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『#人類と気候の10万年史』
ほぼ日書評 Day712
カーボンオフセットやガソリン車廃止等の「温暖化対策」には全く意味がない…という結論にも至りかねない、驚きの現実が明かされる一冊(無論、著者の主張はそれではない)。
地質学的に見た場合には、現在問題になっている「温暖化」というのは、非常に気候の安定している、いわば例外的期間における微小な変動でしかないというのだ。
今日問題となっている温暖化とは百年に数℃というもの。一方で、氷河期と間氷期の境目においては、わずか数年で平均気温が7 ℃も上昇した形跡が認められる。7度といえば、東京が沖縄になり、モスクワが東京になるレベル。
こうした大変動が10万年周期と2万3千年周期の組み合わせで起きている。
前者は地球の公転軌道が楕円と真円に近い形の間を行き来する期間。後者は地軸の傾きが1回転する期間(歳差運動周期)。これにより、地球と太陽の距離が近くなったり遠くなったりし、夏に近ければより暑くなるという単純な話だ。
これは理論上だけの話ではなく、きわめて状況の安定した湖の堆積物(著者が主に研究しているのは、福井の水月湖で、7万年分の「年縞」と呼ばれる堆積物の年輪のようなものが湖底に保存されている)を調べることで、実際にあったことが証明されている。
具体的には、湖底の堆積物をボーリングし、含まれる花粉や落ち葉の化石を調べることで、当時の草木の植生が手にとるようにわかり、その背景にある気候変動も明らかになるのだ。
さらに、こうした「年縞」を標準の年表とし、放射性同位体の多寡と組み合わせることで、異なる地域間の年代特定も可能となり、同湖から得られた情報(気候変動の証左)がこの特定地域だけに限定されるものではないことも証明されるという。
この万年単位の変動が、徐々にではなく数年程度のスパンで発生する(前述の数年で7℃)となった場合に、多少の差はあれ気候の安定を前提とした農耕に支えられる現代文明は極めて脆いものとなる。
そこまでの規模でないにせよ、マヤ文明は9年の間に6度の飢饉(降水不足)で滅びたし、日本も1993年細川内閣当時のコメ凶作で国内備蓄では間に合わず「タイ米」を緊急輸入したことなど、評者世代には記憶に新しいところ。
本書で警鐘の鳴らされるような事態を想定外とするのではなく、可能性としては考えておく必要がありそうだ。
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いやー面白かったし、自分の教養が深まったと実感できる本。異常な温暖化が注目されるけど、今後注意すべきは氷期なんだね。
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福井県の水月湖での研究結果から、過去の気候変動について解き明かす。そして未来がどうなっていくのかについて論じる。
いずれ寒冷期が来ると思う、生活は大変なことになるなあ。目先の温暖化ではなく、大きな時間の流れから物事を考えるための一冊です。
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あつかうテーマの壮大さ、面白さ、さらに読みやすさから、全ての人にお勧めしたい2017年発行のブルーバックスの1冊です。
本書があつかうのは古気候学。有史以前の気候変動を解明する研究で、基本的には地質学の一分野。解明する手段としては、放射性炭素法、花粉分析、年輪年代学などがありますが、本書が主題とするのは福井県にある水月湖の「年縞」です。
年縞とは、湖底などの堆積物によってできた縞模様のこと。
水月湖の底には、7万年以上の歳月をかけて積み重なった年縞があり、いくつかの奇跡が重なってできた世界的に珍しい貴重なもので、考古学や地質学における年代測定の「世界標準」になっています。
縞模様は季節ごとに異なるものが堆積することにより形成され、春から秋にかけては土やプランクトンの死がいなどの有機物による暗い層が、晩秋から冬にかけては、湖水からでる鉄分や大陸からの黄砂などの粘土鉱物等によりできた明るい層が1年をかけ平均0.7mmの厚さで形成されます。したがい、年縞に含まれる花粉の化石を調べれば、当時の植物分布がわかるし、現在の表層花粉と比較分析すれば当時の気温も推定できることになります。
著者の中川毅さんは立命館大学古気候学研究センター長。水月湖底の年縞を世界標準にしたプロジェクトのリーダーであり、「時を刻む湖」(岩波科学ライブラリー)の著書もあります。
地球は365.25日かけて公転しますが、その軌道はおよそ10万年の時間をかけて、円くなったり長細くなったりを繰り返します。一方、南極の氷に含まれる酸素と水素の同位体比から復元した、過去80万年の気候変動を見ると氷期と温暖期は10万年ごとにリズミカルに繰り返しています。大雑把に言えば、公転が円い時期は氷期であり、細長い時期は温暖期となります。
しかし、水月湖の湖底から見える風景はもっと複雑です。
○氷期と間氷期が繰り返す中、人類誕生以来、その歴史の大半は氷期だった。
○現代の温暖化予想は100年で最大5℃の上昇だが、今から1万1600年前、わずか数年で7℃にも及ぶ温暖化が起きていた。
○東京がモスクワになるような、今より10℃も気温が低下した寒冷化の時代が繰り返し訪れていた。
○温暖化と寒冷化のあいだで、海面水位は100メートル以上も変動した。
○縄文時代の始まりは日本における温暖期の開始時期
○平均気温が毎年激しく変わるほどの異常気象が何百年も続く時代があった。
○氷期の終わりは世界的な農耕の拡大時期
○夏の日射量が、中緯度の気候を左右する決定的な要因のひとつ。日射量は23,000年で一巡する歳差運動に影響する。夏の日射量が多い年は温暖となる
さらに、「氷期が終わって気候が安定してから、今まですでに1万1600年もの年月が流れている。古気候学の知見によれば、過去3回の温暖な時代はいずれも、長くても数千年しか持続せずに終わりを迎えた。つまり今の温暖期は、すでに例外的に長く続いているのである」という恐ろしい見解もあります。
そして著者は「不測の事態を生き延びる知恵とは、時間をかけて『想定』し『対策』することではない。(中略)必要なのは、個人のレベルでは想定を超えて応用のきく柔軟な知恵とオリジナリティーであり、社会のレベルでは思いがけない才能をいつでも活躍させることのできる多様性と包容力である」と断言します。
とにかく面白いブルーバックスの科学読み物。老若男女全ての人にお勧めしたい本です。
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人の一生からは想像できない時間軸・自然を相手にした謎解きを読んでいるようで面白かった.
地球はこれまでどのような気候であったか.それを踏まえ未来,人類はどのような気候に相対することになるのか.
この複雑で難解な問いを紐解いていくにはまず,過去の地球・地域の気候を明らかにしていく必要がある.
長い年月をかけて蓄積した福井県の水月湖の湖底に眠る年縞は,この難解な問いに対して世界で認められた正確で緻密な物差しを与えてくれている.
この年縞は現代から遡って約7万年という長い期間に対する非常に正確で緻密な史料を提供してくれており,本書ではその例として放射性炭素年代測定におけるキャリブレーションの提供,年縞に積もった花粉の分析による年代ごとの植生の推定,その他各年代ごとの雨量や気温の推定といった成果が説明されている.
そのほか,地球の気候変動の規則性を推し量る理論であるミランコビッチ理論などが紹介されており,地球の気候史の概観が与えられている.
当然であるが地球の気候は非常に複雑な系の一つであり,単純な線形変化や周期変化だけでは説明ができないカオス性がありつつも,年縞をはじめとして徐々に解像度が高まっている過去から現代に続く気候史を俯瞰することで,現代の気候が置かれた現在位置や,一つの可能性として伺えるシナリオ,現代の人類が気候に影響を与えているかどうかに対して示唆を与えている.
人間の経済活動がもたらす気候変動の懸念に関する意見を耳にすると,気候変動にはさも人間だけが影響を及ぼしており,人間の活動が自粛されれば,過去の姿,期待する姿に戻るかのような錯覚を覚えるが,実態は全く異なっていることが改めて理解できる.人間の活動が環境に影響を与えていること自体は否定し得ないが,それがさも気候変動の主原因であり,人間の努力でなんとかできる・すべきであるという考えは,人間中心主義的な傲慢さの表れれはないかと改めて感じる.
一方で気候変動がもたらす経済や生活への影響は現実問題として無視できない.気候の変動性に対する”反脆弱さ”が求められていると思う.
水月湖には年縞をテーマとした博物館があるらしい.是非行ってみたい.
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“自然科学は善悪の判断には本質的に無力である”
古気候学:有史以前の気候が研究対象.地質学の一分野
年縞:1年に1枚ずつ堆積する薄い堆積物
福井県の水月湖:最も長く連続した年縞体積が見られる世界でも有数の場所.いわば地質学の定規「年代の目盛り」
地層に残された遺物→「何が」はわかったとて「いつ」がわからなかった.例:恐竜が反映していた時代の推定には人間にとって永遠とも言える数万年もの誤差がある
「気候変動」という言葉は80年代.ほとんどのメディアで取り上げられていなかった森林伐採や水質汚染がトレンドだった.
★10年後,20年後「温暖化は一過性の環境活動ブームネタに過ぎなかった」と行っているかもしれない.そのときは別の問題を話題にしながら���
★思い返せば「オゾンホール」という話を全然聞かなくなったな.
★負い目を感じさせてその罪滅ぼしとして商品を買わせる。企業のプロパガンダのレトリック
放射性炭素年代測定
・炭素は同位体により3種類存在。
・そのうち一つ(C14)だけが放射能を持ち時間の経過とともに減少する
・この減少する炭素を、減少しない炭素の量を比較することで経過時間(年代)を推定する
・c14は5万年でなくなってしまう。5万年しか計れない
・誤差がどうしても発生。標準時計にはなり得ない
物差し=c14年代を正確な年代に読み替えるための換算表
ケッペンの気候区分
→気候を区分けする分かりやすい目安が気温と雨量
→ケッペンはこれに景観(植生)を持ち込んだ
→腹落ち感があり、今なおその根幹が活きる気候区分
ミランコビッチ理論
地球の公転軌道の離心率の周期的変化、自転軸の傾きの周期的変化、自転軸の歳差運動という3つの要因により、日射量が変動する周期
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堅いタイトルであんま読む気にならないなーと思ってたけど中身は面白い。
十万年ごとに氷期と温暖期を繰り返すとか、1970年にはどんどんさむくなっていくと学者は考えていたとか。
研究に対しての情熱も熱い。
著者自身は過去を知るために、そのことが楽しいからやっている。
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古気候学・地質年代学の導入として,主に水月湖に堆積する年縞の研究について説明される。ミランコビッチ理論との関連も面白い。