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フランス・ドゥ・ヴァール(柴田裕之訳)『道徳性の起源ーーボノボが教えてくれたこと』紀伊國屋書店,2014(原著2013年)
この本の基本的なメッセージは以下の点にある。
①道徳性が先、宗教は後である。宗教ができるまえの人類が「やりたい放題」だったなどと考えるのは愚かである。
②道徳性は動物行動に基盤がある。動物にもケンカの仲直りや共感などにみる「一対一の道徳」と「コミュニティーへの気遣い」がある。子供や群れの仲間とじゃれるとき、動物は手をぬくし、ケンカの後はなぐさめあい、死を前にすれば気落ちする。雨に打たれたチンパンジーは示威行為をし「シャーマニズム」の起源のような行為もある。イヌやサルなどは報酬が不公平だと不満をあらわし、サルではよい報酬をもらった方が仲間にもやってほしいとアピールする。一般に「である」から「であるべき」を動物は導くことはできないとされているが、クモが巣をはり替える行動や、サルの群れの仲直り行動など、「あるべき」姿について動物も理解をしている。
③人間の宗教は動物行動に基盤をもつ道徳性に根ざしている。したがって、宗教は道徳性の皮膚のようなもので、科学よりも起源がずっと古い。宗教は動物行動の基盤があるからこそ、機能をするのであり、もし動物行動に基盤がないなら、宗教が広がることはなかった。宗教は動物としての人間に根付いており、その役割は小さくないが、現在では社会秩序の維持などは公共機関がになっており、脱宗教化は西欧で実験中の出来事である。宗教を敵視する無神論はいきすぎである。
④人間は進化の過程でみにつけた道徳性をもっているから、動物行動のレベルで「よりよい社会」をつくる能力をもっている。神や理性などから演繹するトップダウンの道徳性ではなく、人間の本性を発展させていくボトムアップの道徳性が未来の社会にふさわしい。宗教そのものよりも、教条主義のほうが問題が多く、人文主義の人間観を発展させることで、この未来の道徳を構築することができるであろう。
全体を通して、ボノボやチンパンジーの行動がよく記述されていて、とても勉強になる。進化は適者生存であるが、その過程で身につけた能力がすべて血塗られたものではない。ベートヴェンの部屋が汚いからといって、彼の作品の美しさを否定できないのと同じく、進化の産物である動物の能力をすべて利己的で血塗られたものとするのはまちがいである。DNAがタンパク質をコーディングすることと、動物行動の間には大きな開きがあり、その間にさまざまな段階がある。この本はいってみれば、動物行動学から『孟子』を注釈したものである。前著『共感の時代へ』では孟子への言及がみられたが、東洋の思想を考えるうえでも欠かせない書物であろうと思う。
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類人猿あたりから道徳性の芽生えがあり、おそらく、道徳は結構動物的に本質的なものという。何かわかるような気もするし、うーん。
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道徳性はどこから来たのか?
私たちヒトの道徳性が宗教によってもたらされた「与えられたもの」であるというトップダウンの考え方を否定し、私たちの他者に対する思いやりや共感(=道徳性)が、進化の過程で獲得されたものであるという事を生物学の視点から述べる。
ボノボやチンパンジーの観察事例が非常におもしろいが、そのウエイトは期待していた量より少なく、道徳性に対する世界の考え方の変化(歴史的な内容)について述べている部分が多かった。
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ボノボの行動特性を例に、人の利他性や道徳性の起源を考察。
ボノボの生活が人間とかなり近いのが興味深い。
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(2015.10.27読了)(2015.10.15借入)(2015.02.23第2刷)
副題「ボノボが教えてくれること」
「ダーウィンの思想」内井惣七著、を読んだときに、フランス・ドゥ・ヴァールの著作が紹介されていました。
先日、図書館に行ったときに、新刊コーナーでこの本を見つけました。霊長類にも道徳性が認められるのか、ということをテーマにしているようなので、借りてきました。
人類も進化によって、でき上がった生き物であるとダーウィンの進化論は、いっているわけですので、人類だけにしか、言語や知性や文化や宗教や道徳がないとしたら、どうしてそんなことが起こったのか、人類だけはほかの動物と別のものではないか、ということになりかねません。人類に近い霊長類で、人類と同様のことが観察できれば、進化の道筋が見えてくる可能性があるということになります。
霊長類の観察や実験によって、人間の心理や行動の起源を探るというのは、京都大学の霊長類研究所の得意とするところですが、海外でも、盛んにおこなわれているようです。
この本でも、チンパンジー研究の西田利貞さんやボノボ研究の古市剛史さんが登場します。
ボノボというのは、かつて、ピグミーチンパンジーと呼ばれたこともあります。見た目が、小さめのチンパンジーという印象なので、そう呼ばれたようですが、別の種だということを明確にするために、ボノボと呼んでいるようです。チンパンジーと同様に知能がかなり高く幼児のころは、人間より知能が高いといわれています。
ボノボの社会は、争いを好まず、セックスによる挨拶行動が頻繁に行われるので、人間が見るとちょっと眉を顰めたくなる感じです。
オスとメスのあいさつは、軽いセックスで、メス同士の場合は、腫れあがった性器をこすり合わせるホカホカと言われる方法で行います。
チンパンジーの場合は、オス同士ならマウンティングで、順位を確認したり、順位の低いほうが毛づくろいをしたり、といったところなのですが。オス同士の争いとなると、死亡に至ったり、大けがを負ったりになります。ボスが新しくなったりした場合には、幼い子供は殺されたりするようです。メスは、授乳による子育てのあいだは、発情しないので、子供を殺して、メスを強制的に発情させるためと言われています。この現象は、チンパンジーに限らず、ライオンやクマなどでも確認されているようです。
ボノボでは、母系社会で、メスはいろんなオスと交わるので、オス同士の争いや、オスによる子殺しは、無いということです。
この本の副題は、「ボノボが教えてくれること」となっていますが、ボノボの事例だけでなく、チンパンジーの事例も多く引用されています。
キリスト教徒にとっては、人間は神によって作られたもの、と信じられていますので、ダーウィンの進化論には、根強い抵抗があるようです。ダーウィンの進化論では、人間も他の動物と同様に単細胞の生命の誕生からの長い進化の系統の中に位置づけられていますので。
ダーウィンによると、人間は特別のものではなくなります。
そうすると、人間特有のものと思われている言語や知能なども、進化の過程で獲得されてきたものということになりま���。この本で、特に論じられているのは、利他性とか思いやりについてです。
人間は、自分にとって何の利益にもならないことをやったりすることがあり、これが公共性とか道徳性ということにつながります。利他性のもとになるのが、思いやりということになります。
ボノボの観察によって、思いやりが認められるということを述べています。
仲間に死についてや体の不自由な仲間に対する振る舞いについても、記されています。
ボノボやチンパンジーの記述より、キリスト教徒がどう考えるかに多くの紙数が使われている印象なのですが、西洋でのサル学のおかれている状態が反映されているのでしょう。
【目次】
第一章 快楽の園に生きる
第二章 思いやりについて
第三章 系統樹におけるボノボ
第四章 神は死んだのか、それとも昏睡状態にあるだけなのか?
第五章 善きサルの寓話
第六章 十戒、黄金律、最大幸福原理の限界
第七章 神に取ってかわるもの
第八章 ボトムアップの道徳性
謝辞
訳者あとがき
参考文献
原注
●顔認識(25頁)
類人猿の顔は人間の顔と同じでそれぞれはっきり異なっている。どちらの種も、同類のほうが見分けやすいのは確かだが。
●系統樹(78頁)
DNAに基づく系統樹では、ヒトは、およそ600万年前に類人猿から分岐した多くの枝のうちの一本の細枝に過ぎない。
●ボノボのセックス(92頁)
ボノボが人間の考えうるすべての体位、いや、ときには想像しがたい体位(足でぶら下がりながら、上下逆さまという格好)でさえセックスするのを私は見てきた。ボノボのセックスで際立っているのは、それがひどく無造作に行われる点、そして社会生活とじつにうまく融合している点だ。
ボノボを観察すればするほど、彼らのセックスとは、メールをチェックする、鼻をかむ、挨拶をするといった行為と同じように思えてくる。
●和解行動(127頁)
1970年代なかば、私はチンパンジーが喧嘩のあとで、キスをしたり相手を抱きしめたりして仲直りすることを発見した。現在では和解行動は多くの霊長類で実証されている
●例外論者(133頁)
人間は特別だという例外論者は、社会科学や人文科学では依然として健在だ。彼らは人間を他の動物と比較するのに非常に抵抗があるので、「他の」という言葉さえ嫌がる。
●赤面(197頁)
ダーウィンがすでに指摘しているように、唯一人間に独特の表情は赤面だ。他の類人猿が一瞬にして顔を赤らめるという例を、私は一つとして知らない。
●意思決定(218頁)
認知科学によれば、理屈づけはたいてい事後の行為だそうだ。
☆関連図書(既読)
「ダーウィン先生地球航海記(1)」チャールズ・ダーウィン著・荒俣宏訳、平凡社、1995.06.23
「ダーウィン先生地球航海記(2)」チャールズ・ダーウィン著・荒俣宏訳、平凡社、1995.10.02
「ダーウィン先生地球航海記(3)」チャールズ・ダーウィン著・荒俣宏訳、平凡社、1995.11.20
「ダーウィン先生地球航海記(4)」チャールズ・ダーウィン著・荒俣宏訳、平凡社、1996.01.20
「ダーウィン先生地球航海記(5)」チャールズ・ダーウィン著・荒俣宏訳、平凡社、1996.02.23
「ダーウィン」八杉��一編、平凡社、1977.01.14
「種の起原」チャールズ・ダーウィン著・堀伸夫・堀大才訳、朝倉書店、2009.05.10
「ダーウィンの思想」内井惣七著、岩波新書、2009.08.20
「ダーウィン『種の起源』」長谷川眞理子著、NHK出版、2015.08.01
「生物進化を考える」木村資生著、岩波新書、1988.04.20
「ダーウィン論」今西錦司著、中公新書、1977.09.25
「主体性の進化論」今西錦司著、中公新書、1980.07.25
「さよならダーウィニズム」池田清彦著、講談社選書メチエ、1997.12.10
「38億年生物進化の旅」池田清彦著、新潮社、2010.02.25
「「進化論」を書き換える」池田清彦著、新潮社、2011.03.25
「失われた化石記録」J.ウィリアム・ショップ著・阿部勝巳訳、講談社現代新書、1998.03.20
「NHKスペシャル 生命大躍進」生命大躍進制作班著、NHK出版、2015.07.10
「道徳の系譜」ニーチェ著・木場深定訳、岩波文庫、1940.09.10
(未読)
「アフリカ創世記」R.アードレイ著・徳田喜三郎訳、筑摩書房、1973.11.15
「森の民」コリン・ターンブル著・藤川玄人訳、筑摩叢書、1976.09.20
(2015年10月28日・記)
(「BOOK」データベースより)amazon
ボノボやチンパンジーなどの霊長類を長年研究してきた著者が、豊富な図版とともに動物たちの驚きのエピソードを紹介しながら、“進化理論”と“動物と人間の連続性”を軸に展開するバランスの取れた議論で道徳性の起源に切り込む。長年積み重ねた膨大なフィールドワークや実験と、広汎な知見をもとに到達した、奇才ドゥ・ヴァールの集大成的論考。
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人間に一番近いといわれる動物「ボノボ」や「チンパンジー」をはじめ、様々な生物の生き続ける知恵(生態)としての集団行動は、人間における道徳性とどのような違いがあるのか?共通項は何か?あらゆる事例を紹介することにより、人間の道徳性の本質を解明しようとする大著。
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2016.10.9
あかん…
おもしろいけど難しい。
どうも洋書の翻訳は、頭がついていかない。
自分の読解力の無さが露見した一冊。
しばらく手元に置いておいて、いつか再読してわかるようになっていたい。
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p39 私たちが例外なく親切だったなら、道徳性など無用の長物になる→道徳性という言葉自体に人間の持つ悪意や攻撃性が現れている?
p45 プライスは利他主義は負の側面を伴うことなしには現れえなかったかもしれないと考えて絶望した(例えば、外集団に対する拷問やレイプをする様にならない限り、ない集団に対する忠誠も進化しない)
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第1章 快楽の園に生きる
第2章 思いやりについて
第3章 系統樹におけるボノボ
第4章 神は死んだのか、それとも昏睡状態にあるだけなのか?
第5章 善きサルの寓話
第6章 十戒、黄金律、最大幸福原理の限界
第7章 神に取ってかわるもの
第8章 ボトムアップの道徳性
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文章は読みやすく書かれている。美術や功利主義、宗教の視点から類人猿の心を捉えるという視点もおもしろい。
エクセレントな箇所はいくつもあるが、例えば
「規律正しい社会を目にした時には、その裏には社会的序列がある場合が多いと思っていい。…突き詰めると、この序列は、暴力に根ざしている。社会的序列は強力な抑制システムであり、それが、やはりそのようなシステムである人間の道徳性への道をつけたのことには疑問の余地はない。衝動の抑制がカギなのだ。」
と、まるで優れた哲学書のよう。ホッブスを使って類人猿の行動を説明するなんて素敵すぎないか。
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p66
エモリー大学の同僚のジェイムズ・リリングは、神経画像実験に基づいて、私たちには「協力をしたがる情動的傾向があり、そうとう努力して認知的制御を行わないかぎりそれを克服できない」と結論した。…
リリングはさらに、正常な人が他者を助けると、報酬と結びついている脳の領域が活性化することも証明した。善いことをするのは気持ち良いのだ。
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私は幼い頃から饒舌で隠し事が少ない方だと思う。神秘のヴェールに包まれているのは股間くらいである。それでも時折「隠そうとする心理」が働くことがある。大体の場合、「ちょっと恥ずかしいこと」である。往々にして「もう少し時間が経ったら書こう」との結論になる。
https://sessendo.hatenablog.jp/entry/2022/12/17/150835