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献本でいただいたものの、なかなか手がつけられず、なんと年を跨いでしまった…。
前半〜中盤、絞殺魔は登場するものの、事件というよりは主人公を取り巻く環境に焦点が当たっており、その描写が比較的長く続くので少しだれてしまうかも。
ただ、妹との絆や父親との関係性の描写が長く詳細になっているからこそ、結末に近づくにつれて起こる衝撃的かつ悲しい出来事により思いを入れて読み進めることができた様に感じる。
この本を閉じた時に、悔しさ・悲しさ・気付きによる嬉しさと色々な感情が込み上げてきた。
序盤や中盤では「早くストーリー進まないかな」とじれったい感情であったのに、物語全体の緩急が心地良かったと最後に感じることができた。
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夏の翳り ジョイス メイナード (著), 中井 京子 (翻訳)を読みました。13歳の少女が過ごした70年代の雰囲気や少女時代の思い出や犯人との対決がスリリングに表現されている点など大変おもしろく読みました。特に70年代を代表するナックの『マイアローナ』の歌詞が物語の途中に挿入され印象的です。
> あの夏、わたしはサンフランシスコ郊外を震撼させた連続殺人鬼と対決し、死にかけた。犯人を追う刑事の父を助けたくて、ある行動をとったせいで。もしもあの瞬間、妹がいてくれなければ、きっと殺されていただろう。そして30年あまりが過ぎた今、真相を知るのはわたし1人だけになってしまった――。70年代後半のカリフォルニアを舞台に、みずみずしくも危うい少女たちの夏を描いた話題作。(Amazon紹介)
このお話はある姉妹(ローラ・ザロイアンスとジャネット・カブリー)の体験がモチーフになっています。姉妹は幼少時代、本作と犯人のモデルである”山道の殺人鬼”が出没する地域に住んでおり、小説中の刑事と同じく父が捜査の指揮をとっていました。姉妹は著者の文書講座を受講したつながりから事件に関する彼女らのエピソードを聞き、いくつか脚色をおりまぜ物語を書いたようです。
> 窓を開けておくと、コオロギやフクロウの鳴き声、コヨーテの遠吠え、まれにピューマの声も聞こえる。山のほうに目を向けると星が見えるし、朝になって明るくなると、馬たちが草を食み、交尾していることさえあるし、空にはたかが舞い飛んでいる。
わたしたちがあらゆるものを見つけた場所だった。それがあの山。動物の骨にシカの糞。鳥、花、コンドーム。動物の死骸、人間の遺体。岩とトカゲ。セックスと死。(P51)
そのためか、小説の構成は前半の少女時代の詳しい出来事について記述されています。また、後半については姉妹の話には無い創作、犯人との対決というエキサイティングなお話の二部構成になっているように見えます。前半部の娘の少女時代の出来後について、かなりの文量を使って山の出来事、恋人やセックスへの興味。幻視や占いなどのスピリチュアルなものへの興味など書かれており、13歳の少女のもつ危うさ、多感さ、母親への反抗、父親へのあこがれなどがうまく表現されています。
> 一九七九年の夏。わたしは十三歳と二か月で、七年生を終えたばかりだった。親友はいなかったが、ないよりも妹を愛していたし、父も大好きだった。ピーター・フランプトンとジョン・トラボルタにも熱をあげ、大きくなったら作家になるつもりだった。あるいは、国際的に活躍するスパイ、女性初のカーレーサー。『アンネの日記』は四回読み返し、アンネ・フランクがセックスについて書いている箇所と母親への怒りを綴っている箇所はページに折り目をつけた(P75)
一方で、後半の犯人との対決の部分はジョイスの創作です。そのせいでしょうか、いくつか構成の点で疑問がありました。まず、犯人が古いトラックを住処としていた点について、警察の包囲網があるなかで逮捕できなかったことが疑問です。また、主人公の前に出現した点も疑問です。犯人は食料を調達するのに空き巣を行っていることが記述されています。���常的に人里におりることをしていないように見えますから、彼がTVや新聞などの媒体に触れることが難しいように見えます。なぜ、犯人は娘が刑事の娘であることを知りことができたのでしょうか。さらに、いくつかの犯人の物証が残っているにも関わらず彼女たちが犯人に襲われ一度は撃退したという事実がなぜ捜査陣に信じられることがなかったのかも疑問です。犯行につながる、〇〇という決定的なものがあるにもかかわらずそれを見落としています。
いくつか構成の疑問がありましたが、彼女たちにとってのこういったラストはふさわしいという終わり方できている作品ではないかと思います。過酷な運命を背負っしまった姉妹になんら納得のできる立場の終わり方を用意した、これはモチーフのもとになった姉妹(ローラ・ザロイアンスとジャネット・カブリー)に書かれた作品でないかと感じました。
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家族愛、姉妹愛をテーマにした作品。連続殺人など、重苦しい内容だったり、ひと夏のある事件をきっかけに色々な感情が渦巻き、少女の心情に変化が生じる。本作の一番印象付けるものとは、ミステリー要素は突出しているものでもなく、家族との関係、家族愛の方が強いかなという印象がある。
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献本に当選して入手
帯にある「連続殺人犯に震えたあの夏」という言葉に惑わされて、これが推理小説だと思って読み始めると、肩透かしを食う。これは1970年代後半、サンフランシスコ郊外を舞台にした思春期の少女とその妹の1年半の眩しくて、瑞々しく、少し残酷な日々の物語だ。
1年半掛かっても、主人公のヒーローだった大好きな父親は犯人を逮捕できず、真犯人が逃げおおせた事を知り、失意の中、病で世を去ってしまう。その後の生活は順調に見えて、色彩に乏しい印象だ。そして、最愛の妹も死んでしまったあと、主人公は作家として成功してはいても、その描写はあの夏に比べて、モノトーンに沈んだように感じる。
だが、遂に30年後、彼女は殺人犯と対峙し、父親の残した大きな秘密によって、救われる。体も、心も。
作者の謝辞によって、これが実際に起きた「山腹の殺人鬼」と呼ばれた連続殺人事件と警察官の娘たちをモデルにしたと知った。しかし、これはノンフェクションではない。女の子に大人になる前にほんの短い間訪れる、キラキラした日の物語だ。
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ジョイス・メイナードって、「ライ麦畑の迷路を抜けて」以外にこんなの書いてるんだ?! あの彼女だったら、面白くないはずがない。
丁寧に展開される話は、現実に起きた犯罪に材を求めているだけあって、陰湿で重い。
それを追う刑事とその家族、2人の娘。
家族の物語であり、姉妹の物語でもあり、ローティーンの少女の物語でもある。
読み応え充分。