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オーストリアの言論人カール・クラウスの政治思想を論じる研究書。本書は、彼の活動に一貫した視座を読み取る研究である。中心となっているのは、クラウスがある種の保守主義者であったがゆえに、世紀末から戦間期にかけてのウィーンで啓蒙的・批判的言論活動を展開することができたという主張である。この主張が、世紀末の建築文化と精神分析に対するクラウスの批判的態度、第一次世界大戦時に保守的反戦思想にコミットするクラウスの態度、そしてナチスに対抗してオーストロ・ファシズムの中心ドルフスを支持した行動から、裏づけられてゆく。そして最後に、このようなクラウスの活動の意味を、エリック・フェーゲリンのクラウス論を下敷きにして、より一般的な視座から論じている。世紀末ウィーンは、フロイトやウィトゲンシュタインといった、現代文化を論じるうえで欠かせない人物たちを生み出した世界であるが、その中で言論人として輝きを放ったクラウスの思想を、通常イメージされる「文化」的な側面から政治思想的側面まで、幅広く、そして彼の『炬火』の記事を中心に内在的に論じた本書は、必ずしもこの時代について明るくないが政治思想に興味がある人にも、政治思想には明るくないがこの時代の文化に興味がある人にとっても、非常に興味深い内容であることは間違いない。