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冷静沈着な解説がいい。
それにもかかわらず・・・・、二酸化炭素排出量をなんとかしなければ、たいへんなことになる・・・ようなことがひしひしと伝わる。
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著者の鬼頭昭雄氏(1953年~)は、京大大学院理学研究科卒の地球物理学者で、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」評価報告書の執筆者を務めており、本書は、その評価報告書の内容を中心に最新の情報・取り組みについて記したもの。
IPCCの評価報告書は、地球温暖化に関する概ね世界標準の見解とは言えようが、この問題については、一方で、温暖化が進んでいるということ自体への懐疑論や、温暖化の原因は人為的なものではないという懐疑論があるのも事実であり、著者の立場を認識して読む必要はある。
著者の主張は概ね以下である。
◆地球の「気候システム」を駆動する力は太陽エネルギーで、地球が太陽から受け取るエネルギーの収支が、地球全体の温度を決める。現在のエネルギーの収支から算出される地球の気温はマイナス18℃であるが、温室効果ガスの存在のために平均地上気温は15℃程度になっている。
◆地球の長期的気候変動は、主に自転軸の公転軸に対する傾きの変化が要因で、最近は約10万年周期で氷期と間氷期が繰り返されている。直近の氷期は約1万年前に終了し、現在は間氷期である。千年単位の過去の世界の気温は、19世紀までは全地域で寒冷化しながら、20世紀には南極以外の全地域で温暖化へ転換しており、世界の平均気温の上昇率は直近100年あたり0.69℃である。それは温室効果ガス濃度の増大が要因であることを示唆している。
◆異常気象とは30年間に一回以下の頻度で発生する現象であり、その発生には、エルニーニョ現象、ブロッキング(通常西から東へ移動する偏西風の蛇行が長期間固定される状況)等が関わっているが、最近のその頻度の高まりは気候そのものが変わってきていることを示している。
◆世界中の気候モデルで近年一斉実施したシナリオ予測によると、21世紀末には0.3~4.8℃気温が上昇し、その結果、熱帯の拡大、降水量の差の拡大、雪氷圏の縮小、海洋の酸性化、海面水位の上昇などが予想されている。気候モデルによる計算では、長期的な間氷期から氷期への移行が、現在進む温暖化を相殺することはない。
◆こうした長期的な気候変動は、水循環の変化、自然生態系の変化、農作物や人間の健康への悪影響、更には不平等・貧困の拡大、暴力的紛争の発生を引き起こす。緩和策として、温室効果ガス排出の抑制、省エネや再生可能エネルギーの導入、森林などの二酸化炭素の吸収源対策など、適応策として、渇水対策、治水対策、熱中症予防、生態系の保存などがあるが、様々な対策を組み合わせて実施することが不可欠である。また、成層圏へエアゾールを注入し地球を冷却する太陽放射管理や、プランクトンの栄養源となる鉄を海洋へ散布し二酸化炭素吸収を増やす二酸化炭素除去のような、気候工学が議論されているが、副作用を含めて現実的ではない。
◆2100年時点で世界の気温上昇を2℃に抑えるためには、2050年に温室効果ガス排出を2010年比40~70%削減した上で、2100年には排出量をゼロにする必要があるが、現実的には困難。それ以上の気温上昇を想定して、対応策を考えておく必要がある。
本書出版後、2015年にCOP21で採択され、2016年11月に発効したパリ協定から、トランプ米大統領が脱退��ると発表したことが世界を揺るがせている。
近年、地球の気候が安定相から相転移する前触れともいえる現象が頻発していることは事実であり、それが人類の将来に大きな影響を与えることもまた間違いはない。こうした事実について考える材料となる一冊である。
(2015年4月了)
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異常気象とは何か、気候とはどういうメカニズムで成り立っているのか、これからの地球の気候は、はたまた日本の気候はどのように予測されているのかなどなど、とにかくひたすら気象と気候の話が語られている。ちょっと専門的な用語表現や細かい数値による説明が多いので、スーッと読めるという感じではないが、気象に関して非常に多角的に取り上げているので、興味のある人にとっては有用だろう。筆者は、IPCCの第1次作業部会、第2次~第5次評価報告書の執筆者でもある理学博士。
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今後のこと、対策についてなど、ことばを選んで慎重に書かれているような印象を持つ。5年前に執筆されているが、その後の変化、特に今年のコロナ禍でどのような影響が出ているのか(おそらく良い方向での)などの評価を知りたい。本書の中で新たに知り得た事実。気象予測をするにあたっての格子間隔の取り方。100kmにするのか5kmにするのか、それによって精度はまったく違ってくるし、計算にかかる時間も違ってくる。用途によってその距離を決めていく。スーパーコンピュータだからこそできるのだろう。陸上の氷床が融けてなくなったときの影響。海水の量が増えることで海面が上がるだけと思っていたが、陸全体の重さが減ることで、マントルの上で浮かび上がる。海面が上がるが、陸が隆起するため、その影響は相殺されるのか? よく分かっていないが、まあいろいろな要因がありうるということ。そして、何よりも、本書の主だった内容とは関係ないが、冬日、真冬日ということばについて。恥ずかしながら、過去に聞いた覚えもないし、まったく意識にのぼっていなかった。夏日があって冬日がないはずがないのに。冬日とは最低気温が0℃未満となる日。また、真冬日とは最高気温が0℃未満となる日のこと。北海道ならいざ知らず、関西では、真冬日はおろか、冬日さえ1日もない年が続くのではないか。そういえば、10年ほど前なら、朝、道端に氷が張っていることもあったかもしれない。最近はそういう光景を見なくなった。猛暑日、真夏日なども含めて、基準を見直す必要があるのかもしれない。
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もう気候変動は避けられないので適応するしかない。いかに気候変動の振れ幅を小さくするかが問題だという段階まで来てしまっているのを認識させられた。
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IPCCの報告書の作成に関わった著者が書いた気候変動の解説書。気候変動の原因を様々に考察し、やはり二酸化炭素の増加が原因だとする。二酸化炭素の排出量と平均気温が見事に相関しているデータを見ると、納得である。また、大気中の二酸化炭素の量が多い限り、次の氷期は数万年後になるという。本気で二酸化炭素の排出量を減らすしかない。
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令和5年の北半球の夏は異常な程の猛暑だった。そんな夏を振り返り、今の自分が後世にできることはないかなと思い、手にしたのがこの本。異常気象や地球温暖化の原因やそのメカニズムを丁寧に説明されていた。ただ、文字ばかりが多いので、多少眠気が襲う。それはさておき、そうした基礎知識を踏まえた上で、今後どのような対策をとって行くべきかもほんのちょっとだが、載っていた。内容は難しいけど、かなり勉強になる本だと感じた。
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気候システムを駆動する力は太陽エネルギーです。地球の内部から地表面へ出てくる熱エネルギー(地熱)もありますが、その量は地球たいきの上端に到達する太陽エネルギーの四〇〇〇〇の一に過ぎず、また人間活動が出すエネルギーはそのさらに半分程度(太陽エネルギーの一万分の一)であり、本書の議論の範囲では無視できる大きさです。
温室効果ガスは、赤外線を吸収しやすいが、可視光線は吸収しにくいという性質があります。太陽によって暖められた陸や海などの地表面からは赤外線が放射されますが、その多くが、これら温室効果ガスで吸収されます。すると大気が暖まり、そこから赤外線が放射されます。大気からは上下左右の全方向に赤外線が放射されますから、ほぼ半分は地表へ向けて放射されることになります。このため、太陽から直接受け取るエネルギー(反射される残り)よりも多くのエネルギーを地球表面は受け取ることになり、温室効果ガスがない場合よりも地球表面は温度が上がります。これが温室効果です。
氷河時代と氷河時代の間には、大気中の二酸化炭素濃度が現在の一〇倍にもなっていた時代もありました。その温室効果のため、世界平均気温が現在より数℃以上温暖な時代は、地球の歴史上は珍しいことではありません。しかし、世界平均地上気温でプラス数℃といった温暖な気候は、人類は経験していません。今後の二酸化炭素の排出シナリオによりますが、このような温暖化が今世紀中というきわめて短期間に急激に起こる可能性があると予測されているのです。
最近まとめられた過去1000〜2000年間の地域ごとの平均気温には、次の三つの大きな特徴があります。
(1)一九世紀に至るまで一貫して、すべての地域で長期的な寒冷化が認められる。
(2)二〇世紀になると、南極を除くすべての地域で温暖化に転じている。
(3)一九世紀以前の数十年から数百年周期の気温変動のパターンは、大規模な火山噴火や太陽活動極小期に当たる一部の寒冷期を除いて、地域間、特に南北両半球間では必ずしも一致しない。これは、小氷期や中世気候異常期でも同じ。
(1)は、太陽活動や地球軌道要素などの変化、すなわち地球が受け取る太陽エネルギーの長期変化を反映したものと考えられます。
(3)は、一九世紀以前の太陽エネルギーの変動が、数十年から数百年という時間スケールでは、必ずしも地球全体で一様な気温の変動、特に温暖化を引き起こしてきたわけではないことを意味しています。
これらのことから、(2)の二〇世紀の地球全体の温暖化は、主に大気中の温室効果ガス濃の増大によって生じたことが示唆されます。
いつ現在の間氷期から氷期に移行するかは、軌道要素だけではなく、大気中の二酸化炭素濃度にも関係します。古気候記録によると、軌道配置が現在に近いときには、大気中の二酸化炭素濃度が工業化以前の水準よりもかなり低い場合にのみ氷期が起こっていました。気候モデルの計算から、二酸化炭素濃度が三〇〇ppmを超えたまま持続される場合には、今後五万年間に氷期は生じないでしょう。二二世紀に想定されている���酸化炭素排出シナリオについては第4章で述べますが、そのうち低位安定化シナリオの下でも、西暦三〇〇〇年まで大気中の二酸化炭素濃度が三〇〇Ppmを超えていることは確かであり、軌道要素の変化によって今後一〇〇〇年間に氷期が来ないことはほぼ確実です。
■温暖化の原因特定
IPCC第五次評価報告書は、「気候に対する人為的影響は、大気と海洋の温暖化、世界の水循環の変化、雪氷の減少、世界平均海面水位の上昇、およびいくつかの気候の極端現象の変化において検出されて」おり、「人間による影響が二〇世紀半ば以降に観測された温暖化の支配的な原因であった可能性が極めて高い」と結論しました。
IPCCの用語では、「可能性が極めて高い」とは、発生確率が九五%以上のことを指します。第四次評価報告書では「可能性が非常に高い(発生確率が九〇%以上)」としていましたので、この間の科学の進展により、より確からしくなったと言えます。
■異常気象は増えるか
異常気象は気候のゆらぎという普遍的なことなので、温暖化した世界でも起こることは確実です。極端な現象の種類、出現頻度、強度は変化するでしょう。特に、将来の温暖化した気候では、熱波がより厳しく、より頻繁に、より持続期間の長いものとなる危険性が増大します。また、降水は集中してより激しくなるとともに、その間のほとんど降水のない期間が長くなる傾向があります。このため、長びく比較的乾燥した期間の合間に激しい豪雨が散在することになるでしょう。気温が上がるため陸上では蒸発が増え、地面はより乾燥する傾向になります。土壌が乾くとさらに気温が上がるため、二〇〇三年のヨーロッパの熱波のような異常気象がより頻繁に起こる可能性がでてきます。現在の異常気象の程度と比べて、強度が強くなると考えて、対策を立てる必要があります。
■懸念されるリスク(IPCC)
・脅威にさらされている独特な生態系や文化
地球上には、存続の危機にさらされている希少な生態系や独特の文化などがあり、すでに気候変動によるリスクに直面しているものもあります。深刻なリスクに直面する生態系や文化の数は、世界平均一℃の気温上昇でも増加します。サンゴ礁など適応能力が限られている生態系は、世界平均二℃の気温上昇で非常に高いリスクにさらされます。北極の海氷も、そのようなリスクにさらされています。
・極端な気象現象
熱波、極端な降水、沿岸洪水のような極端現象による気候変動に関連するリスクは、すでに中程度のリスクとなっています。さらに一℃の気温上昇で高いリスクとなるでしょう。極端な暑熱などの極端現象に伴うリスクは、気温が上昇するにつれてさらに高くなります。
・不利な条件下の人々
リスクは均一に分布しているわけではなく、どのような発展段階の国であれ、一般的に不利な条件におかれた人々やコミュニティほど多くのリスクを抱えています。特に作物生産への気候変動の影響は地域によって異なり、一部ではすでに中程度のリスクが存在しています。地域的な作物収量や水の利用可能性が減少すると予測されており、不利な条件下の人々へのリスクは二℃以上の気温上昇によりさらに大きく増大します。
・世界全体への影響
地球の生物多様性および世界経済全体への影響についてみると、現在から一~二での気温上昇によるリスクは中程度です。三℃またはそれ以上の気温上昇では、生態系由来の商品・サービスの損失を伴う広範囲に及ぶ生物多様性の損失が起こり、リスクが高くなるでしょう。
・大規模な特異事象
温暖化の進行に伴い、いくつかの物理システムあるいは生態系が急激かつ不可逆的な変化のリスクにさらされる可能性があります(第6章参照)。
暖水サンゴ礁や北極生態系は、どちらもすでに不可逆な変化が起こりつつあるという観測があり、現在から一℃未満の気温上昇では、そのようなティッピングポイントに関連したリスクは中程度になっています。
気温上昇が一~二℃になるとリスクは増加し(その程度は現象によりまちまち)、三℃を超えると、大規模かつ不可逆的な氷床消失により海面水位が上昇する可能性があるため、高いリスクとなります。
■緩和策と適応策
気候変動の緩和策とは、温室効果ガス排出を抑制することや削減するための対策です。省エネルギーや再生可能エネルギーの導入、森林などの二酸化炭素の吸収源対策、二酸化炭素の回収・貯留など、温暖化の原因となる強制力を減らし、温暖化を緩和しようとするものです。
また適応策とは、社会のシステムを再構築することを通して、気候変動から受ける影響を軽減しようとすることです。渇水対策、治水対策、熱中症予防、感染症対策、農作物の高温対策、生態系の保全など、さまざまな影響に対する対策があります。