紙の本
この本は極限の生物の話だけではない。表紙のタイトル後段の小さな字が著者の言いたかったことだ。
2024/02/24 23:15
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:大阪の北国ファン - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者の長沼先生のお名前と専門については、ビートたけし氏著作の「たけしのグレートジャーニー」に登場されるため、それを読んで知っていたが、今回初めて先生ご自身の著作を手に取った。
本書のタイトルをみると誰でもそう思うだろうが、高山とか砂漠とか北極南極とか深海などの極限状態である場所に生息する生物についてレクチャーいただくつもりで読み始めた。光合成をしない深海生物チューブワームの生態から説き起こし、最終的には「進化は、例えばキリンが高いところの食料を食べるためなど、ある目的を達成するために続いてきた営みの積み重ねではなく、途中の突然変異を挟み環境に適応できることができて生き残ってきた生物の単なる偶然の積み重ねの結果でしかない」という論に達する。これは大変わかりやすく目からウロコであった。環境に適応するために身体を作り変えるのではなく、環境に適応できた個体や種が生き残ったに過ぎないという、わかりやすい理論である。ラマルクの用不用説が否定され、それを述べたダーウインの進化論が支持されている所以である。
ところで本書はかかる生物の不思議のみならず、これらの生物の研究を通して長沼先生が身をもって体験された「生き方論」を語ってくれる面白い本だった。特に「学習」については、昨今の「個性偏重」の初等学校に先生は異を唱えられる。まず「学ぶ=真似る」「習う=慣れる」という語源が物語る如く、学ぶ段階では個性は必要ない、学ばないことは先人が苦労して体得した歴史の否定である。この段階で「自分らしさ」を持ち出し、何も知らない子供たちに「考えさせる」ようなことは「個性偏重」の名のもとに展開する壮大な時間の無駄遣いである、との論を紹介される。
膝を叩いて読んだ。まさに同感である。子供たちには退屈ではあっても、まず効率的に基礎を習得したあと、じっくり個性を引き出すようにさまざまに考えさせればよい。(それとも就学前からシューティングやロールプレイングなどの刺激的なゲームに慣れ、こらえ性のなくなった子供たちには退屈な座学はできないのだろうか。)小中学生の段階での行き過ぎた「個性尊重」は弊害の方が大きい。文部行政関係者に、耳をほじくってよく聞いてもらいたいと思いつつ本を閉じた。
「生物学者」である長沼先生の痛快な書であった。
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辺境生物もすごいけれど、この著者もやはりすごいのだと思う。北極から南極から、沙漠から海底まで、あらゆる辺境の地を訪れてバクテリアを収集している。もともと生き物が好きだったわけでもなく、たまたま勘違いで生物学類に進学したというのに、そこで何とか頑張るしかないと思ったところがすごい。今自分の置かれている状況を考えると、なんとか逃げ出したいという思いが強いのだけれど、本書を読んでいて、何とかこの状況を楽しんだり、楽しむことはできなくても、少しの間、流れに身を任せるのもいいのではと思ったりもする。けれどやっぱり、この1ヶ月くらいのことを考えると胸が苦しくなる。サイズとノイズの話は、我々の仕事の中でも十分に考える意味がありそうだ。いまの私はノイズかも知れない。
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辺境生物という言葉に心引かれて購入。面白かったけど、どちらかというと自己啓発??ぽいお話でした。
先生の人生におけるターニングポイントみたいな経験と辺境生物の進化を絡めたエピソード多し。
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辺境生物というタイトルが気になって読んでみた。動物なのに物を食べない、光合成もできない。じゃあどーやってエネルギーとってるの?そんな生物たちから学んだことが書かれていました。遺伝子レベルの話もあった。参考になりましたー。
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前半は自分の研究の変遷と四苦八苦したこともあったが、乗り越えてきたこと、そこから学んだことが書かれている。ここはとても為になった。研究の仕方、心構えではなく、一般的に通用するものばかり。後半だだんだんきな臭くなり、やりすぎ都市伝説みたいな終わり方になってしまい残念。DNAの遺伝形質は分からないことが多いからこそ、きな臭くなってしまうのだろうか。
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読書会の課題本。流れるように生きてきて、人生うまくいっている(もちろんうまくいかない時期もあっただろうが)ように感じた。
著者の人生と研究対象を重ねながら読むことができ、面白かった。
やりたかったから始めたはずなのに、辛くなったら休めばいい、という部分が心に残った。
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辺境生物の研究を通じて著者が悩み経験してきた事から紡がれてきた人生談義。自分で直接感じ考える事の大切さが説かれていてとても参考になった。著者の目の付け所も興味深かった。
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人呼んで、科学界のインディ・ジョーンズ(笑)。ちなみに辺境生物の話は第2章までです。第4章の「生命を維持できる最低限のサイズ」の検証が興味深い。内包できる分子数が「有事にロバストであれるくらいには少なく、平時に安定するくらいには多い」制限により、自ずと決定されるとする。
更に第5章では「社会内の多様性」と「教育現場の個性重視」の混合に警鐘を鳴らし、教育者としての一面も見せる。広島大学の教授。学生との口論が高じ、暴行で停職処分食らうくらい熱いらしい。
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この本のメインテーマは面白い生物、珍しい生物の紹介ではなく、そんな生物から学んだ人生のヒントの紹介だ。それらの中から3つのヒントをここで紹介する。
1.「私たちの常識がいかに常識じゃないか」
人間からすればとんでもないところに住んでいる生き物が沢山いる。しかし地球規模で考えるとそこはとんでもないところでは無い。自然界は弱肉強食だなんて言われるけど、微生物なんかは誰と争うことも無く、スローペースで生きている。
だから私たちも固定観念に縛られず自分らしく多様に人生を過ごそう。
2.「今いる所で頑張りなさい」
著者は大学で入る学部を間違えてしまった。初めは落胆していたけれど、教授の言葉を受け現状を受けいれてできることを始めた。
人生は自分で決められることの方が少ないのだから、今いる所で自分には何ができるか、逆に利用してやることは出来ないか、と考えよう。
3.「生物にも人生にも勝ちモデルはない」
生物だってベスト・オブ・ベストだけが生き残っているのではない。色んな環境に合わせてそれぞれが独自の生態を持っている。だから人間だって人生において優勝を目指す必要は無い。
足るを知り、自分ができる範囲で頑張り、幸せになればいいんだ。
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辺境には「生きにくい」と「行きにくい」が込められている。けれどこれは人間にとってみれば、ということで、チューブワームにとっては別に特別なことではない。海底火山の硫化水素をつかった「暗黒の光合成」をするチューブワームは、それ故火山周辺に生息すると考えられていたが、火山も活断層もないところにもチューブワームの仲間が棲んでいることがわかってきた。
導入はわくわくする。だが、やはり新書はサブタイトルがキーだ。「人生で大切なことは、すべて彼らから教わった」とあるように、単にすごい辺境生物を愉しませてくれるのではなくて、それが人生訓(というほど大げさではないが)とクロスオーバーさせられている。
もともとそういう意図の本だろうから仕方ないが、あまりうれしくない。そういうのは読み手が勝手に考えればいいと思う。
人生を語るなら辺境生物マニア(ではないが)というような尖ったところを強調されたら惚れるけど、ビジネスに役立ちそうな雰囲気があって惚れられない。
もっとも著者がこの道に進んだ理由は、なんとあこがれの教授の所属学部を間違えて別の教授に師事してしまったというすごい理由がある。というわけで、辺境生物のことは諦めれば、それはそれで面白い本。辺境という言葉は生物に、というよりも、フロンティアたる辺境として、やはり生き様方向に使われている印象が強い。