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紙の本

残念ながら著者による現代語訳は著者自身が言う「現代語訳は、無意識に『古事記』を別にしてしまう」でした・・・

2019/08/29 23:24

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投稿者:多摩のおじさん - この投稿者のレビュー一覧を見る

本書は、今年1月に亡くなられ法隆寺の建造目的が聖徳太子の怨霊鎮魂として古代史に新たな一石を投じ、また私自身の古代史に興味を持つ
きっかけとなった「隠された十字架 法隆寺論」の著者による「古事記」の翻訳本で、論考「古事記論」を増補したものです。

著者としては、「歎異抄」に続く翻訳の2つ目とのことで、上記の作品以外でも様々なかたちで「古事記」に言及していますが、1つのまとまった現代
語訳の作品となると、そのイメージも随分変わるものです。

本書は太安万呂の序文はなく、また元々ない標題を設け、第1章「国生み」、第2章「天孫降臨」、第3章「異民族との混血」、第4章「大和制覇」、
第5章「国の発展」、第6章「国の衰退」、それに「古事記に学ぶ」、「あとがき」と独自の構成となっています。

そういう意味では、著者が語る新たな「古事記」の印象が強く、また履中、反正天皇の項はなくオリジナルの「古事記」の完訳ではないようです。

また、「古事記」は登場人物が多く、その意味では系図は重要ですが、掲載の系図は標題にある人名の一部もなく簡略され過ぎており、さらに
第5章以下では天皇や皇后名の明示がなく、暫く頁を戻して確認が必要(例えば、p.160の「・・・天皇は、弟の速総別王・・・「皇后の嫉妬・・・」
では、p.150の「・・・天皇(仁徳)・・・その皇后の石之日売命・・・」)な箇所が頻出するのは読み手にとっては辛いですね・・・
また、唐突に人名が現れ、意味が判らず(例えば、p.167の「穴穂御子」は、頁を送ったp.173「穴穂御子(安康天皇)は、・・・」)、読み進まないと
判らない点も同様です。

結局は、その後にある「古事記に学ぶ」、「あとがき」や「古事記考」までを読み進まないと表紙カバーにある「今回『古事記』を現代語訳してみて、
・・・すぐれた文学であることを感じざるをえなかった」との著者の思いは伝わらず、アイヌ語までを引用しての現代語訳であるにも拘わらず、実に残念
な思いです。

これは「古事記に学ぶ」の「『古事記』には、・・・日本古代社会の歴史や言葉や宗教を知る手掛かりが含まれ、・・・厳密な意味での歴史書である
かどうかは疑わしい。しかし、これが歴史書でないにしても、すぐれた文学書・・・」(p.204)、「『古事記』は文学的にたいへんすぐれている叙述が
多い」(p.205)とあり、更に「『古事記』を理解するには、・・・訓み下しですら、すでに原文の意味を曲げてしまうことがあり、まして現代語訳は、無
意識に『古事記』を別にしてしまう。」(p.222)とあり、本書は正に著者の「これが歴史書でないにしても、すぐれた文学書」というバイアスが働き過ぎ
た現代語訳であったのでしょうか・・・

そういう意味で、p.222のその後に続く「この書物を『古事記』の面白さの発見の手引きとして、原文の『古事記』に当たって読んでほしい」著者の
思いであったのでしょうか・・・

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