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いくつかのやおい論は読んだことがあります。しかし、どれも釈然としなかった。そこに論じられていることは、確かにただしいかもしれないが、私の実感からは遠く、もう一歩踏み込んで欲しいと思うことばかりであった。その点この本は、やおい論に一石を投じ、新たな理論を切り開いている感がある。特にジェンダー規範、家父長制と結びつけた議論ら、常々わたしが感じていることを明快にしてくれた。
BL進化論というだけあって、昨今の進化したBLの価値概念に非常に肯定的な議論が多い。特に、著者自身が同性愛者であるからか、同性愛の取り扱いそのものに関するセンシティブさが見て取れる。
しかし、わたしはこの本を読みながら、本当は、BLとはそういう家父長制やミソジニーから解放されたオアシスではないということに、思い至ってしまった。BLとは、女性が男性を性的に搾取するための最も有力な手段である。男性を性的に搾取するためには、世の男性がやるように、自分と同性が対象を搾取すれば最も効率的かつ合理的なのに、女性はそれをしない。BLでは、男性の性的搾取を、男性に任せている。それはなぜか。自分たちでは男性を搾取できないという劣等感、自己蔑視に苛まれているからである。ここにはとてつもないミソジニーの影があり、わたしは、BLとはミソジニーの解放とはむしろ逆で、ミソジニーにがんじがらめになった存在なのではないかと考える。ミソジニーにがんじがらめになった女たちの反射区として発展してきたのではないか?自己蔑視そのものなのではないか?
とまあ、こんなことを考えながら読んでいた。男女の非対称性については、あまりにも考えなければならないことが多い。
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図書館より。
ようやく読了。長かった...。
深い!90年代辺りの考察とか、リアル世代だから分かるし面白いんだけど、何でか読みにくかったんだよな~。
まぁ、まとまった時間もとれず、途切れとぎれで読んだ自分も悪いんだと思うが。
納得の部分も多々あり、BLにはまったことのある人には読んで損なし!と伝えたい1冊。
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私自身は、小説や漫画を読んでも掛け算は起きないが、BLも読む位のレベル。
ずーっと疑問に思っていた「なぜ男同士じゃないといけないのか」ということの一つの答えがここにあるように思う。
性的ファンタジーとしてのBL。しかし、実際のゲイに対して女性は気遣いを持つという。女性らの夢物語でゲイの性を弄んでいるん じゃないかと。
それも確かになーって思いつつ、じゃあなんで男性用のポルノとかAVはあそこまで女性を卑下した上に気遣いもないんだろうか。ア レも相当気持ち悪いものなのかもしれないなーっと気づいたのが印象深い。
女性にとってのBLは(性的な意味で)まさしく想像の上でのファンタジーだけど、男性にとってのAVは、性的指向に基づいたファンタジーだと考えるとより一層気持ち悪い。いや。脳内で考える分には別に犯罪じゃないとは思うけど、コンピニなどで当たり前に視界に入りやすいという社会はちょっと怖い。
うーん。男性がセクハラを意識しないのも無理はないと思うとともに、女性性が抑圧されるわけだ。
……と、しかしながらここまで書いて、本当にそんな乱暴に断言していいのかな、と迷う。男性にとっての性的ファンタジーがフィクションなのか現実よりなのか、判断は保留にしておく。
進化系BLというのは、ほぼSFな訳で、SFってなんなのっていうと、私の中では「ある仮定のもとに今を超える物語」というイメージである。それが科学的なのが一般的なSFだけど、性的な意味合いでいうとBLもSFだなあぁと。
既存の概念の枠組みを超え、より軽やかに前に進む物語。
いつか、科学の進化により性差を超える事ができたら、文化としての性差になるのかもしれないね。それが生物として正しいあり方なのか、それは倫理の問題になるんだろうけれども。
話は変わるが、私がなぜ本を読むのかというと、自分の知らない知識を得るためでもあるが、「知らない観点」を得たいという方が大きい。
「なぜ」と思わない限り知ろうとも考えようともしないから。
そして考えることで見えてくるものもあるから。視点が増えると世界が豊かになる。
そういう意味で、いろいろなことに気づかされるきっかけになる良い本。面白かった。
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長年BLを学術研究してきた著者による本。
当初は女性たちが安全な場所で性愛の物語を楽しむだけだったのが、ゲイの目線を意識し始めたことで、女性も含めてあらゆるマイノリティに優しい物語へと進化している!という話です(雑に要約すれば)。感動的。
自分たちのつくるものが誰かを傷つけているかもしれないと自覚したときに、開き直るのではなく新しい方向性を模索していくという姿勢が素晴らしいし、面白いです。
いまある痛みを叫ぶよりも、とにかく自分自身が楽しむことによって、ちょっとずつ自分や周りの価値観を変えていくという方法は、どんな問題にも有効だと思う。
BLの何が女性にとって楽しいのか。自覚していたこともあれば、していなかったこともあって、頷いたり、へぇと呟いたりの読書でした。
ぐだぐだと書いてますが、素直な感想は三浦しをんさんのおっしゃる通り「これからもBLを愛していこうと改めて決意しました!」の一言に尽きます。
最近はBL出身の作家さんが一般誌で、進化した価値観をもった作品を描いてくれることも多くてうれしい。「家父長制度と異性愛規範にはうんざりしてるけど、性愛も別にいらないんだよなぁ」っていう人に向けて、BLからはみ出したような作品が今後増えてくれたら有難いなぁ。
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BLを好む理由について一度でも考えたことのある人はこの本を読むべき!!
BLって、ジェンダーフリーな社会のパイオニアなんじゃないかな?!って。
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アインシュタインの有名な「常識とは18歳までに身につけた偏見のことをいう」という言葉を、何度も読書中に思い出しました。
ある時代では「普通」だったものが、数世紀経ってあるいは数十年だって「普通」ではなくなることがあると知っているはずなのに、いつのまにか、昔からあるものはすべてこれからもあるはずだと思っている感覚が怖いなと思いました。
家父長制度やミソジニー、ホモフォビアに男尊女卑。
そういうものに真っ向から勝負を挑むと、「だから女は」「女のくせに」なんてことになりがちです。
そういうことではないんだけどなあ、とニュースだったりを見て思っていたところ、ふと、BLの中には、私がこうだったらいいなと思う平和的で愛に溢れた世界があるし、恋愛観がある。それはなぜだろう?どうしてBLじゃないとダメなんだろう?と思ったのが、この本に出会うきっかけでした。
どこぞのレビューで「本の紹介がわかりづらい」とありましたが、これはBLの本を紹介する本ではなくて、BLという有機体(この言い方・考え方が好きです)を分析・評論したものです。
何度も、そうだったのか!と膝を打ち、何度も、そこまで考えていなかったけど、そうかもしれない!と目からウロコを落としました。
気持ち良い、好きだ、を原動力にして、好きなキャラたちがどうすればもっと素敵な人生を送れるかと考えた(つまり愛を注いだ)結果、BLという世界が現実世界の先取りをし始めた、という説はとても納得がいくものであり、同時に鳥肌が立つくらい感動するものでした。
ただ好きで読むだけでも、きっと問題はないのだと思います。でも、一度でも、「どうして私が好きな世界はBLに多くあるのだろう?」と疑問に思ったひとは、この本で視界が開けるのを感じると思います。
余談ですが、カバーの二人が、カバーを外すと老人?カップルになっていて、涙しました。これが愛でなくてなんだというのでしょう?と思って……。
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''なぜ自分はBLが好きなのか。''
考察好きなBL愛好家たちはたぶん誰でも自分に対し問いかけるであろう、この命題。
私も折に触れ考えるので、その解を求めて手に取った。
本書の著者はレズビアンでBL愛好家。
どうやらレズビアンのBL愛好家は珍しくないらしい。BLはセクシュアリティの問題と不可分だと私も思うのだけど、やはり自分と切り離された異性同士の関係構築を愛好家たちは見たいと感じるのは共通のようだ。
著者はBLの歴史をひもときながら様々な考察をされてるんだけど、「究極のカップル神話」って概念が個人的にしっくりきた。
BL愛好家って、色んなタイプがいると思うんだけど、私自身の嗜好パターンに当てはめて考えると、BLにおいて必ずしも「セックスシーン」を必要としない人間である(むしろ邪魔と感じる場合も)。
それよりも「相手も自分と同じ男なのになぜ」とか「今は両想いだけど一緒にいるとあいつの将来が・・・」とか悩み葛藤しながら関係を探る登場人物たちが見たい。
これってセクシュアリティとかじゃなくて障害があるけどそれを乗り越えてただ一人を愛する「究極のカップル(=関係性)」が見たいんだよなあきっと。そういう意味では自分の中に「ホモフォビア」がなくはないのかも。と本書を読んで発見した。
あと「ヴァーチャル・セックス」って概念が面白かった。私はオンオフ含め他のBL愛好家たちとコミュニケーションはしてないけど、結局ネット上やSNSで関係に対する「萌え」を吐き出してはいるわけで、それってコミュニケーションに対する欲望であり、嗜好や妄想の交換(=ヴァーチャル・セックス)を求めてるってことよなあ、と。
あと、''男性キャラがBL愛好家女性にとって「他者」ではなく「自身」であることは限りなく自然化されている''(引用)にすごく納得できるものがあった(私はやはりBL愛好家なのだなあと改めて感じた)。
近年、BLがBL愛好家の枠にとどまらず普及し、市民権を得始めているのは(私自身はそう感じる)、著者が述べるようなジャンルが成熟し''進化形BL''(=現実よりもゲイ・フレンドリーな世界観や、女性性、男性性のあり方を問うようなBL作品)が数多く出てきてるからなのかもなあ。
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【公正で普遍的BL論】
質の高い文化論を読みたい人におすすめの一冊。
BLを知らない人にもわかるように書かれ、読めばBLのことが一通りわかる。作中の例示作品は商業オリジナルが主だが、二次創作もこの論を適用できる。
何より卑屈さはなく、愛情を込めてBLを語る本。
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インターネット上ではたびたび「BLはゲイ差別ではないか」という批判が起こり、その度にBL愛好家たちは「どうすればBLが差別ではなくゲイフレンドリーな社会づくりに与することができるか」を考え、応えようとしてきた。本書にも詳しく書かれている"やおい論争"は1992年のできごとだが、この論争は2000年代、そして現在になってもいたる場面で行われている。読みながら、BLについて批判的に議論を行いたい人は、まずこの本を一読してからBL愛好家たちに話をしてほしいと思ってしまった。
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私はシスジェンダー女性で異性愛者である。
商業もののBL作品も好きだし、二次創作におけるBL作品も好きだ。
だから自分の好きなものがどう生まれ、どう変化して今日の私の手元に届いたのかが知りたかった。
正直、世の中に蔓延る家父長制、ミソジニー、ホモフォビア、女性蔑視に疲れ果てている。
それらがBLの世界にはあまり出てこない。
あまり、というだけでまったく出てこないわけではないが、世に出る前に編集などの作者と作品の間に他者が介入する商業BL作品は、先述した疲れ果てる要素から距離を置いていたり、実際に出てきたとしても現実よりもよっぽど優しい。
BLじゃない、登場人物が異性愛者前提の作品だとまだそれにぶち当たることがけっこう多い。楽しむための映画や読書なんかが一転して自分の心を曇らせるものになってしまうのだ。
商業BLはその確率が低い。だからこそ安心して手に取れる。楽しめるということがある。
それらのBL作品のことを「進化系BL」と本書では呼んでいる。
そのようにBL作品が進化するために何があったのかという点が私には非常に興味深い内容だった。
実際にゲイである人たちからの目線を気にするようになったからこそ、起こった進化だと本書で書いていて、かなり感動した。
自分たちが創作したもの、楽しんでいるものが誰かを傷つけているかもしれないと自覚したときに、「何が悪いの?」と開き直るのではなく、新しい方向性を考えてそれを作品に反映していくという姿勢は素敵だと思った。
よくTwitterでは広告などに使われる表現のあれこれを巡って論争が起きることがあるが、開き直っている人というか、なぜそう言われるのか何がどう当事者を傷つけているのかを突っぱねている人も見かける。
BL創作者、愛好家の先人たちの誠実な姿勢にはあっぱれとしか言いようがない。
BLが好きという人はBLで描かれる世界が好き、という人も多いと思う。
そういう人たちにはぜひ読んでほしい本だった。
また宙出版からも『BL進化論[対話篇] ボーイズラブが生まれる場所』が2017年に出ているので、こちらも読んでみたい。
BLの何がそんなに私を虜にするのかがわかったし、BL作品だけではなくゲイ映画等の話も取り上げられておりエンターテイメントにおける同性愛の描かれ方についてとても勉強になった。
これは2015年出版で、今から8年も前だ。出版当時とまたBLは変化している。
オメガバースがなぜここまで隆盛を極めているのかについてもぜひ溝口先生に分析していただきたい。