投稿元:
レビューを見る
子供(小学校高学年から中学生)向けの図鑑シリーズ、「のぞいてみよう ウイルス・細菌・真菌図鑑」の最終巻です。ウイルス、細菌ときて、次は真菌です。
「真菌ってなぁに・・・?」と思ったあなた、平たく言えば、タイトル通り、キノコやカビの仲間です。水虫を起こすのも真菌ですね。「カビに水虫・・・? 何か、じめじめした感じで気持ち悪いなぁ、汚そう・・・」。いえいえ、カビは悪さもしますが、ヒトに役立つ真菌もいます。味噌や醤油、パンやビールなどの発酵食品は真菌の力で作られます(*「もやしもん」に出てくるオリゼー(Aspergillus oryzae)やセレビシエ(酵母:Saccharomyces cerevisiae)も真菌の仲間です)。
もっとも真菌はただ自分の都合のよいように生きているわけで、「ヒトを困らせてやろう!」とも、逆に「ヒトの役に立ちたい!」とも思ってはいないと思いますが。
さて、そんな真菌の世界、ちょっと覗いてみましょうか。
真菌は細胞核に核膜がある、「真核生物」の仲間です(2巻の細菌は核膜がない「原核生物」です)。植物と同じ仲間とされていたこともありますが、葉緑体がなく、光合成をしないため、分けて考えられるようになりました。一般には、植物や昆虫との関係が深いようで、寄生して病気を起こす例が多くあります。昆虫を宿主とするものは生物農薬としての利用についても研究されています。ヒトや動物に寄生するのは、むしろ、一部のもののようですね。
本書の見開きでは、真菌のはたらきのよい面、困った面を紹介しています。コウジカビは味噌や酒を作る働きをしますが、一方でアレルギー性疾患を引き起こしたり、植物の病気を引き起こしたりします。1つの菌がヒトにとって「善」であったり「悪」であったり両面性を持つことがわかり、このページ、導入としてなかなかおもしろいです。
さて、カビから生まれた薬をご存じですか? はい、抗生物質です。フレミングが1928年、アオカビからペニシリンを見つけたのが最初の抗生物質です。元はと言えば、真菌が細菌を殺すために作っていたものだったのですね。それを人間が拝借していることになります。最初は夢の薬とも思われたのですが、多用した結果、耐性菌が生まれ、それに効く抗生物質を見つけ、またその耐性菌が生まれ、というイタチごっこに陥ってしまいました。
カビからはリゾチームやアミラーゼなどの酵素も見つけられています。
真菌はさまざまな形を取ります。分類に関しては大きく見直しされている最中ですが、今のところ、子のう菌類(アスペルギルス、一部の酵母など)、接合菌類(ムコール菌など)、不完全菌類(白癬菌など)、担子菌類(キノコ類)に分けられています。今後、遺伝学的な研究から分類の見直しがされる可能性があります。
真菌の増え方は複雑です。無性生殖と有性生殖をするものもありますし、どちらかしかしないものもあります。無性生殖とは、菌糸を伸ばしたり、出芽したりするもので、新たな細胞や体には前のものとまったく同じ遺伝子が含まれます。有性生殖の際には、胞子が作られたり、接合が起こったりします。この場合には、2つの体や細胞の間で、遺伝子の組換えが起こり、前のものとは違う遺伝子を持つことになります。
本書では、真菌に加えて、原虫も解説されています。ゾウリムシやアメーバの類で、ヒトに寄生して病原性を持つものもあります。
放線菌(Actinomycetes)は細菌ですが、真菌に見た目が似ているため、この巻で紹介されています。放線菌は抗生物質を多く生むことも知られており、なかなか興味深いです。これからの注目株の1つといってよいかもしれません。
さて、小さな生きものたちを見ていくシリーズもこれで完結。
ウイルス・細菌・真菌は、病気を起こすなど、ヒトにとって困った面もありますが、一方で、生活の役に立ったり、生物のしくみについて教えてくれたりもします。
そんなさまざまな微生物の姿を親しみやすく、しかしディープに教えてくれる、おもしろいシリーズだと思います。