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太宰治賞の表題作も書き下ろしの併録作も非常に上手い。むしろ上手すぎるほど、描写にも構成にも隙がない。それだけにしんどい。こんなものばかり読んでいたら女性として生きることがとてつもない苦行に思えてきそうで困惑する。
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第31回太宰治賞受賞作。
表題作は、所謂、不倫小説なのだが、読み進めていくうちに最初に戻って読み返したくなる著者のトリックにまんまと引っかかった。
読み返してみると、著者は何も「嘘」をついていないことがわかり、ズブズブと物語にのめりこんでいってしまう。
書き下ろしの2作目も、著者特有の女性主人公があまり明るくない過去の体験をベースに、「いま」を見つめていくお話なのだが、どこか品があって、どこか救いがあるところがいいな、とおもった。
たまたまかもしれないが、『名前も呼べない』『お気に召すまま』両作品とも、どこか欠落した部分を抱え、「わたしなんて…」思考の強い主人公なのだ。わたしはこういう受け身の人間があまり好きではない。だが、その主人公に喝を入れる脇役がちゃんといるので、作品としてのモヤモヤ、苛立のようなものが、ちゃんと回収される。
『名前も呼べない』ではメリッサという親友が本当に素敵なキャラクターだった。主人公と仲良くなるエピソードは、メリッサが「それ」とわかっていても惚れてしまう。
『お気に召すまま』では、主人公自らが怒りを表現するシーンがよかった。
それも、女子高生の文乃が居たからこそ。
お風呂やベットがすこしの光をくれる。
これらのアイテムを使って、行動にうつしていく主人公の気持ちがなんとなく嬉しいというか、踏ん切りがつく。
どこかで経験のある感情たちなのだとおもう。
この小説は、映画のようにあまり予告編を吟味しないで、物語に飛び込んで味わってもらいたい。
それにしても、『こちらあみ子(今村夏子)』、『君は永遠にそいつらより若い(津村記久子)』といい、太宰治賞は骨のある女流作家を輩出するなあ。
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すっかり騙されました。しかも後味の悪い方に。
途中で違和感を覚えつつも「まあ常識的に考えてそういうことはないよな」と思い込んでいた自分への、
これは罰か、それとも復讐か。
「名前も呼べない」ことの意味(もしくは意図)が、今になってようやくわかった。
名前には、意外といろんな意味が含まれているのだ。暗号のように、符丁のように。特に、その「響き」の中に。
陳腐な感想だけれど、女性はやっぱり恐ろしい。
主人公の恵那にはほんとうにイライラさせられた。自分が知る小説の登場人物のうちでも一二を争う「嫌な女」だ。少なくとも今年の内では一番の、「嫌な女オブザイヤー」である。
しかし彼女を打ちのめすのだから、亮子さんも相当な「嫌な女」だ。性悪だ。ほんとうに、恐ろしい。
それほどまでにこの二人は飢えていて、剥き出しで、朝井リョウ氏の言葉を借りれば「滾っている」。
例えば母と娘であろうと、姉と妹であろうと、親友同士であろうと、師と教え子であろうと、
女同士というのは結局どこかでライバル同士であり、もしかすると敵同士であるのかもしれない。
いや、そんな耳障りの良い言葉では表せないような、「名前も付けられない」関係性があるのだろう。
それだけにその関係性は正体がつかめなくて、時には強固であり、また逆に脆かったりもする。
けれどお互いが存在しないと、彼女らは敵同士にもなれない。
いくつかの「歪んだ愛」に翻弄された主人公が最後に求めるのものが、
「性別を超えた友情」であるところが印象的だった。
収録作の「お気に召すまま」では、主人公の父親と妹という肉親が重要な役割を担っている。
男女の性愛なんて、脆いものだ。
晩年の漱石作品をふと思い浮かべた。
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太宰治賞受賞作で書評と題名が好みだったので手に取った本。話は不倫モノ。主人公の恵那よりも、恵那の同級生だった林くんの方が魅力的な人物だった。昼間は男性として働き、職場を出れば「メリッサ」と名乗り男性の自分から解放されて、女性として人生を生き抜く。時に、厳しくもあるけれど、こんなにいい友達がいる自覚のない恵那にイライラ。そして、普通のサラリーマンの妻がエレガント過ぎて驚く。夫の愛人にピアノレッスンとはなんと余裕のある女性なのだろう。キャラの濃い人に埋もれてしまった主役の恵那。恵那も気合いれて生きろと思う。
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家庭のある相手と不倫をしていた主人公の恵那は前職の新年会でその恋人に子どもが生まれていたことを知る。最後にネタバラシがあって、おっと思ったけど、それがわかったあとだと題名はもしかしてこういうこと?ってちょっとしらけてしまった。
文章はすらっと読めるしうまいと思う。けど会話文のセンスが残念で、メリッサは痛々しくて聡明にはいまいち見えないし、ここで一言!って時のインパクトがない。あと新人は短い中でややこしい生い立ちを付け気味。
『お気に召すまま』離婚経験者の主人公は家族、友人、勤務先の学校の人の中で色々を乗り越えていく
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「お気に召すまま」の方が良かったですかね。
表題作の方は違和感を感じつつ読んでたら、サプライズに見事にやられました。
「穿つ」という言葉がやたらと多用されている印象を受けました。お気に入りの単語なんでしょうか。
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女の、醜くてどうしようもなくて面倒で鬱陶しくてでも、パズルの凹凸みたいに噛み合えば少しだけいとしいかもしれない感情の起伏。沈んで浮上する、その訳の分からない綺麗とは言い難いエネルギー。好みは分かれそうだけれど、私は好きだったな。
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第31回太宰治賞受賞作品。
表題作『名前も呼べない』ほか、書下ろし短編『お気に召すまま』も収録されている。
どちらも子ども時代に負った傷を身の内に宿したまま大人になった女性が、自らの罪と対峙するというモチーフが織り込まれている物語だった。傷を負った場面の状況は詳細に描写されていない。ただその時や現在の主人公の感情が、日常生活の合間にふと現れ痛切に語られる。だから読んでいる途中相当心抉られたのだが、でも最終的には癒しの物語だと思う。
次回作も楽しみ。これは波長が合う人にはとことん合う系統の小説だと思う。孤独な女性の、生臭くない透明なリアリティがある。
以下重要な部分のネタバレ含みます。
『名前も呼べない』の方で、
「宝田主任がどうこうじゃない。みんなが当たり前みたいに、男と女は結婚して子ども作るのが当然で、結婚してる男と女が近づいたら不倫で、父親の死に目にも遭わない結婚しない娘は親不孝で何かがあって、そんな目でしか物事をみないで、見るだけならまだしも当たり前みたいに圧しつけてきて、そんな中で生きなきゃいけないのが最悪って言ってるの」(p138)
主人公のこの台詞、自分に投げつけられたような気がしてはっとした。だって、主人公の「恋人」は明示されるまでずっと宝田主任の方だと思っていたから。自分より背が小さいとか、回想での「恋人」の口調とか、あからさますぎる程本当の「恋人」は宝田主任の「妻」の方だと示されていたのに。当たり前のように「男と女が近づいたら不倫」だと思い込んで、些細な違和感を流していた。これはけっこう、かなり読者に対する強烈なパンチだと思う。衝撃を受けた。
こんなんじゃ確かに生きにくいよね、ごめんなさい。
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表題作は恵那を取り巻く様々な人たちのやや異色の関係が交錯する.退職後に開かれた飲み会で宝田主任に子供が生まれたことを聞かされて驚く恵那を罵倒するメリッサ.恵那は宝田の妻亮子にピアノを習っていたが,微妙な関係になっていた.メリッサは実は男で女装して活動しているものの本職は保育士.恵那と宝田の会話,メリッサとの会話,恵那の心持.どれもつかみにくい感じだ.「お気に召すまま」の方がしっくりした感じで共感を持てた.英語教師の美波は子供のころベッドの下の隙間に入り込み母の出て来いという声を無視した.程なく母は失踪し妹の有紀と父の三人暮らしだった.成長して結婚したが離婚し教師を続けている.生徒の中島文乃との会話が教師として地に着いたものを示している.父との会食での話の中にベッドの下が安楽地(save point)であったことを認識する美波.著者は弱そうだがしたたかな女性を描いたのかなと思った.
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装丁がすごく好み。
中の表紙っていうのかな?
それも凝ってて好きだな。
読む前にドキドキさせてくれる。
なんだか、ぼやけた話だった。
焦点があってないわけじゃなくて
1枚膜を隔てて見てる感じかな。
メリッサに会ってみたいなって思った。
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ところどころ表現がたまらなく刺さって、自分のものにしたい、と思った。
図書館で借りたけれど文庫になったら手元におこうと思う。
しかしどんなに本を読んでいてもいつも私はこういうの見抜けないなあ。
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【名前も呼べない】
「どうしてそうなの、どうしてこうじゃないの、どうしてああなの、どういうことなの。答えられなければ歩くことも許されないのよ」
『私は単なる愛人じゃないと、多少なりとも役には立てているんだと、思いたかった。正しい場所に帰っていくための、潤滑剤として。』
『誰のために笑ってるの、と私に訊いたのは、それこそ誰だっただろう。覚えていない。ただ、答えられなくてやっぱり笑ってしまった自分がいたことだけは思い出せる。』
「いいじゃん。したくなけりゃ、しなければいいのよ。私もそう。手術して女になれとか職場でカミングアウトしろとかやたら言う奴いるけど、余計なお世話だよ。やりたくないことはしたくない。自分として生きてくだけで沢山だもの」
『ここに泣いている私がいて、泣き終わったら見える景色があって、それは泣き始める前と何一つ変わらなくて』
「みんなが当たり前みたいに、男と女は結婚して子どもを作るのが当然で、結婚してる男と女が近付いたら不倫で、父親の死に目にも遭わない結婚しない娘は親不孝で何かがあって、そんな目でしか物事を見ないで、見るだけならまだしも当たり前みたいに押しつけてきて、そんな中で生きなきゃいけないのが最悪って言ってるの」
【お気に召すまま】
『次に目が覚めた時、自分がどこにいるのかは考えたくなかった。ここでなければ、どこでもよかった。』
「嘘だあ。先生、何か隠してるでしょ」
「中島さん、彼氏が何か隠してるかもって思ったら、携帯電話とか見るほう?」
「えー、何ですかそれ…んー。いないから分かんないけど、たぶん見ません」
「それはどうして?」
「いいことがなさそうだから」
「正解。そういうこと。探ったってろくなことないなら、放置が一番」
「言わせておきなさいよ ー 見えるもの全部にもっともらしく理由をつけないと安心できない人なんか、放っておきなさい。そういうこともあるってだけよ」
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全体的に暗くて 最後までスッキリしなかった。
メリッサがマツコ・デラックスさんのキャラとかぶって離れなかった
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表題作は入り込めなかったな。
題名の意味も「こうゆうとこ??!!」って感じ。
主人公の性格や言動がちょっとね・・
「お気に召すまま」のほうがわかりやすかった。
もっとどろどろぐるぐる心をえぐってくるかと思いきや、そうでもなかった。
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女性センターのおすすめ図書に飾ってあって、朝井リョウさんの帯コメントと表紙の写真の綺麗さで借りてみました。結果は◎、とても読みやすく内容も面白かったです!
名前も呼べない、の方はトリックにまんまとハマってしまいました笑。読み返してみると会話や表現の端々に、彼女の恋人が妻の方だとわかるようになっていますね。完全に「不倫は男女」という自分の思い込みを利用されました。
主人公の恵那ちゃんが痛々しくて、本当に可哀想になる。何でこんなひどい生い立ちの人を選んで優しくしたんだろう、亮子さんの気持ちがまったく理解できん。母性?何にしても関係の断ち切り方、最後の電話の対応が冷たすぎてびっくりした。でも不倫を仕掛ける人ってこんなもんかもなーとも思ったり。今の夫婦関係のうまくいってない部分の捌け口としてしか相手を認識してない的な。
お気に召すまま、はもう少し救いがありますね。洋食屋でお父さんが美波に謝るシーンはウルっときてしまいました。
人物描写がとても的を得ていて、特に強者男性への嫌悪感みたいなのが、うまいですね。女性センターに置いてあったの納得〜。