論理でそれを抑える、という手法が面白い。
投稿元:
レビューを見る
古い家に纏わる連作短編。ひんやりと、しっとりとした怖さがじわじわと忍び寄ってくる。でも、読み終わるとどこかほっこりするいいお話。読んでて古い町並みのもっている雰囲気が何処と無く漂っていて、いいなってちょっと憧れた。
投稿元:
レビューを見る
疎遠だった叔母から古い町屋を相続した祥子。
不自然に封じられた奥座敷の襖は何度閉めても、いつの間にか開いている。
奥座敷から出ようともがく「何か」がいる――。
住居にまつわる怪異や障りを営繕屋の尾端が鮮やかに修繕する、全6篇の短編集。
古い家で起こるさまざまな怪異を描いたホラーですが、血なまぐさいおどろおどろしさは無いので怖いのが苦手な方も大丈夫。
どのお話にも出てくる日本家屋の薄暗い闇にひそむ「何か」には不安をかきたてられますが、怖ろしげな描写は抑えめで、肩すかしをくらうくらいあっさりとした感じ。
最初はさっぱりとしすぎていて物足りなさを感じてしまったのですが、 そのくどさのない静謐さに惹かれました。
歴史のある古い家には澱が溜まり、やがては何かが住み着いてしまう。
それは避けられないことなので、排除することなく怪異と人間のお互いの領域を侵さず住み分けて共存していこうとする・・・そんな姿勢が、リアリティがあって面白かったです。
以前の作品の「ゴーストハント」のように怪異を退治するのではなく、霊能者ではないただの営繕屋が解決に導いてくれるのが、また良いです。
読後にふわっとした優しい気持ちになれる、極上のお話でした。
投稿元:
レビューを見る
【図書館本】うすら寒くなることはあったけど、全体的に怖さ控えめで、各話終わりには少しほっこりするような読後だった。
特にお祓いをするわけでもなく。簡単なリフォームで交わっていた人と人でないものの世界が断たれる(意識から外れる)。営繕屋尾端さんの、人と人でないものに対する思いが暖かいと感じたのかも。
連載自体は続いているようなので、続きが楽しみ。
投稿元:
レビューを見る
家にまつわる怪異を営繕屋が解決していくホラー短編6編。ホラーの苦手な俺にとっては「映像じゃなくてよかった」と思わざるを得ない程度には恐かったです。ただ、恐いだけではなくって前向きな結末には救われました。
投稿元:
レビューを見る
2012年、小野不由美さんの久々の新刊が一挙に2作刊行されたのは記憶に新しい。いずれも実録怪談的な怪談作品だったが、本作も怪談の短編集である。
全6編とも舞台は古い家。古い家には、ああ何かいる!何かいるうっ! お祓いでも呼ぶのかと思えば、解決するのは営繕屋の尾端。営繕屋とは、ちょっとした家屋の修繕を手がける商売。まったくの専門外のはずだが…。
「奥庭より」。叔母から受け継いだ家には、箪笥で塞がれた開かずの部屋が…。受け継ぐ前に怪しいと思わなかったのかいっ! 確かに閉めたのに。閉めたのにいぃぃぃぃ! 1編目から正統的な怪談っぽく、語り口に引き込まれる。
「屋根裏に」。タイトル通りです。母が訴える。屋根裏に。屋根裏にぃぃぃぃ! やがて娘にも…。本作の一押し「雨の鈴」。雨の日に現れる、喪服姿の女性。その正体は…。徐々に自宅に迫るが、引っ越す余裕はない。やり過ごす手段とは?
「異形のひと」。父の郷里に突然帰ることになった一家。田舎に馴染めない長女にだけ、それは見えた。悲しい背景に胸が詰まる。「潮満ちの井戸」。井戸でホラーといえばあの作品が思い浮かぶが、関係ありません。合理的な解と非合理な怪の融合はうまい。
最後にやや長い「檻の外」。子連れで郷里に戻ったものの、両親との折り合いが悪く、親戚に借りた古い家に住む女性。ガレージで相次ぐ怪現象の正体とは…。頼れるのはやんちゃしていた頃の仲間。ヤンキーは義理堅い。それにしても酷い両親だな…。
全6編とも、最終的に尾端が古い家に修繕を施す。彼に霊感はなさそうだが、その家の障りを取り除くためにどうすべきかはわかるらしい。怪異は止んだので、住人としてはまあいいかという感じだが、真相はわからず、読者はある意味置いてけぼりである。
結論を言うと、本作は大変面白い。謎が謎のままで終わる怪談の宿命を、いかにマイナスだと感じさせないか。このジャンルはかように難しく、奥が深い。小野不由美さんが優れた怪談の書き手であることは間違いない。