紙の本
仏道を歩む人は
2017/01/13 23:44
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投稿者:四郎丸 - この投稿者のレビュー一覧を見る
瞬時に幸福になる、という副題はまさに本書(お経)のテーマです。それだけではなく、当時のインドにおける、ブッダのライバルたちの思想の解説とその批判が白眉です。
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聞きなれないタイトル。仏教の経典の名前です。
仏教はインド地方から東アジアへと伝わっていきましたが、インドの仏教はイスラム教によって滅び、現在ではほぼ信者はいません。
インドで残ったのはジャイナ教ですが、この宗教についてほとんど知りませんでした。
ジャイナ教では徹底して殺生はしないそうですが、呼吸して空気中の微生物が死ぬのも殺生にあたるとされ、ジャイナ教徒は口と鼻を小さな布で被って、息をするときに生命が身体に入らないよう守るのだそうです。
また、ジャイナ教の出家者は水を飲まないのだとか。
水には生命がいるので、飲んでしまったら全部殺すことになるからだそうです。
かなり日々の生活をしにくそうに思います。
この経典に登場するのは、マガダ国のアジャータサット王。
ブッダの友であった父親を殺して王位を奪った王で、のちに罪の意識にさいなまれて仏教の世界に興味を持ち、この聖典が生まれたそうです。
つまり王の懺悔の経典ということになります。
すべてをほしがり、手に入れた王が頂点を極めた後は、むなしさばかりが残ったのでしょうか。
生きるために必要なものは、突き詰めれば衣・食・住・薬という四つのものになるというシンプルな教えを残しています。
夢、希望、欲望というのは、心にたくさん入り込みすぎると、トラブルを起こしてしまうとも。
どれほど地位や名誉、モノに囲まれても生きる苦しみからは逃れられなかった王。
生きる上で大切なものはほかにあることに気づいたのでしょう。
はじめは、なじみのなさからとっつきにくく思いましたが、この聖典が生まれた背景を知り、内容にこめられた王の意思を知ると、人間の業の深さと、罪を犯した人の心も幅広く救う聖典の力を感じました。
追記ですが、キリスト教では、人が天国に行くか行かないかがわかるのは、死んだ時ではなく、人類滅亡のハルマゲドンの時なのだそう。
ずいぶん後の話です。
それまでは霊魂はどうしているのか、気になりました。