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大英博物館にこもって万巻の書物の内容を書き写した熊楠の話を聞いて、より深く知りたくなったので。40歳まで童貞、粘菌の研究、オカルティズム、奇行、天才、酒好き、白人を殴り倒す、衆道、下ネタ猥談、生々しい姿が伝わってくる。河東碧梧桐や稲垣足穂、澁澤龍彦らによる寄稿、エッセイが嬉しい。思考の源泉を辿る一冊だ。
西欧的ロゴス、論理と東洋的レンマ、直感の対比。ロゴスによる論理は言語の統辞論的構造に結びついていて、顕在化している諸項を原因と結果の連鎖(因果関係)によって結合することにより真なる言説を見出そうとする。これに対して、東洋の思考方法は、世界の事物が縁起のネットワークでつながっていると言う思想。因果関係は解説可能な一部にしか過ぎなく、それを補完する意味で縁起が存在すると言うレンマの論理。これを、熊楠は、やりあてと呼んだ。科学的に説明が出来ない原理をオカルティズムで追求。
鈴木大拙は、心の奥底に孕まれている如来蔵であるアラヤ識から森羅万象あらゆるものの産出と帰滅を説く、如来蔵哲学を中心に据えた大乗仏教論を構想。南方熊楠も、同様に。熊楠は孤独な隠者のような生活。寂しい限りの生活の中で南方熊楠はどんどん自分の脳力が高まるのを感じていた。
読み終えて気付く。きっと、羨ましいのだ。自然体に生き、知に触れ続けられる生き様が。