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18世紀から19世紀にかけて作られた解剖学的に正しく分解できる精緻な蝋製の人体模型の歴史や意義を豊富な図版366点と共に紐解いていく。本書で取り上げられているのは女性の体を人体模型として造った「解剖学のヴィーナス」。当時は人体解剖はおぞましく、倫理的にも問題とされていたため、人体を切り開くことなく解剖学的構造を教える手段として造られた。人体の構造を知ることは神が造った人間=小宇宙を知ることでもあった。「解剖学のヴィーナス」はどれも安らかな、見方によっては恍惚とした表情を浮かべている。グロテスクな体内を見せながら美しい寝顔を晒しているような様は酷くアンバランスであり、しかしながら奇妙な美しさ、死せる官能性を宿して見るものを惑わせる。女性の裸体や性が今よりずっとタブー視されていた時代、「解剖学のヴィーナス」は男性の性的な欲望を満たす側面も持ち合わせ、表面的には医学的知識(主に性病や出産)の啓蒙を装いながら見世物へと発展していく。移動式遊園地では公開解剖も行われたらしい。また解剖学はメメント・モリの思想と結びついていたが、やがてそれは不死の憧憬、人形愛と結び付けられていく。「解剖学のヴィーナス」は宗教、医学、科学、芸術が生んだ歪な美神なのだ。一体、私も欲しい。