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映画「私はあなたのニグロではない」を見てジェイムズ・ボールドウィンに興味を持った。「サニーのブルース」を読んだ。
ハーレムで育った兄と弟のサニー。薬で刑務所に入ってしまった弟に対する思いを描く。また父と母との関係、父が死んでから知った父の、偶発的に白人に交通事故死させられた弟の事。私には分からないジャズピアノをやりたい弟、その演奏を聴きに行く場面で終わる。
訳文がけっこういいせいか、育った場所であるハーレムの八方ふさがりだとする兄弟の気持ちが匂ってくる。
題名は短編ベスト10だが実際には11入っている。
2016.6松伯社
2018.9.6図書館から
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ベスト10というだけあってどの短編も素晴らしかった。エドガー・アラン・ポーの「 ヴァルデマー氏の病状の真相」はここまで怖いとは思わなかったし、ハーマン・メルヴィルの「バートルビー」はここまで笑えるとは思わなかった。 イーディス・ウォートンの「ローマ熱」はこれぞ短編小説という鮮やかな切れ味。ジャック・ロンドンの「火をおこす」、ウィリアム・フォークナーの「あの夕陽」は作中のイメージが恐ろしいほど焼き付いて尾を引く。ジェイムズ・ボールドウィンの「サニーのブルース」の演奏画面では、こんな風にジャズを聴けたら面白そうだと思った。各作品への思い入れたっぷりの編訳者解説も大変勉強になった。
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内容と必ずしも一致しているとは思えないシックなイラストと、和製英語丸出しの「ベスト10」というタイトルに、読む前はすこぶる不安を感じていた。
でも読み終えると、いい意味で期待を裏切られた。これは良質なオムニバスだ。
まず訳文が自然な日本語で、翻訳文を読むときの突っかかり感がなく、物語にスムーズに入り込めた。その意味で編訳者の平石さんの言葉のセンスは非凡だ。
それと収録された短編の選択についても、発表された年代順に並べられているが、小難しい作品や茶化した作品は除かれ、なおかつ個性の偏りがない。そのためアメリカ文学の成長の軌跡が自然な形で示されていて、いわばジャズの各時代を代表する名曲を、“わかっている”DJが渋味のある選曲によって聞かせてくれるようだ。
一方で、この本に関する他のレビューを読むと、簡単に「○○がよかった」とか書いてあるが、本当にすんなりと「よかった」という感想に至れたのだろうか?
11の短編のうち、私が一読して理解できた作品はほとんどなかった。結末を読み終えても「作者はなぜこれを小説にしたのだろうか?」というのがピンとこない。でもそれは“悪い作品”という意味ではない。なぜなら作者の意図を探るべく、私の読書欲は再読を促すからだ。逆に「ローマ熱」のような日本のTVドラマみたいな“わかりやすい”結末の作品は読み終えた途端に空気が抜けたようになり、再読しようという気が起きないから不思議だ。
例えばH・メルヴィルの「バートルビー」。この作品は読んでみても、バートルビーがその生き方で果たして何を訴えようとしていたのか、作者はバートルビーを通じて何を伝えようとしたのかが皆目わからない。
こんな体験はめったにない。つまり日本語で読んでも、その意図がまったく私の心の中に降りてこないのだ。それは私がアメリカの歴史的背景の知識に疎く、米文学に対する理解が浅いということに尽きると当初は考えたが、巻末の編者渾身の解説を読み、我が意を得た。
平石さんいわく、この小説は読者を含め、著者のメルヴィルすらも含めて、人類の歴史上、アメリカが先進的に勝ち得た(と思われている)人間の自由や意志が、他人の自由や意志を侵すという矛盾により成立しているのではないか、という懐疑が主題である。
読者をはじめ誰もがその懐疑に自覚的でない以上、バートルビーの意図をつかめないのは当然であり、彼の不可解な行動はすなわち、他人が無批判に自分の自由や意志を周囲へ放出していることへの無言の抵抗ではないか、というのが平石さんの見解だと私は読んだ。
それと私は、バートルビーの人格が集約された一言の“I would prefer not to~”を平石さんが「~しないほうがありがたいのです」と訳した技術もほめておきたい。
誰もが高校時代に“prefer”を英語のニュアンスそのままに日本語訳するのに苦労した経験があるはず。この作品では、肝要な“prefer”の原意を壊さず、かつ、彼の個性的な話し言葉としての整流を保っている。ここは編者のセンスが光る箇所なので、特に強調しておきたい。
…1作目だけでこれだけの字数を費やしてしまった、ほかに「サニーのブルース」とかもレビューしたいが、残り10編をレビューすると、とんでもなく長文になってしまう。
このように、編者の見事な仕事ぶりが放つ光に当てられて、すべての作品について饒舌に語りたい衝動に駆られる。それくらい力強い翻訳&編集だ。
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エドガー・アラン・ポー、メルヴィルとジャックロンドンの3編のみで☆5つです。
ポーは江戸川乱歩がペンネームの由来となった作家としか知りません、小説は始めて読みました。乱歩以上の変態だったとは。宗教によってはこのようなことを想像することも禁じられているのでは、信じる宗教の無い私はただ楽しむのみです。
メルヴィルは白鯨で有名すぎる作家。アメリカ人も変わり者がいじめの対象になるんですね。
ジャックロンドンは初めて名前を知りました。人間が孤独に凍死していくのを犬が見守るだけの小説です。この作家はものすごく冷酷な方、壮絶な人生を歩んだことがうかがえます。すごみを感じる小説でした。
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英文学翻訳家によるアンソロジー。好きなエドガーアランポーの「ヴァルデマー氏の病状の真相」が内容もあってか一番印象に残る。メルヴィルの「バートルビー」は最後まで笑って良いのか何か起こるのかわからない。今回初めて知りもっと読んでみたいと思ったのがバーナードマラナッド。「殺し屋であるわが子よ」の家族観と個人主義の間の葛藤が心に入っていきやすかった。好きなジャズを取り上げていたジェイムズボールドウィンの「サニーのブルース」は読みやすく、気持ちが温まる良い話であった。
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図書館をねり歩いても、本に対する直観が働かない。
読みたいけど、つまらない小説を手に取って時間を無駄にしたくない。
そんな時、妥協案として短編アンソロジーを借りる。
愛読している作家(ヘミングウェイ)、名前だけは知っていて読んだことのない作家(ポー、メルヴィル、フォークナー、カーヴァー,ブローティガン)、勉強不足て初めて聞いた作家(ジュエット、ウォートン、ロンドン、マラマッド、ボールドウィン)の小説が収められていた。
ベストといっても、個人の好き嫌いや趣向があるから、何作かが自分に合わなくても仕方がない。短編だし勉強のつもりで、半数くらい好きな小説に巡り合えたらラッキー程度に思っていたが、結果、全部すばらしかった。
なにより一つ一つの小説が粒だっていて、ベストというだけあって、本当に間違いがない。
全部の料理がおいしいと、おいしい店という印象だけが残りがちだけど、この短編集はどの小説もしっかり味がして、ひとつひとつの小説を思い出すことができる。どの小説も明確に味がちがうから、高水準で比較しがたい。(すべてに言及したいけど、それは大変なので割愛)
ただはっきりしているのは、次に図書館へ行くときは、この短編集に収められた作家から探し始めるだろうということ。読みたい作家のリストが増えて素直にうれしい。