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「兵器」をキーワードに、科学技術の発展が兵器の進歩に貢献したかを探る本。本書にはレオナルド・ダ・ヴィンチ、ガレリオ・ガリレイ、ニュートン、ラボアジェらの発見、ジェームズ・ワットらの技術革新が、兵器の発展・発達・破壊力増大につながることを、彼らは天国からどんな思いで見つめていたのだろう。もちろんすべての科学者が、自分の発見した現象が弊Kに応用されることを快く思っていたわけではない。ニュートンは軍事面に無関心という態度を貫いたが、ダ・ヴィンチとガリレイは、自らの発見や考案した技術が、軍事面に応用されることに対して不快感を持っていた。科学技術における新技術を兵器面に応用しようという動きは、第一次世界大戦が勃発してから顕著になっていく。著者はこの本の最後に
「21世紀やこの先の未来に強く望むのは、戦争の犠牲者をこれ以上増やすのではなく、物理学の進歩が、犠牲者を出さない兵器の開発を促すことだ」
と記したことに大いに失望した。かつて我が国にも「環境に優しい兵器の開発」などというすっとぼけたことを行った国会議員がいたが、この文言はその発言と同レベルの妄言である。「物理学の最新理論が、兵器の開発に使われることは絶対に許さない」ということをなぜいえないのか?
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戦争とは何か、と考えると、つまるところは国と国との闘いである。
そのために兵器が使われるわけだが、古代では槍や刀剣、弓矢であったものが、やがて銃器や大砲の時代となり、毒ガスや大型爆弾と変遷していく。戦うための乗り物も、馬から馬に曳かせる戦車となり、装甲車となる。飛行機や潜水艦が作り出されると、戦闘の様式も大きく変わっていく。
そしてその陰には、常に、新たな技術の発展があった。本書では、時代ごとに現れた新たな武器や移動・輸送手段を順序だって紹介し、その物理的原理を解説する。数式等は極力排されており、一般に読みやすいように噛み砕いて説明されている。エピソードもわかりやすく、「こんな切り口があったのか」という点に驚く。
著者は自身も物理学者で、一般向けの著書も多い。
本題に入る前に、一応、断っておいた方がよいのかもしれない。本書は「武器の発展の陰には物理学の発展があった」からといって、「物理学は危険だ」といっているわけではもちろんない。戦争に限ってみても、攻撃的な武器の開発だけでなく、レーダー技術で多くの人々の命が救われた側面もある。X線の発見は兵士の治療に役だっただけでなく、現在でも医療現場で重要なツールとなっている。
何事も「使いよう」だというところか。
古代、エジプトやギリシャでは、武器は投石機や弓だった。単純なようだが、より速くより遠くまで、より少ない労力で、威力のあるものを移動させるという点で、物理の運動法則に沿った改変がなされている。運動エネルギーに関する高校の初等物理の題材になりそうなところである。
英仏の初期の戦いでも、弓矢が用いられる。エジプト・ギリシャとの違いは、冶金学が発展してきたことで、それに伴って防具が改良されてくる。鎖帷子から鋼鉄製のものと強度が増すが、一方で、弓矢の威力も増していき、ロングボウといった強力なものも生まれる。鎧をまとった騎士が活躍するのもこの頃である。
戦争のあり方を大きく変えたのが火薬の発見。モンゴルが勃興してきた頃、中国の錬金術師がいくつかの物質をある比率で混ぜることにより、高い爆発力を持つ「火薬」が得られることを発見する。こうした爆発物を用いて、生まれたのが「大砲」である。火薬や大砲は全世界に広がっていく。
16~17世紀は銃が発達していくと共に、海軍も発展していく時代である。大型の軍艦に大砲を積む際には、バランスを考え、撃った後の反動を吸収する必要もある。軍事目的だけではないが、海洋を正確に航行するためには、時計や羅針盤、天文学の発展も大きなカギとなった。
17世紀後半には、ニュートンが登場し、万有引力を初めとして、力学に関する大きな発見をする。ニュートンの発見はそれだけに留まらず、光学や微積分法、潮汐、流体力学にも大きな貢献をし、それらは直接・間接的に利用されていくことになる。
産業革命は蒸気機関を生んだ。蒸気の力を無駄なく利用するために役だったのは、同じ頃に発展してきた鉄工技術だった。部品同士が噛み合うように正確に加工する技術は、銃の性能も上げた。
17世紀半ば以降の物���学の重要な進展は、電気と磁気の研究である。これにより、蒸気機関から発電機へと動力源が写り、多くの分野で生産性が一気に高まる。科学技術に対し、各国の関心を高めたのも大きな点だった。
こうした流れを受けて、最初の近代的な戦争となったのがアメリカ・南北戦争である。殺傷力の高い兵器、電信、発電機、偵察用の気球、魚雷、大型船、望遠鏡といった先進的な道具が大量に使用された近代戦は、多くの犠牲者も生むことになった。
ライト兄弟が飛行機を発明したのは1903年のことである。飛行機が飛ぶ原理は、ベルヌーイの定理(流体の速度が上がるほど流体の圧力が小さくなる)で説明されることが多いというが、本書では少し突っ込んだ解説がある。
発明されてわずか8年後の1911年、第一次大戦で、飛行機は軍事利用されている。飛行機だけでなく、機関銃や毒ガスが使われた大戦は、南北戦争に輪を掛けて、悲惨な被害を生んだ。戦車が生み出されたのもこの大戦の間のことだった。
レーダーや無線、レーザー赤外線といった、電磁波や光を利用した装置が使用されるのも第一次大戦以後である。敵を素早く感知する、通信するといったことに加えて、X線のように医療に用いられるものもある。
ソナーや魚雷の発展とともに、潜水艦も重用されるようになっていく。
第二次世界大戦ではそれまで使用されていた兵器がさらに高性能となっていた。
加えて、暗号解読装置など、コンピュータ技術も発展する。
特筆すべきは原爆の開発だろう。理論の解説とともに、優れた物理学者たちがなぜどのように原爆の開発に関わることになったか、かなりのページが割かれている。
原爆開発のマンハッタン計画を途中で止めることは困難であったのかもしれないが、やはり生身の人間の上に落とすことに関して、想像力が欠如していたのではないかと暗然とした思いが残る。
最終章は未来の兵器に関する予測である。
さまざまな兵器が研究されているとのことだが、そのうちの1つに、電磁波爆弾というものがあるという。人を死傷させずに電子機器を破壊するもので、つまりは社会活動の麻痺につながる。それなりに実現性が高そうで、大規模なものが使われたら相当な被害が出ると予想され、かなり怖い話である。
技術の発展は人類に多くの恩恵をもたらしてきた。一方で、軍事利用に関しては、もう十分過ぎるほどの破壊力を持つ兵器が手中にある。これ以上、兵器を発展させていけば、どれほどの悲惨な被害が出ることか。
技術の利用は平和目的とし、多くの紛争が平和裡に解決を目指すことを切に願いたい。
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科学史と世界史と兵器について古代から現代まで幅広い知識が詰め込まれている。物理学と兵器の発展は連続的なものではなく、停滞時期→大発見→急速な進化の繰り返しによってもたらされてきたことが分かる。
なかでも、第ニ次世界大戦中の原爆開発をめぐる物理学者や各国軍の働きは読み応えがある。それだけ多くの資料が残されているのだろう。
科学やテクノロジーは使いようによっていくらでも人間を傷つけることができる。人間は科学をどう発展させ利用すべきなのか。物理学の本を読んだあとに浮かぶのは哲学的な問いである。
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陣形により異なる防御速度、馬具による衝突力の違い、土塁・城壁・塹壕の連携による陣形構築などの現地戦術はもちろん、
運搬手法、可能積載量、物流量と攻撃力のトレードオフなど、兵站においても物理学が必要となる点は多い。
だが、本書で語られる範囲はだいぶ狭く、『武器の物理学』がいいところ。
さらには、それについても"武器"と"物理学"をそれぞれ説明するのみであり、
例えば紀元前においてだって、投石と弓矢と投槍などの投射物に対する防御方法について実験や定式化ができそうなものだが、精々が「複合弓の方が蓄積されるエネルギー量が増す」といったことを記す程度。
後半の弾道学や無線、原子爆弾の章に至ってようやく原理、研究、実用が並べて語られ、読み応えが出てくるので、最初から近代以降の範囲に絞っていたら名著になっていたかもしれないのはもったいない。
『武器の進化とその仕組み』と割り切って読めば、存外楽しめる一冊。
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戦争は物理学の発展の歴史そのものだ。
本書は、物理学がまだなかった昔の争いにはじまり、近代の原爆、水爆、レーダー、レーザーまで、物理学による説明である。
古い時代のストーリーは歴史書を読むようで、また最近の戦争ものは、空恐ろしくなるストーリーまで。
ただ、文章による説明なので、その機構や仕組みがまったくわからない点が多く、もっと図版をたくさん載せてもらえるといいのだが。
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物理ってきっと本当は嫌いじゃないのだけど、学生時代の先生が苦手だったので嫌いになってしまった。
その物理学、という名がついた本。しかも戦争。
チャリオッツからドローンまで、古今のさまざまな新兵器が紹介される。そこで物理学がどう活躍したか、という解説とともに。これなら嫌いにならない。というか俺、戦争好きなのかな…。と思ってしまうほど。
為政者はみな、新しい新兵器を求める。それに応えるのは物理学だ。弾道学しかり、原子爆弾しかり。
将来は人を殺さず電子機器だけを破壊する兵器や、脳から出る電磁波を読み取って、敵の心を読むような兵器も現れるかもしれない。およそ実現しそうもないが、けれど、これまでだって次々に生まれでて、たくさん人を殺してきたのだから。
とはいえ、人を殺さず電子機器を壊す、というのは直接の殺人兵器ではない。兵器は安くたくさん殺すという宿命を背負い続けてきたが、物理学によって殺さない兵器や、あるいは紛争を解決するための技術が生まれるかもしれない、というか生んでほしい。だが、物理学以外に経済学が働くからね…。
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図書館で借りた。
戦争の物理学…と言うタイトルではあるが、そんな小難しい物理理論は出てこなかった印象を抱いた。多少の科学知識は文章中に出てくるが、歴史の話が強く、基本的に縦書きの社会本・文系の本だ。
古代の弓矢から自動車・電磁気・飛行機の発明~活用の歴史の流れを見つつ、戦場でいかに戦力バランスを支配していったか、というような話が主だった。
タイトルからは少し期待外れな印象だが、内容的には悪い本ではないと感じたので星3つ評価にしておく。