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著者は米国の先行研究から、カリキュラム改革、在学率や卒業率の低下、教育の質保証の要請を背景に、アカデミック・アドバイジングは、退学率の減少や在籍継続率に向上(p.5)に効果がある点に着目した。本書はアメリカの大学におけるアカデミック・アドバイジングについて、事例を質的に調査し、まとめたものである。大学職員として勤務を続けながら仕上げた博士論文をリライトされたものでもあり、その労作ぶりに敬意を表したい。副題にもあるとおり、日本の大学にどのようにアカデミック・アドバイジングを展開できるか、また現状でその機能を持っているか、といったことを念頭に置きながら読み進めた。
アメリカでも、アカデミック・アドバイジングを担当するスタッフは、完全に専門職化しているのではなく、学生にアドバイスをする機会は、専門スタッフより依然として教員の方が多い(p.65)。ただ、両者が分担するパターンも増えてきている傾向にあるという(p.73)。コスト面や業務のエフォート率の問題がクリアできれば、必要性を感じている大学は、本制度を違和感なく導入できるだろう。
具体的にウォッチしている指標は、学生の成果については、GPA、卒業率、在学率であり、これらは教務系の部署は日常的に扱っている項目でもある。また紹介されている事例によれば、アドバイスする範囲は、履修相談、事務補助、修得単位確認、成績不良者への連絡・警告、その他関連の連絡・相談だった。こうしたことは特に指摘すべき点は感じなかった。ただ当該学科の3年次生と全員面談を行う(p.97)ことは、「専門職」としての責任感がよく表れていると思う。しかし意外にもアカデミック・アドバイジングの専門性の向上を図るモチベーションは、地位向上・給与改善を意識しているとの報告があった(p.150)。そうしたことから、アカデミック・アドバイジングは確立された分野・職種ではないことを知った。
個人的には、履修登録前の一定時期に、教育・職員時限で機能が発揮できる仕組みを整えることで、かなり効果があると思った。求められる知識はかなりローカル・ナレッジが多いと推測できる。ゆえに専門職の中でも昇進も含めて流動性が比較的低いのではないかと感じた。また欲を言えば、隣接している専門職であるレジストラー(履修登録等学籍管理)との関連についても若干言及してほしかった。
終章でも若干触れられているが、多様な学生と接しなければならないので、当然なされるのは様々なアドバイジングとなる。当該アドバイスが有効かどうかは、最終的には学生自身が判断することであり、一例に過ぎないということを前置きすることが大切だと思った。
第4章で紹介されているカンザス州立大学の修士課程プログラム
http://catalog.k-state.edu/preview_program.php?catoid=2&poid=2912
ちなみに、以下のようなサイトも流行するのだから、様々な意味でのアドバイスのニーズはあるかもしれない。
http://campus.nikki.ne.jp/