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反ワクチン活動の影響を受けているのはイングランドとアメリカだけではない。複数の研究で百日咳にかかる確率は反ワクチン運動で予防接種を中断した国(スウェーデン、日本、ロシア連邦、アイルランド、イタリア、オーストラリアなど)では中断していない国(ハンガリーとポーランド)に較べて10倍から100倍高くなっているのが明らかになっている。
反ワクチン運動が始まったのは1973年のロンドン、小児科医のウィルソンはDTPワクチンの副作用として50人の子供達の内22人が精神障害かてんかんを発症したと発表した。この結果79%あった接種率は77年には31%に急落し、10万人以上が百日咳にかかり、5000人が入院し200人が重症化し36人が死亡した。しかしこの死者数はワクチンを勧めなかった家庭医が死因を正確に報告しないことで歪められていた。ほとんどの場合呼吸器疾患として百日咳は言及されず、200例は乳幼児突然死症候群SIDSとされていた。実際の死亡数は600人だった。
適切なコントロール群を用いてリスク評価を行ったというミラーの研究によればDTPワクチンを3回接種した子どもの1万人に1人が永久的な脳損傷を起こしたという。しかし驚くほど多くの訴訟を起こしたこの研究は追試の結果完全に否定された。ウィルソンの報告の内2人は問題となった百日咳ワクチンは打っておらず、ミラーの研究報告もすべてのデータが揃う前に発表されていた。脳損傷を受けたとされた7人の内3人は正常で、3人はウイルス感染が原因で残る1人はライ症候群だった。
反ワクチン運動の拡がりはイギリスの研究に答えが出る前、1982年NBC系のドキュメンタリー「DPTーワクチン・ルーレット」から始まった。この番組を企画したリア・トンプソンはのちに様々な賞を受賞したが、この放送は不適切なあるいは誤った引用や畑違いの専門家を用い、ワクチンが原因でてんかんが発生するという印象操作を行い、百日咳のリスクを過少に見せるものだった。CDCの指摘に対しトンプソンは「この国では百日咳はほぼなくなりつつあります」と主張したがこの年3000人が入院し10人が亡くなっている。その後の結果は上に書いた通りだ。
この本の主人公とも言えるバーバラ・ロー・フィッシャーはこの番組を見て息子が4回目のDTPワクチン接種を受けた夜に容態がおかしくなったことを思い出した。同じく番組を見たキャシー・ウィリアムズ達と共に立ち上げた「納得できない親の集い/DPT」は後に全米ワクチン情報センターと名を変え怒れるフィッシャーはこの後30年アメリカの親たちにワクチンは言われているよりもはるかに危険なものであると納得させるためにエネルギーを使いそれは成功した。
ワクチンに副作用はつきものだ。例えばサビンのポリオワクチンはウイルスの培養を繰り返し弱毒化するものだが250万回に1回ウイルスが増殖しアメリカでは毎年6〜8人が罹患した。薬品で不活化するソークのワクチンを使えばこれは避けられた。卵で培養するインフルエンザワクチンは卵アレルギーがある人には打てない。反ワクチン運動がこれらの避けられるリスクを攻撃するのは正しいことだ、新しいワクチンに対し疑念を示すのもいいだろう。この本にも問題のあったワクチンの製造例が示されている。しかし個人的な体験をもとにワクチンが原因だと信じ込んだフィッシャーの運動はワクチンのリスクを課題評価する一方で感染症のリスクを過小評価している。
例えばインフルエンザの致命率は0.1%以下であり避けられるワクチンのリスクを考えれば打たないという選択には合理性がある。しかし過去最悪のインフルエンザ、スペインかぜでは推定5千万人以上が命を落とした。こうなれば多少効果に疑問があっても普通はワクチンを打つだろう。ここで問題となるのが感染した場合の重篤化の割合と共に感染の規模だ。免疫を持つ人の割合が増えれば感染者が発生しても流行しにくくなる。フィッシャーの運動はこのは集団免疫を破壊した。例えばポリオは一部の国を除いてはほぼ根絶され日本でもほとんどの人が免疫を持っているので誰かがワクチンを打たない選択をしてもまずポリオにかかることはない。しかし、同じ考えを持つ人が主流になり集団免疫がなくなればどうなるか。海外からウイルスを持ち込まれた場合にポリオが流行する環境が整ってしまっている。
著者のポール・オフィットは日本語版への前書きで厚生省がHPVワクチンの推奨を差し控えたことに言及している。毎年日本人女性1万人が子宮頚がんにかかり、3000人が亡くなっているが思春期の少女たちのワクチン接種率は1%以下だ。ワクチンはHPVによるガンの85%を防ぎ、認可後に100万人を対象にした調査でワクチンが原因とされたと主張される病気は起こっていないにも関わらず。HPV自体はありふれたウイルスで、通常は性交渉により感染し、ほとんどは自然治癒するが一部のウイルスが生き延び20年以上かけてガンを発生させる。ちなみにHPVウイルスが引き起こす代表的な他の症例はイボだ。
フィッシャーは製薬会社がHPVワクチンのデータを捻じ曲げたと主張し「ふしだら注射」「浮気者のワクチン」と呼んだ。ワクチンが重篤な障害を起こすというフィッシャーの主張に対しCDCが1万件以上の報告を分析した結果ワクチンが原因と認められる症例はなかった。フィッシャーの主張で最も不誠実なものはワクチンが原因でガンになるというものだ。しかしHPVワクチンには遺伝子は含まれていないのでガンを引き起こすことは不可能だ。2009年までにHPVワクチンは3000万回以上摂取され深刻な影響は見られなかった。
ワクチンの副作用は当然考えられるし、避けられるリスクだ。ワクチン接種後に身体に不調や障害が発生すればそれがワクチンが原因だと直感的に思うのも当然だろう。反対運動のエネルギーは個人的な体験とアメリカの場合では訴訟を持ちかける弁護士やメディアだ。それは理解できる。一方で副作用の程度が軽いワクチンを打つことで感染というリスクを避けられる。ワクチンの安全性の検証は対象となる数が多いので一般的には他の薬よりも広く行われている。こちらは副作用に対し他に原因がないか、ワクチンを打たない対照群との有意差を比較して判断する。HPVなどは集団免疫は獲得できないのでどちらのリスクを取るかは個人の判断でいいと思うが、20年後にガンになるリスクとメディアで報道される激しい痛みという副作用の可能性を見れば思春期以前にワクチンを打つと決断するのは難しいだろう。だいたいは感情に訴えた方が勝つ。それでも百日咳や麻疹など集団免疫の破壊は公共のリスクを増すという証拠がはっきりしており、集団予防接種を止めるべきではないというのが明らかだ。
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①感染症が猛威を奮う
②ワクチンが福音として歓迎される
③感染症が激減
④実在非実在の副作用が注目される
⑤ワクチン忌避が広がる
⑥感染症が再興,予防できた病気で人が死ぬ
19世紀の天然痘から21世紀のHPVまで繰り返されてきたこのサイクル。いい加減人類は学ばなくてはならない。
本書は主にアメリカにおける反ワクチン運動の歴史がまとまっていて,「百日咳ワクチンによる脳症」や「風疹ワクチンによる自閉症」等の疫学的に誤った(捏造された)情報が,集団免疫をいかに脅かしてきたかを書いている。保護者の素朴な(自然崇拝的)感情をゆさぶり,あるいは集団免疫へのフリーライドを推奨する反ワクチンの言説は,あまりにも無責任で,その割に影響力は大きく,社会運動というものの危うさを痛感する。もちろんワクチンが完全に安全だということはなく,過去にはポリオワクチンやBCGの製造ミスで多くの人命が失われた事件もあったし,最近不活化ポリオワクチンが普及するまでは,ワクチンで稀にポリオに罹患することは許容されてきた。しかし主流の反ワクチン運動は,こういった本質的なワクチン問題を指摘するのではなく,知的障害や自閉症といったより「一般受けする恐怖」で人々を脅すのだ。ワクチンに関係なく一定の割合で起こる病気が,ちょうど接種時期に判明しやすいというだけで,弱者に寄り添う社会運動によってそのワクチンのせいにされ,死ななくて良かった命を奪っていく。
強制接種と宗教的・思想的忌避,公教育や職業の前提としての接種,そのあたりの経緯も詳しい。個人の自由と公衆衛生にいかに折り合いをつけるか,これからも試行錯誤は続くのだろうか。
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子供の時に予防注射をやったけれど、それでどうこう言うことは無かったと思います。
いつの頃からか、予防注射をすることに疑問が持たれ、
接種しない風潮になっているようですが、正しい選択なんでしょうか?
予防接種・ワクチン接種をしたことでほとんど撲滅した病気の怖さを今の世代の人は知りません。
本当に病気にかかるリスクと ワクチンの接種によるリスクが、多くの親に正しく認識されることは重要です。
全然知らない内容なので、ぜひ知りたいと読み始めたのですが・・・、
本書では、子供が病気で苦しむ話から始まったので、途中までしか読むことができませんでした。
・ ロタウィルスワクチン
参考 http://www.miyacli.com/vaccine/aboutrv.html
予防接種(ロタウィルスワクチン)について - 医療法人社団俊智会 みやたけ 』 :
2018/7/5 予約 7/15 借りて読み始める。最初の方だけ読んで中止。
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これは社会学の観点で難しい本。3種混合(DTP)のうちの百日咳ワクチンの効果と副作用に関する科学的な研究と、英国を舞台にした訴訟の経緯。だが、これを一般大衆に話してもどうにもならない。専門家の集まりとして、ワクチンと副作用の関係を真摯に研究し、科学的に真実を追及してもらうのが唯一有益な未来につながる方法だろう。
ワクチン、の一言で丸めてしまっているが、インフルエンザワクチンと3種混合では効果も位置づけも全く違う。民衆が皆賢くなって受けるべきワクチンと忌避すべきワクチンを峻別せよ、とは無理筋。この本を読んで、「ああ、これで安心してワクチンを受けられる」なんて思う人がいたら相当におめでたいと思うが、いかがか?
一般に医療分野は製薬と結びついて利権化しやすい。薬害スキャンダルが後を絶たず、保険制度に胡坐をかいて医療費の増大を率先して進める人の集まりという見方もむべなるかな。反ワクチン運動を推進し医療分野を批判する勢力は、社会全体で見て決して悪い存在ではない(悪徳弁護士を除けば)。
反知性主義の歴史を知れば、この本自体が壮大なミスコミュニケーションの産物であることが理解されよう。
>ワクチンに副作用はつきものだ。
これは一市民として許容できない。現時点の科学や医学では達成できなくても、将来的に副作用ゼロの方策を実現する執念を持ってもらわねば専門家集団として価値はあるまい。専門家集団はあまねく、飛行機事故をゼロにしようとする航空業界の努力を見習うべきだ。
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ロタウィルスワクチンの開発者でもある。
先の『代替医療の光と闇』に続いて非常に分かりやすくまとまっている。
反ワクチン運動が如何に発生し、そのエビデンスのない恐怖がどのように広がって、また広げられていくのか。
米国の場合、宗教や思想による拒否が認められるために非接種者が自由を得ている現状もあるよう。
非接種が自分とその子供だけではなくコミュニティに対してリスクを与えているというのは知る必要がある。
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反ワクチンの考えはどのように作られるか?
ということに興味があって読んでみた。
エビデンスの無い主張を広めるには…都合の良い専門家を引っ張ってくる!専門家の言葉には説得力があるので…
専門家の言ってることが確かなことなのか、それを見極めるのは難しいことだけど必要なことだと思った。