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私のDNA若木先生の文芸書です。漫才コンビの話です。
後半ちょっとネタバレ。
「漫才!?何故!?」と思いながらも、最近の若木作品は特にティーンズ文庫(昔から書いてきたフィールドでずっとやっている間にレーベルを取り巻く環境が大幅に変化しただけだとはいえ)の領域からは逸脱していると思うので、文芸書なのはまぁ別にいい。しかし結構硬派なものが好みだと思っていたので、漫才というのは意外。落語とかだったらわかるけどなぁと思ったけれど、よくよく考えてみれば源流は近しいわけで、そう考えればアリなのかと。
今までの作品はどちらかというと心理描写が印象的で、全体的に見れば比較的その分量もそれなりに多く取られていたような気がするんですが、こちらは会話文も多くポンポンとテンポよく最後まで話が進む。
若木作品たらしめる一因である、会話によってその人の為人をよく表す、その独特のリズムと流れは、その分勢いがつきすぎてキャラクターの個性が強くなりすぎることもあるので、なかなか現実に寄り添うような舞台では違和感がある…かとおもいきや、頭の回転が早くて口が達者な「漫才師」という設定のお陰で、それが日常会話の中でも浮くことがない。これは上手いなぁと。
他の作品で最も現実世界に近い舞台なのは、やっぱりグラハーなので、それと比べて見てしまうことが多くなるけれど、グラハーはどちらかというと「憧れ」になるような人たちも必死で、立ち止まったりグルグルモヤモヤ生きていて、それに対して共感するような部分もあるけど、スポットライトの逆光を見るような感覚があった。
ゼロワンも秀でたセンスの持ち主たちだけれど、多少なりとも凡人に近く、それでももがく様はより地に足の着いた「共感」ができる。
惜しむらくは、気持ちよく読み進めて、帯にも「マンザイ・グランプリの頂点を目指す!」とかいうからてっきり頂点になるかならないかは別としてもその頂きくらいまでは見せてくれると思っていたのに、八合目くらいで「後は想像にお任せします」みたいに終わって「えええええ!!!!!」と(苦笑)。おもわずめくったページに「あとがき」って出てきた時は落丁かと思ったよ!クロエとの対決見たかったよ!
そこでようやく、あぁこれは壱を昇華させるのが主題だったのかと気付く。でも、でもね、若干なりともエンターテイメントを踏まえた小説としてはね、昇華した後のゼロワンが見たかったんですよ…そこまで書いたら普通じゃんって言われればそれまでなんですけども。
ただ、他の作品でもそうだけれど「もっと彼らを書きたい」という意志があるのなら一度書ききってほしいとも思う。「いつか」は明日なくなってしまうかもしれないという危機感は、先生も読者も切実に感じているはずだから。出がらしも出ないくらい吐き出して、空っぽになった後にじわりと湧き出す水ならば喜んで溜まるのを待つのだけど、滲み出す前に世界がなくなってしまうかもしれないんだよ…。
そんないきなりハシゴを外されたような気もしたんですが、あとがきを見るに、毎回ボロボロになっている度を更新している気がする若木先生が、いつもの10割増しくらいボロボロになっていたので、���の瞬間はこれで書ききっているのだろうし、このラストはこれで若木作品らしいかもなと納得してしまうDNAなので、大した問題では無いんですが。
それにしても毎度若木先生は何か苦難の宿業を負われているとしか思えない…。しがない一読者としては、20年以上前に刻まれたDNAが果てるまでついて行くことしかできません。
とにかく発売おめでとうございます。お疲れ様でした。
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久し振りに先生の、シリーズの続刊待ちではなくて
新刊かつ読み切りの話を読んだ。
とても新鮮で、しかし若木節がしっかりと生きていて小気味良く
あっという間に読んでしまった。
比較している方がちらほらいらっしゃったようだが
自分もグラスハートを思い出しながら読んだ。
主人公が三十路というのが魅力のひとつかと思う。
夢を追いかけることに疑問を感じ
周囲の目も冷たい中で感じる自分への不甲斐なさ。
グラハーのテンブランクにオーヴァークロームがいたように、
ゼロワンではクロエがいる。
このクロエが自分としては非常に魅力的なライバルとして感じられた。
相変わらず、ぽつぽつとぐさりとくる描写があり、心がやられてしまう。
『考えたら答えに行き着いてしまうから
よく考えては駄目。楽しいことばっかりやろう』
"さみしかったから、断れなかった。
ひとりぼっちになって行き場がなかったから、零を巻きこんだ。"
最近やる気だねと言われた時に
穿った捉え方なのだが、
最近の自分を肯定されたと思えずに、
以前の自分を責められたように思ってしまう、
"どうして俺たちは、日の当たる大通りを安全に歩かないのかな"
などが特に心に残った描写だった。
これは分類としてはラノベでは無いようだ。
若木先生の他作品を知っているので大丈夫だが
普通の文学本として手にとった人の中では
文体やおたくネタに違和感がある人もいたのではと思う。
それから、芸人を目指す話だと自分は
森田まさのり先生の『べしゃり暮らし』が大好きで
これのすごいところは人間ドラマなど展開だけでなく
たくさん出てくる芸人さんのどれもがきっちり面白いまたはきっちりつまらないところだった。
面白いネタとして描かれているネタは読みながら声を出して笑ってしまうほどで
本当にこういうネタで一気に売れる芸人がいそうだと思わされ
非常に説得力があった。
森田先生も西側の人だし、身に沁みついたものがあるのかもしれない。
残念ながらゼロワンのネタは、自分の好みからするとそこまでの説得力はないものが多かった。
若木先生らしい小難しくべらべら喋る感じのキャラで、ファンとしてはにやっとしてしまうところだが
芸人のネタだとちょっとどうかなと思うセリフに対して
会場大爆笑、みたいな描写があるとちょっとあれっと思ってしまう。
少なくとも、東京のお笑いだなと感じたので
その辺りは少し残念だった気もする。
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2016年2月3日読了。
すごい。
すごい。
揺さぶられた。
人を笑わせるためにどれだけの狂気が必要なのか。
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性格は全く異なるが、主人公のライバルコンビ『クロエ』の黒江兄弟とグラスハートに登場する藤谷兄弟のイメージがかぶる。
こちらも異母兄弟であることを匂わせるような描写あり。
お笑いがテーマなのだが、全体的に雰囲気は重め。エンタメ業界の舞台裏が描かれているからというよりも、主人公の親友の死が通奏低音になっている作品だからだろう。
あとがきを読んでその理由を察した。
この数年とても辛かったろうし、この傷が完全に癒えることは無いだろうが、悲しみすらバネにするクリエイターの業を期待して、いちファンとしてこれからも発表される作品を待っている。
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作者の初の一般文芸書だけど、良い意味でラノベと変わらず(そもそもラノベとの差は挿絵があるかどうかくらいだと思ってるが)、まあ、つまり、おっさん版の「AGE」だなあ、と。文庫化して、みんなに読んでほしいな。
(後書きが重いのは置いておいて……)