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登場人物の誰かが、というならよくある話だが、最初から全員の記憶が曖昧という設定はすごい。なぜ蝋燭を取り上げられるような制裁を受けるのか、息子はどこにいるのか、わからないまま旅が始まる。そして、物語後半まで記憶喪失の理由はわからないし、わかっても記憶が全てすっきりと戻ってくる訳ではない。
この物語の中の霧に、自分も包まれた気分でモヤモヤ、イライラしながら読み、カズオ・イシグロの小説だから、いつかは報われる(読書のイライラが)と信じて進む。
そして、最後まで読んで、見事報われた。
さすがイシグロ。夫婦間の愛とはなんだろうか。人間が殺し合ってきた歴史は何によって続いてきたのか。
ファンタジーの設定を使ってはいるが、それは道具に過ぎず、描いているのは人間の業。
読み終わった後、自分に問が生まれ続ける小説。読んだ人が全て、こんな気持ちになるなら、イシグロの小説の力はやはり並大抵ではないと思う。
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ケルト人の島だったローマ時代後、侵入したサクソン人の勢力が増していき、ブリトン人=ケルト人の地を守るために立ち上がったアーサー王伝説の数年後がこの物語の設定時期になっている。
国は深い霧に覆わて、人々の記憶は霧とともに失われている。老夫婦は自分たちに子供がいて、2、3日の旅で息子に逢え、息子も自分たちが逢いに来てくれることを望んでいると旅に出る。
旅の途中、夫婦は自分たちが霧に包まれ記憶があやふやになる原因が分かり、アーサー王の遺志を継ぎ竜を守るガウエイン、竜を倒そうとするサクソン人ウイスタンのつばぜり合いは、人種、宗教の壁を表現しつつ、ファンタジー調に進みながら、人間の本質を描き出している。
老子の混沌の話を思い出した。
霧をはらすことが、いいことなのか、悪いことなのか、誰もが霧のように覆った真実を持っていて、霧がなくなると悲しいばかりの現実しか残らない。
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大作…なんとか読みきりました。苦手なロード系?(映画だとロードムービーというが、小説の場合はなんというんだろう?)でしたが、ファンタジー要素もあり、この方の作品はあまり読んではいませんが、ちょっと意外でした。でも引き込まれた。表現とか会話のやりとりとか。原文だったらもっと良さが伝わるんだろうな。
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最後に舟のくだりをまた持ってくるところが秀悦だと思う。わたしを離さないでもそうだったけれど、心にもやもやを残す点でカズオイシグロはすごい作家なのだろう。
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こういうレビューって、基本的な情報を提供するのがいいのか、個人的な思い入れを書き込めばいいのか、難しいところがある。
まあ、イシグロほどの作家であれば、作品の評価そのものにはあまり意味がない。傑作以外ありえない。
そうした場合、その作品世界への読み手の内省の仕方こそが問われなければならないはずで、そういう作品をわれわれは「古典」と呼ぶのだろう。
今作も、新作にしてすでにクラシック。
「buried giants」
自分の心の奥底に眠る決着のつかない記憶が呼び覚まされる時…
現実とファンタジーの区別など無意味だ。
何が起きてもおかしくない。
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忘却の霧が晴れたとき、良い思い出とともに悪い思い出もよみがえる。
長年愛し合ってた夫婦の絆が壊れるかもしれない。
昨日までの隣人が、敵に変わるかもしれない。
人の記憶が年月とともに薄れていくのは、幸せな思い出だけを胸に旅立てるように、という神さまの配慮なのでしょうか。忘れることは、許すこと。けれども、それは誰かに強制されてできるものではないのだと思います。たとえその記憶が人を縛り、不幸にするものだとしても、人はやはり向かい合っていかなければならないのでしょうね。
島へと旅立つとき、船頭の「一番大切に思っている記憶は何か」という問いに、自分だったら何と答えるかな…いろいろなことを考えさせられる良い本でした。
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勇者がドラゴンを退治します。老騎士が出てきます。その他の登場人物やストーリーの展開も、どこぞのRPGにありそうで、これをカズオ・イシグロが書いたのかと、評判そのままの感想がつい出てしまうような感じです。まあしかし、過去の過ちや挫折の記憶とどう向き合いながら生きていくか、というテーマは、彼が繰り返し書いてきたもので、それが随分、わかりやすくというか、直接的な形で描かれています。全体に何だか生硬な感じがするのですが、この物語の世界のその後、あるいはそれぞれの登場人物のその後を想像すると(一見中途半端にみえる終わり方は読者にそう仕向けているのだと思います)、かなりいろいろなことを考えさせられます。特に集団と集団、集団と個人、個人と個人の間の共存、それらに過去の記憶が果たす役割とか。
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「健忘の霧」が世界を覆ったら、不幸な対立は収まるのかもしれません。忘れるべきこともあるんじゃないの? と問われている読後感。
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初カズオイシグロ。
物語の中に立ち込める霧。
その中に迷い込んでしまうような空気感。
アーサー王伝説の少しだけ後の世界。
対立していた二つの民族は共存しているが、この世界には霧に覆われた過去が存在する。
ラストシーンは心臓をギュっと掴まれるような切なさ。
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齢50のわたしをして、生まれる20年も前の事をあたかも昨日のことの様に糾弾する隣国。その怒りが収まらないなら、同様に中東に平和が訪れる筈もない。何しろそこでは今も血は流れているのだから。歴史から学ぶことも多くあるのは事実であるとともに、忘れずとも過去の悲劇を感情を抑え巨視的に見る姿勢を考えてみたいと思います。作品はファンタジーというより寓話といったところ。
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いつものカズオイシグロに比べると、せかいかんやストーリーテリングが多く、文章や情景描写の美しさに没頭するようなところは少なかった気がする。
だが、この寓話によって気づかされる我々の世界の残酷さ、どうにもならなさには愕然とする。そして、最後のシーンの圧倒的な美しさはカズオイシグロ随一と思った。それからは、そのシーンの切なさがずっと心に引っかかってしまっている。
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うーん
難しくてよくわからなかった
けど、アーサー王というヨーロッパで伝説の英雄になっている人が出てきた。この人が、英国(ブリテン人→ブリテン→ブリティッシュ→英国)の基礎なのか?
ケルト人?
うーむ。基礎知識を教えてもらいたいですが、
同じような民族にわけのわからない敵がいると信じている。教育が行きとどいてないということは、こういうことが起きるのかなあという現代の闇も書いてあるような気がした。
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カズオ・イシグロ、『わたしを離さないで』以来、実に10年ぶりの長編小説である。
舞台は伝説のアーサー王時代のブリテン島。6~7世紀で、ローマ人やサクソン人との争いも遠い日のことではなく、竜や悪鬼、小妖精も出没する。
世界は霧に覆われている。不穏な霧は視界を遮るばかりではなく、どうやら人々の記憶を奪う力も持つらしい。
年老いた夫婦、アクセルとベアトリスは、沼のほとりの小さな村に住む。愛し合い、支え合う夫婦だが、ほかの村人たちとは必ずしもしっくりとはいっていないようだ。なぜそんなことになったのか、「霧」のせいで誰もよく覚えてはいない。あるとき、2人は長年の懸案であった旅に出ることにする。夫婦にはどうやら息子がいたようなのだ。確か、少し離れた村にいたはずだ。息子を訪ね、出来るならばともに住もう。
かくして、靄に霞む世界の中、覚束ない足取りの2人の旅が始まる。
旅の途中で、体に不安を抱えるベアトリスのため、2人は薬師や修道士の元を訪ねる。
道中、2人はさまざまな人に会う。小島に渡る人々を運ぶ義務を持つ船頭。竜を退治する使命を帯びた老騎士。サクソン人の逞しい戦士。悪鬼に掠われ、何とか救い出された少年。怪しげな儀式を執り行う僧たち。
旅を続けるうち、「霧」の正体や、息子の居場所、2人の過去、多くのことが徐々に明らかになっていく。
老夫婦が最後にたどり着く場所はどこか。
茫漠とした印象を与えつつ、非常に注意深く構築された物語の骨格を感じる。
忘れられた巨人(The Buried Giant)とは何者か。
巨人が掘り起こされ、目を覚ますとき、世界は、人々は、何に直面することになるのか。
人は何を絆とし、何のために闘うのか。
過去の出来事が薄れていくとしたら、最後に残るものは何か。
憎しみや怒りを乗り越えて、なお残る愛はあるのか。
争い。宗教。民族。誇り。絆。
白い霧の中に、多くの難問が黒くごつごつと横たわる。
霧が晴れたとき、どのような世界が見えるか。
その答えは読者に委ねられる。
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カズオイシグロの最新作です。
たしか春頃に来日もしてて10年ぶりくらいに新作が出たことは知っていたんですけど、なんとなくもったいなくて・・・自分の中で焦らしてました(笑)
それくらい期待していたのですが。。。正直今回は期待外れでした。
メッセージ性はありますし、しんみりとした余韻もあってそのあたりは著者ならではな感じでよかったのだけど、老夫婦の歩調に自分がついていけないというか、霧が濃すぎて呑まれてしまったというか。
「記憶」が人に与える影響っていいことも悪いこともあるよねって話。
忘却の中で静かに暮らすことと、辛い過去とわかっていながらそれを取り戻して真実を探すこと。どっちが幸せなのかな。
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初のカズオイシグロ作品。
巨人の話かと思ったけれど、巨人は出て来なかったです。忘れられたのかな?(笑)
人の記憶の形は色々ある。
忘れてしまいたい出来事がある。
忘れたくない記憶がある。
しんみりできるお話でしたが、展開が読めてしまってちょっとがっかりでした。