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須磨~松風までの巻。都を離れた源氏がまた都に帰ってくるまでが描かれている。なんの罪のないのに…と言っているけれど、いやいや自分で蒔いた種でしょ? と思ったのは私だけだろうか。
明石の君もなかなか素敵なヒロインで、田舎で箱入りに大事に大事に育てられたのに、源氏のような身分の者には、自分なんか大した事ないに違いない、と思っている様が浮ついていなくて最初から好印象だった。
でも、そんな彼女でもやはり源氏と恋仲になり、自分の身の上もおぼつかないままに契りを交わしてしまう。このあたりが紫式部の本当に絶妙な匙加減であり、まったく思いのままにいかないリアルである。源氏に都に来なさい、丁寧にもてなしてあげるから、と言われてもかたくなにそれに応じず近親の屋敷に落ち着くところなども、最高にリアルだ。源氏を頼るしかないのに、ぜんぜん頼りにできないのだ。
それにしても、源氏物語を読んでいると、紫の上がかわいそうでならない。
源氏に頼らなければどうにもならないのは紫の上も同じだけれど、彼女はそのレベルが違う。源氏を好きになるしかないし、浮気だってその結果生まれた子供だって、彼女は許して受け入れるしかないのだ。そうでないならば、彼女は生きていくすべがない。源氏と紫の上の関係は、紫の上があまりに不利である。
一方で、末摘花のようになんのとりえもなく、なんの素養もない人間が源氏のおかげでようよう生きていけているというのも皮肉である。
彼女は美しもなければ教養もセンスもない、本当にないない尽くしで書かれているのがリアルで、私はこういう女性像を紫式部がちゃんと書いてくれているのが嬉しい。
どのような道を選んだとしても人間の悩みはつきず、どのような人間に生まれついても悲しみは絶え間なく襲ってくる。それでも運不運はあるというのが残酷である。