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『スタニスワフ・レム・コレクション』も本書で完結した。ずいぶんと長かった……。まずは完結したことに安堵しているw
完結編となる本書には、初期の長編とメタフィクショナルな短編が収録されている。後者はレムをコンスタントに読んでいる人ならば好物だろう。また、初期長編『主の変容病院』に関しては良い意味で予想外だった。
未訳の長編や現在では入手困難なものもあるので、その辺りを拾い上げてくれる版元が何処かに無いものか……?
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一人レム生誕100年祭り開催につき国書刊行会のレム全集完結巻を読む。
「主の変容病棟」
レムのデビュー作にして非SFである作品はドイツ軍占領下にあるポーランドの精神病棟を舞台にしています。主人公であるステファンは叔父のの葬儀に参列した際に従兄弟から精神病棟の医師の職を紹介され働くことになります。占領下という理不尽な環境におかれているため職もなく生き方も定められない状況は、今日のコロナ禍の世の中と共通するものがあるのではないでしょうか?ついには病棟にまで親衛隊の手が伸びてくるわけですが、無慈悲な選択をしなければならない医師たちの苦悩についても、レム自身が経験した世界をリアルに描写しているため薄ぺらではない非常な恐ろしさに満ちています。冒頭が理屈っぽく感じられましたが、病棟にきてからのエピソードは「ソラリス」を思い起こさせます。やはり最初からレムはレムだったのですね。コロナとの戦いはいわば侵略者との戦争に等しいもの。政府の対応が甘いとか他人事のような評論をしている場合なのでしょうか?自分事としてとらえないとコロナ親衛隊に連れて行かれます。
「挑発」
架空書評の作品が2編。ジェノサイドが80年代に発表されているのですが、ナチスの大虐殺から始まり21世紀のテロの横行を予測していて恐ろしい。
「21世紀叢書」
宇宙論に関する考察である「創造的絶滅原理」など、SETIを経てなお地球外文明をとらえていない謎を考察する。これも80年代の作品ですが、いまだ最先端をとらえているのではないでしょうか?SFを読む以上に衝撃的。
「二十一世紀の兵器システム、あるいは逆さまの進化」での現行のAI開発の方向性への批判はまさしく目から鱗。レム凄すぎ!
全集完結後の心配はこの後に読むSFの全てが薄っぺらくもの足りなく感じてしまうのでは?ということです。
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主の変容病院と架空の本の書評から成る。
病院の方は新人医師の体験談のような内容だが、家族・親族との交流、病院医師間のやり取り、患者、詩人との会話がまとまりないように感じた。最後のドイツ軍の侵入で話が引き締まるが、放り出されたように終わってしまう。
架空本の書評はそういう体裁をとった評論。晩年期の作品だけあってよく練れている。無敵のアイデアがあるように、どれもSF作品になりうるアイデアで興味深い。